ミサクボ:無音
旧市街に仕掛けた感圧版のひとつが作動したのを伝えるランプが小さく光る。エアライフルのボンベを調整し、予測方向の窓に向かう。
ペレットを幾つか床に置く。スコープのゼロインをし、予測位置に一発撃つ。クロスの真ん中の草が小さく跳ねた。
徒歩ならばもう少し時間がある。窓際の蔓植物を近くに寄せる。
終末、化け物、虫。それを殺す事が俺のセカンドライフだと、そう思っていた。東京を取り戻そうとしているコミュニティが居ると聞いて遥々やってきた頃には、それは既に果たされていて、俺は今、旧市街でものを拾う人間を撃っている。その方が金になるからだ。
ガスマスクの口を布で巻く。音を殺す。エアライフルを固定し、その道路に獲物が来るのを待つ。
草が揺れる。虫の影が地面を過ぎる。昔、こういうイラストを見た記憶がある。なんと馬鹿馬鹿しい妄想なのだと、その時は笑っていた。蔓植物がスコープの端に映る。
裏路地から1台の自走砲が出てきた。見たことない形だ。オープントップで、戦闘室に1人、後ろに2人。
荷物は多そうだが、どこか奇妙だ。全員若い。男2人が後ろに座っているが、一人は隻腕で夏なのにマフラーを巻いている。見るからに重そうだ。よく見るとガスマスクをしていない。
運転手の女、後ろのもう一人はガスマスクをしている。
もの拾いでは無い可能性がある。旅か、何にしても気味が悪い。だが、あの自走砲は金になる。拾い物の旧式エアライフルなんかより、もっといい武器が買えるかもしれない。
子供だ。だがそれはこの旧市街じゃ理由にならない。
スコープ越しにセーフティを外す。ボルトを引いて照準を運転手の女に合わせる。
こちら側に進む道を自走砲が進む。ゆっくりとズレる女の肩に合わせて引き金を引く。ガスが小さく抜ける音。
女が少し揺れて血が飛ぶ。少しだけ内側にズレたが致命傷では無い。自走砲が止まる。
女が咄嗟に伏せた。隻腕もすぐに自走砲の後方に隠れた。もう一人の男の方が隻腕に掴まれて自走砲の後ろに消える。2人は慣れてる。もうひとりは分かってない。どちらにしろ、女が運転席に伏せたのは悪手だ。
コッキングをしてすぐに照準を合わせる。女は動かない。2人が後ろに隠れた以上、女は伏せながら動かすのはしないだろう。
後ろに隠れたどちらかが出てくるか、反応を待つ。
蔦植物がスコープを更に塞ぐが見える。問題ない。風を読む。
自走砲の助手席から別の女が出てきた。少し白髪混じりだ。こいつもガスマスクをしていない。今まで伏せていたのか?何故?
助手席に狙いを定める。予想通り肩を撃った女が出てきた。囮のつもりだ。
ガスマスクの男も出てきた。白髪混じりの女を庇おうとしている。
引き金を引く。ガスマスクの男の腿を抉る。白髪混じりの女の方には当たらなかった。
自走砲の座席に穴が空いた。やらかした。荷台に血が付く。男が地面でのたうち回る。白髪混じりの女がそれを見て怯えた顔をした。
コッキングする。照準を合わせる。蔓植物は動かない。風はない。
半分負傷させた。恐らくすぐには動けない。あとは殺しても問題ない。
白髪混じりの女と目が合った。方角はバレてるだろう。だが、偶然か?
引き金を引く。外した。ブレた。いや、それは間違いない。今のは俺のミスだ。
だがあの女。引き金を引いてから伏せたのか。
コッキングする。弾を込める。スコープを覗く。白髪混じりの女は既に伏せている。負傷させた2人は既に隠れられた。
だが自走砲の前で、マフラーの男が立ってる。辺りを見回していたそいつが、首に巻いたマフラーを右手に持った。
照準を合わせる。マフラーを持ったそいつが、くるくると回り出した。
マフラーを大きく回しながら、片脚ずつ足をつく。全身を回転させながらうねらせ、まるで拙いバレェを踊るように、俺から見て横に動く。1歩。1歩。1ーー
ゴォン!!!!
揺れた。俺は伏せたのか?エアライフルから手を離し、頭に手を置いて姿勢を低くしていた。動いた記憶はある。
何をされたか分からなかった。2つ横の柱が崩れている。パラパラと小さな瓦礫が落ちる音がする。蔓植物が揺れた。エアライフルは無事だ。だが、もう一度顔を出す勇気がない。
何かを飛ばした?柱が崩れる威力で?何を?どうやって?
手を出したらダメなものだった。今日の俺はツイてない。窓枠のエアライフルを取る。ガスボンベを外す。撤退だ。
■エアライフル
旧時代に鉄砲規制の強かったこの島で、終末後に普及した銃器。火薬を用いず、ボンベによる空気圧を使いペレット(弾)を撃つ構造になっている。
「東京奪還」時代に作られ、技術は各地に広がったが、生産数は多くない。
虫や虫喰いに対する自衛手段として、単発式の銃器は役に立たない。
銃を持つ人間は、動物を狩るか、人間を想定していると考えるべきだ。




