カリン:旅人
古い家屋を覗く。読めそうな本、使えそうな小物家具、銀器や衣服を漁り、戦車に積む。数百m進み、また止まる。
古い家屋を覗く。小さな家電、工具箱、嗜好品や硬貨を漁り、これも戦車に積む。
「なぁ、かなりの量になったぞ」
「あんまり漁られてないね。もしかしたら需要は無いのかも」
ハチが細かく息を吐いて荷台の隙間に座る。住宅地も疎らになり、木々が一気に増えた。今は山で、山の向こうには山が見える。旧い地図によると、この先に水力発電所があるらしく、それならコミュニティがあると予想し、今はもの拾い中だ。
「自給自足をしてるとか?」
「かもね」
「売れなかったらどうするんだよこの量」
「何処か1箇所にまとめて隠すかな」
漁られてない理由は幾つかある。今もの拾いをしている環境の問題。コミュニティ側の事情。どっちも有り得る。
戦車の横を歩く。回収品は戦車の高さ位積み上げた。坂道を登る。固定紐が軋む。
「これで売れないとかあるのか?」
「全然ある。質とか、需要とか」
「泣く」
「泣くの?」
「あぁ、俺は涙脆いんだ」
―――
山の隙間を縫うような道を進んでいると、山に囲まれた、建物の多い平地が出てきた。微かに生活の音がする。
ホルンが戦車を止めて降りる。ハチが不思議そうに戦車とホルンを交互に見る。
「え?置いてくの?」
「下見」
「なんで」
「要らないのに運んでも邪魔じゃん」
孤立した建物の影に戦車を隠して鍵を掛ける。畑や田んぼが並んでいて、その中に人が動いていた。ホルンが手を口に添えて声をあげる。
「すいませーん!!」
中年の男性が腰をあげる。
「誰やー!!?」
「旅のものでーす!!ここって、寝泊まり出来る場所、ありますかー!!?」
「あるでー!!」
「近寄って話せば良くね?」
ハチが隣で小さく言う。確かにと思った。
「ありがとうございまーす!!」
中年の男性が大きく手を振る。ホルンがお辞儀をするので僕もする。ミズキも頭を下げ、ハチが手を振り返す。
再び歩き出す。生ぬるい風が吹いて髪が揺れる。少し汗を流したいなと、そんな事を考える。
「ハチは、ここ来たことあるの?」
「無いな」
「あんたの旅って貧乏旅でしょ。宛にならない」
「何を!否定できん!」
「あんた、宿とか泊まった事ある?」
ハチはただ口角を引き伸ばしただけの顔をする。
「無い」
「……わ、私も、無いです」
ミズキが乗っかってきた。ハチがにやりとする。
「ミズキ、このふたりが最高な宿を探してくれるとよ」
「え、あの……ありがとうごいます」
ミズキが噛んだ。ホルンが小さく息を吐く。
「はいはい。あるといいね」
ちらりちらりと人が増える。当然見られる。見られてる気がしてそちらを向くと、大概視線が合うから、やっぱり僕だろう。ホルンが人に話を聞きに行き、僕らは待つ。
「宿はあっちで、市場はあっち」
ホルンが指さしで方角を教えてくれる。
「先に宿取ろっか」
「ところでよ、なんで宿なんてあるんだ?俺ソロ旅だったから知らねぇけど、そんな旅人っているのか?」
「私たちみたいなもの拾いをはじめ、人の往来が物も情報も運ぶから。少なくとも私達が通ったコミュニティは大概あった」
「ふーん」
ホルンの言った通り、集合住宅を改装した宿があった。受付らしき隣の木造の建物に入る。
「ごめんなさい。ここは今満室なんです」
「マジかよ」
「ここって、他の宿ってありますか?」
「このコミュニティでは、宿はここだけですね……」
「満室なんてあるんだ」
「なんでも、海峡の化け物退治で人を集めてるとか」
「……あぁ」
そういえばそうだ。自分たちですらそれのために来たのに。
「どうする?」
「別に野宿でもいいし、離れた空き家で寝るくらいなら別にね」
「なんだよ、それじゃいつもと変わんねぇよ。なぁミズキ」
「えっと……」
無駄な問答をする僕らの会話に、受付さんが入る。
「皆様は、どのようなご予定でここに?」
「その、例の化け物退治に参加しようかなと」
「でしたら、最近は毎晩面接をしていて、落ちた人が帰ると空席になるんです」
「面接、ねぇ」
ホルンが唸る。随分とちゃんとしてるなと、僕も思った。公的な話なのだろうか。
「つまり、今夜はその面接で動き、空き部屋を確保しに行けばいい訳だ」
ホルンが僕に顔を寄せて耳打ちする。
「……どう?乗り切れると思う?」
「……わかんない」
「……カリンの判断に任せるから」
「おっ、密談だ。とにかく今は、物を売りに行こうぜ」
ハチが建物を出る。受付さんにお礼を言って僕らも外に出る。




