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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
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この世界の終わり Ⅳ

「それで新しい旅がしたいからって、詩道のヤツその彼女フッちゃったんだぜ?酷くね?しかも付き合ってまだ2週間だぜ?」


「2週間か、たしかに短いな。フッた理由もよく分からないし……なんだよ新しい旅って……」


 時刻は午後7時過ぎ。

 俺は料理がそれなりに出来る奏熾と共に、作道家の台所で晩御飯の支度をしていた。

 保泉さんとの一件があってから、玲美と俺の仲は徐々に深まっていき、

 作道家に来てこうして奏熾達の晩御飯を作るようになって、もう()()の月日が流れた。


「兄様も奏熾も酷いなぁ。そのままじゃないか、新しい旅っていうのは新しい女の子と付き合いたいって事だよ。僕なりに“飽きた”という言葉をオブラートに包んだ言い回しさ」


 既にテーブルに付いている詩道が、特に悪びれた様子もなくそう微笑みながら言った。


「飽きたって……付き合って2週間だぞお前。そんなんじゃ相手の事だって何にも分からないだろバカ」


「分かるさ。好きな食べ物も、趣味も聞いたし。セックスしたし」


「はぁ⁉︎セッ……何だって⁉︎」


 奏熾が顔を真っ赤にさせて驚く。実に中学生らしい。

 とはいえ正直俺も流れるように出てきたその単語に驚いたが、奏熾が驚いてくれたので内心少し冷静でいられた。


「だからセックスだよ。セックス。奏熾だって知ってるでしょ?何を初心なフリをしてるのさ」


「し、知ってるわ!てか連呼すんな!」


「セックス。セックス。セックス」


「だからやめろって!」


「はぁぁぁ……」と奏熾が力なく床に項垂れた。奏熾には相当刺激が強かった単語らしい。


「詩道、からかってるだけのは分かるけど、流石にもうやめてあげろ。奏熾がセッ……いや、なんだその、()()の恐怖症になるから……」


「フフッ。ごめんなさい兄様。奏熾の反応がつい楽しくって」


 と至極楽しそうな笑みを浮かべる詩道。

 この余裕、もはやどちらが兄か分からない。


「それでさぁ、詩道……質問なんだけど」


「ん……?なんです兄様?」


「その……あの、そのなんというか……セッ……っていうか、戯れというか、()()ってどんな感じ?」


 俺は言葉を選びながら質問する。

 実際のところ俺は童貞なわけで、そういうのに興味が無いといえば嘘になる。というか大嘘だ。本当はめちゃくちゃ興味がある。

 年下にきくのは些か敗北感はあるが、体験談がきけるのいうのならそのチャンスは逃すまい。


「え……?まさか兄様、シたことがないんですか?」


 急に詩道の顔からからいつもの微笑みが消失した。


「まさかそんな事あるわけないですよね?僕よりも年上で勉強ができるはずで社会経験も豊富で優しくて頼りになる僕の絶対的な尊敬対象である兄様が童貞なんてそんな悲壮的な事はありませんよね?」


