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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
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この世界の終わり Ⅰ

「謝ってよ!私のお姉ちゃんと両親に!」


 登校し、教室の前に辿り着いた俺が最初に聞いた言葉は玲美の怒鳴り声だった。

 空気も震えるようなその声に、俺は思わず教室へと入る足を止め窓から中の様子を見た。


「はぁ?何で謝らないといけない訳……?」


 怒鳴られているのは保泉だった。

 だが件の本人は悪びれた様子は無い。何なら玲美の事を鬱陶しそうに睨んでいる。


「何だってあの二人が喧嘩してるんだよ……」


 昨日の夜――玲美が自分の写真家になりたいという自分の夢を語ってくれた時、とても落ち着いたように見えた。

 なのにまたこの感じ……ただならぬ何かがあったのだろう事はすぐに分かる。


「二階堂!ちょうど良かった!」


 声をかけられ振り向くと、背後にいたのは戸塚だった。

 こんな状況にも関わらず笑顔を浮かべてるは、素直にすごいと思う。


「戸塚か……悪いけど今はお前の恋愛術には付き合ってやれないぞ」


「んなの分かってるよ。こんな怒ってる作道さんを前にしてそんなアホな事はしねぇよ」


「だったら俺に何の用だよ……」


「何って……そりゃお前の渦中の話だよ」


「俺の……?」


 小首を傾げてすぐ、戸塚が何を言おうとしてるのかが分かった。


「それって、もしかして犬飼さんの事か?」


 その答えにコクリと戸塚は頷く。


「あぁ、そうだ。見つかったんだよ。犬飼さんの財布がな」


「見つかった⁉︎どこにあったんだ?」


 食い気味に叫ぶ俺に「しー!」と玲美と保泉の方を指差しながら戸塚が俺を静止させた。


「す、すまん……」


 俺は謝罪し、再び声量を抑える。


「犬飼さんの財布だがな、見つかったのは学校のゴミ集積場だ。現金もクレカも全部入ったままだったっぽい」


「中身もか。それは良かった……犬飼さんもこれで落ち着くな……」


「で、ここからが問題なんだがな……」


 戸塚は難しそうに眉間に皺を寄せ、言おうか迷った後、意を決して口を開いた。


「犬飼さんの財布をそこに捨てたのは……保泉さんらしいんだ」


「保泉さんが……?間違いないのか?」


「あぁ」と戸塚は頷く。


「昨日の昼、保泉さんがゴミ捨て場に財布を捨ててたのを用務員さんが見てたらしいんだ。その人が嘘をつく理由もないし、間違いないだろうよ」


「そうか……」


(どうして保泉さんが……)


 と俺の頭には疑問符が浮かぶ。

 保泉さんは別に金持ちのお嬢様というわけではないけれど、だからといってお金に困ってるという話は聞いたことない。

 そんなわざわざ人の財布を盗む理由が見つからなかった。

 それに中身も入っていたと言うし、本当に理由に見当がつかない。


「それで作道さんがさ――」


 戸塚の声で俺は思考を止め、話に耳を傾ける。


「保泉さんが盗んだ犯人っていうのを知って激昂って訳だ……昨日保泉さんに罪を着させられたから相当お怒りだ」


「そういうことか」


 俺はそう言いながら、ふと玲美の怒声が聞こえ、教室の方に視線を向ける。


「私の大切な人達の事を馬鹿にして……それで謝れって言ってるだけでしょ‼︎」


 玲美のその言葉に鬱陶しそうに保泉は眉を顰めた。


「うるさいな……大切な人とか寒くない?作道さん脳みそ小学生で止まってるの?」


「ッッ!」


「だ、ダメです作道さん!殴っては退学になってしまいます!」


 激昂して保泉に殴り掛かろうとする玲美を、白草が止める。


「離して!コイツは殴られないと人の痛みが分からないんだ!殴らせて!」


 暴れる玲美を抑えつけるのは、細い白草ではそう長く持ちそうには無い。誰かが止めに入らなければ本当に玲美が保泉を殴り退学になってしまう。


 玲美の怒りも最もだろう。

 まさか自分に罪を擦りつけた本人が盗みを働いていたというのだから。

 だがどうしてだ?何故保泉は玲美に罪を擦りつけようとし?