「え……ぁ……」


 急な詩道の絶望とも羨望とも見える眼差しを向けられ、俺はたじろいだ。


「ないですよね?ないですよね?」


「あの……えっとぉ……」


 プライドを捨てて欲望を満たすか、年上としての威厳を保つか。

 その圧倒的な二者択一の選択に迫られていたその時――


「ちょっと!どうなってんのよ!めっちゃ寒いんですけどバカおにぃ!」


 ドンドンドンと玄関のドアが激しく叩かれ、奥の方で子犬のような甲高い怒り声が響く。


「あっ忘れてた……」


「誰です……?兄様のお知り合いの方ですか?」


 と詩道。


「あぁ、知り合いというか妹だ。詩道達に紹介しようと思って」


 言いながら俺は玄関へと向かい、扉を開けた。


「どうなってる訳⁉︎いつまでこんな寒空の下で、か弱い女の子を待たせるのよアホおにぃ!」


 開けるや否や、文那が顔を真っ赤にしながら俺へと怒る。

 もしかしたら顔が赤いのは怒りだけでないのかも知れないが。


「か弱い……というには威勢が良くないか?」


「屁理屈こねてないで謝罪しろアホ!馬鹿!うどんで首吊って死んじゃえ!」


「わ、悪かったって。頃合いを見て紹介しようと思ってたんだけど、タイミング逃しちゃって……」


「うっさい!言い訳すんな!誠意ある謝罪を――具体的には床に跪いて地べたに這いつくばって土下座しろ!」


「そ、そこまでかよ……」


 たじろぐ苦笑いを浮かべる俺。

 その俺の横に詩道がくると、文那に優しく微笑んだ。


「はは、そこまで言わなくてもいいじゃないですか。お嬢さん。折角の綺麗な容姿を悪罵で穢してしまっては勿体無いですよ?」


「え……」


 文那は驚いた表情で詩道を見たまま固まった。

 そしてややあった後「はっ……!」と意識を取り戻すと、おもむろに俺の耳へと口を近づけ小声で囁いた。


「ば、ばかぁ……こんなイケメンいるなら言ってよぉ。みっともない所見せちゃったじゃない」


 顔を赤らめ、もじもじと恥ずかしそうな様子で文那が耳打ちした。

 あまりにも態度の変化が凄過ぎる……。恐るべき詩道のモテ力。


「ご、ごめんなさい!私のお兄ちゃん頭が弱くって、姉として頑張っていたら、つい口が悪くなっちゃって……」


「いや、お前いつから俺の姉になったんだよ……」


 全く調子の良い奴だ……。

 やれやれ、と首を振ったところで奏熾もこちらへとやってきた。


「へぇ、この子が歩夢の妹か」


「ハッ……!またイケメン……⁉︎しかもどことなく二人とも似てるような」


「二人は双子だからな。こっちの背が高いのが弟の詩道で、小ちゃいほうが兄の奏熾だ」


「おい!なんか俺が背小ちゃいみたいな紹介の仕方やめろよ!」


「はは、ごめんごめん」


 怒る奏熾に俺は手を合わせて謝罪した。


「す、すごいなぁ。イケメンで双子――どうしよう私、もしかして物語の主人公になっちゃった?三角関係にもつれ込むの?泥沼な愛をこれから知ることになっちゃうの?」


「おーい文那ー、戻ってこーい」


 文那の顔の前で手を振るが、キラキラした瞳は全く微動だにはしない。


「はは、面白くて可愛い子だな」


「え……⁉︎可愛い⁉︎」


 奏熾の何気ない言葉に文那は一気に意識を取り戻すと、俺へと近づき「お兄ちゃーん!可愛いってー!」と照れた様子で俺の肩を叩いた。


「はいはい、良かったな」


「ねぇお兄ちゃん、二重結婚ってありかなぁ?」


「不倫だそれは……」


「はぁ……」と俺は呆れてため息をついた。


「ただいまー、頼まれた食材買ってきたよ」


 その直後、玲美が帰ってきた。


「え、誰……?」


 玲美は目の前にいる文那を見て懐疑的に目を細めた。


「コイツは二階堂文那。俺の妹だ。文那、こちら作道玲美さん――奏熾と詩道の姉だ」


「こ、コニチハ……文那です。ハジマシテ……」


「何故にカタコト……」


 玲美の着崩した制服と、上から羽織った黒いパーカーの風貌に威圧感を感じたのか、文那が緊張した様子で喋った。


「へぇ……二階堂の妹か……」


「ふーん」と玲美は顎に手を当て文那の事を観察する。

 そしてしばらくした後、満足したのか顔をあげ俺を見た。


「すっごい可愛いね。二階堂の妹なのがむかつく」


「すっごい……可愛い……⁉︎」


 文那がまたも驚いた様子で声を上げた。


「お、おおお兄ちゃん。私もしかしたら、お兄ちゃんにお嫁さんを紹介する事になるかもしれない」


「いや落ち着け。可愛いと言われただけで飛躍しすぎだ!」


 コイツの脳内乙女ゲー過ぎるだろ……。


「ふっ、面白いね」


 俺と文那の会話を見て、玲美が楽しそうに笑った。


「てか歩夢、早く晩飯の続き作ろうぜ。俺腹減ったー!」


 お腹をさすりながら奏熾が後ろで駄々をこねる。


「ごめんごめん。今やるよ」


「あっ、まだ下ごしらえ終わってないんだ。じゃあ私がやるよ。二階堂と奏熾は休んでて」


 そう言って靴を脱ぎ台所へと向かう玲美。


「待って玲美さん!」


 だが文那に呼び止められ、玲美が動作を止めた。


「脱いだ靴はちゃんと揃えないと駄目ですよ。物の乱れは心の乱れです」


「あっ……ごめんなさい」


 玲美はそう文那に詫びると、いそいそとすぐに靴を綺麗に並べた。


「ごめんなさい文那ちゃん。歳上なのにみっともない所見せちゃって……」


「いえいえ。私こそ歳下なのに玲美さんを生意気にも注意してしまいましたし、礼儀のなってない小娘ですよ」


「ふふっ。面白い言い回しするんだね、文那ちゃん」


 そう言って微笑み文那と話す玲美の姿は、心底嬉しそうに俺には映った。


「良かった――うん」


 その玲美の表情を見て、俺は思わず小さくガッツポーズをした。

 正直なところ、文那の事を玲美に紹介するのは少し心配だった。

 この半年で玲美と打ち解けてきたといっても、まだまだ浅い関係だ。


 最近の玲美は少し落ち着いたというか、前のようにトゲトゲしい雰囲気は無くなったが、それでも初対面の人と話す時は喧嘩腰だし、文那にも警戒するかもと思っていたが、どうやら俺の杞憂だったようだ。


 少しずつだけど、けれど確実に良くなっている。

 少しずつ、いつか見たあの夢の世界に近付いている。

 そう思えた。


『臨時ニュースです。先程、岬区(みさきく)区の歩道橋から高校生が落下したというニュースが入ってきました。高校生は飛び降り自殺を図ったと見られております』


 よく通る女性リポーターの声が、リビングのテレビを通して聞こえてきた。


「こわー、自殺だって。しかも岬区ってウチのめっちゃ近くじゃん」


 奏熾がそれを聞いて口を開いた。

 それに続いて詩道が口を開く。


「確かに。というかこの画面に映ってる歩道橋、すぐ近くのあの歩道橋じゃないかい?」


「え、本当だ!ガチでそうじゃん!流石詩道、変態的洞察力」


「普通に褒めてよ、全く……」


 自分達の住んでいるすぐ近くがテレビに映った事で、二人はどこか浮き足だった様子だった。

 だがその二人と対照的に文那は顔を曇らせた。


「自殺か……なんか、悲しいね……」


「奏熾、詩道」


 と文那の表情を見て玲美が低い声で二人を呼んだ。


「あ……ごめん。すぐ変えるよ」


 玲美に呼ばれ、状況を察した奏熾がそう言ってリモコンを持ち、チャンネルを変えようとする。

 その直前だった――



『飛び降りたのは、岬区の私立高校に通う“西園寺優宇”さんと見られています。現在は病院に緊急搬送され、懸命の救命措置が行われています』

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