「それにしたって――」


 俺は止めに入る前にそれを戸塚に話す。


「何で保泉さんは、犬飼さんの財布を捨ててまで玲美に突っかかるんだ?」


 戸塚がその俺の問いに眉を顰める。


「保泉さんがここまで玲美に執着する理由は何なんだ……玲美と保泉さんが関わっていたのなんてそんな見た事ないし、一体玲美が保泉さんに何をしたって言うんだよ」


「二階堂、それは無いんじゃないのか?」


「え……?」


 いつもとは違う戸塚の真剣な声に、思わず体が緊張する感覚を覚える。


 今の戸塚の言葉で、俺の脳は気付いてしまったんだ。“都合の悪い真実からもう目を背けていられる場合では無い”と。


「お前、自分だって保泉さんがお前の事をどう思っているかぐらい分かってるんだろ?」


「…………」


 脳裏に浮かぶ保泉との思い出――


『ねぇ二階堂くん、私と一緒にご飯食べようよ!約束だよ!』


『二階堂くん!アイツと一緒にいたらダメになっちゃうよ⁉︎私と一緒にいようよ!』


 振り返れば、保泉から向けられる言葉には俺への好意があった。


 ただの自惚れ、勘違い、保泉が俺なんかに好意を抱いてる訳がない。

 そう自分に言い聞かせ、彼女の言葉を無視する事を正当化させていた。


 当事者では無い戸塚からしても分かる程なんだ。

 “鈍感だから”そんな理由で誤魔化せる事じゃないのは分かりきっていた。


「ごめん……そうだよな……」


「なら、やる事は分かるよな?」


 戸塚はそれ以上多くは語らない。

 後は俺に任せるということらしい。全く、本当に出来た奴だ。

 俺が戸塚みたいに完璧な奴だったなら、こんな事にはならなかった。


 だが結果的にこうなってしまっているのなら、俺が責任を取らなきゃいけない――


「…………」


 覚悟を決め、俺は教室の扉を開け中へと入った。


「あっ!二階堂くん!」


 俺の姿に気づくなり、すぐき保泉さんが俺の方へと走り寄ってきた。


「保泉さん……」


「ねぇ二階堂くん聞いてよ!作道さん私の事犯人だって言って酷いんだよ!それに私になんか謝れ謝れって意味わかんない事言うんだよ!」


 無垢な様子で保泉ははしゃぎ気味にそう言う。

 事情を知らなければ、彼女は悲劇のヒロインに見える。


「なぁ保泉さん……一つだけ聞きたい事があるんだけどいいかな?」


「え?なに?どうしたの二階堂、そんな改まっちゃって」


「戸塚からキミが財布を捨ててたって聞いたんだけど……それは本当なの?」


 包み隠さず、俺はそう言い切った。


「…………」


 俺のその問いは予想外だったのか、少し驚いた様子を見せた後、申し訳なさそうに目を伏せた。


「……うん。そうだよ」


 そしてあっさりと、彼女は自分の罪を認めた。


「ごめんね。私、作道さんのせいで二階堂くんがクラスの人達から悪く言われるの許せなくって。作道さんがいなくなれば解決出来るかなって思って……」


「何よそれ……アンタに私とそいつの事は関係ないでしょ!」


 玲美が保泉に向かって怒号を飛ばす。


「うるさいなぁ。関係あるから私がわざわざ動いた訳じゃん?あなた馬鹿なの?」


「アンタ……ッ!」


 またも玲美が保泉に向かって殴りかかりそうになる。

 だが俺はその前に、


「保泉さん、ごめん」


 そう言って、保泉に頭を下げた。


「え……?どうしたの二階堂くん……?」


 保泉は驚き、その場で固まる。


「俺……保泉さんの気持ちにずっと見て見ぬふりをしてきた。保泉さんは優しいから、こんな俺なんかの事にも構ってくれて……それなのに俺はキミの好意に見て見ぬふりをしてしまった。だから保泉さんが俺に怒るのは当然だと思う」


「え……?え……?なになに二階堂くん?ホントどうしたの……?」


 保泉はいつもと変わらずおどけた様子は崩さない。

 あくまで最後までしらを切るつもりらしい。


 だがそんなのは予想の範囲内だ。

 構わず俺は続ける。


「けれど保泉さん。その怒りは俺に向けるべきものだ。関係無い作道さんに向けるべきものじゃない」


「…………」


 その言葉に流石の保泉も黙った。


「だから――作道さんに謝って欲しいんだ」


「な、何……?どうしちゃったの二階堂くん。ホントなんか、怖いよ?どうして二階堂くん、そんなに作道さんの事庇う訳?顔がタイプなの?」


「そんなの関係無いだろ。ちゃんと作道さんに謝ろう、保泉さん。そしたらまた一から始めよう。今度は俺、絶対保泉さんに向き合うから。もう逃げないって約束するから」


「は……?はぁ……?なになに私が悪者って感じ?ちょっと意味わかんないんだけど。ねぇ二階堂くん、今日はもう家帰って寝なよ。もう冷静じゃないよ」


「保泉さん……もう悪あがきはやめよう。謝って今までの事を精算するんだ」


「ホント意味わかんない……!なにそれ!そんな親がいなくて育ちの悪いクズ、二階堂くんが庇う事なんてな――――」



「え…………」



 教室に、乾いた音が響いた。

 俺の右手には痺れる感覚。

 人に手をあげたのなんて、随分と久しぶりだった――

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