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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
29/61

輪廻転生哀毀骨立魑魅魍魎 Ⅰ

後半戦、スタートです。

「ふっふ〜ん♪」

 文那は嬉しそうにリビングにある姿鏡の前で、俺のあげた誕生日プレゼントのカチューシャをつけて髪をいじっていた。

「まーたそれ付けて遊んでるのか?」

 サプライズパーティーを開いてから1週間が経った。

 だがよほど俺のプレゼントが嬉しかったのか、文那は毎日こうしてカチューシャを頭につけ鏡の前で自分の姿を見ていた。

「いいじゃーん!だってお兄ちゃんが初めてくれた()()()なプレゼントだし!」

「まともって……お前なぁ……」

 と言いながら今までのプレゼントを思い返してみると、『火星の石と評した石ころ』や『四葉のクローバー並に幸運といわれる四角のストーンと嘘をついた石ころ』だったのを思い出した。

 あぁ、確かにまともなのは今回が初めてだったな……。

『ハロハロリーナー‼︎ユリーナだよぉ‼︎』

「わぁ!ユリーナだ!」

 観ていたニュース番組がCMに切り替わると、テレビからユリーナの華やかな声が流れた。

『なんと私、宮鷹由莉奈――来月の28日にサプライズライブをアキバハラの道路を貸し切って行っちゃいます‼︎』

「へぇ、随分といきなり……本当にサプライズだな」

 まさかこの前の文那のサプライズパーティーに影響されてとか……いや、それは俺の考え過ぎか。

『そしてなんとこのチケット!10分後のこの後0時より全国のローンソさんで限定発売しちゃいます!さぁなくならないうちにコンビニへ急げ!未来を掴むのは君だ!』

「えぇ!マジ‼︎今から⁉︎お兄ちゃん今からだってよ⁉︎」

 目をキラキラと輝かせながら文那はテレビを指差す。

「全国のローンソは今から激混みだろうな。ユリーナのファンも大変だ……」

 あと、楽だと思って深夜シフトを入れてる全国のローンソ店員さん。

「なーに言ってんのお兄ちゃん!」

 文那が頬を膨らませて俺を見る。

「え……?どういうことだ?」

「お兄ちゃんもユリーナのファンでしょうが!買ってくるんだよ。私とお兄ちゃんの分を!」

「えぇっ⁉︎まじか⁉︎今から⁉︎」

「そうさしないと売り切れちゃうでしょ!ほら!ぼーっとしてないでさっさと行く!」

 文那はそう言って俺を廊下へと押し出していく。

「ま、待ってくれ文那!11時を過ぎたら高校生は補導され――」

「そんなもん今更気にするお兄ちゃんじゃないでしょうか!ほらさっさと行く!」

 ドンッ

 と背中を押され、無理矢理玄関の外へと出された。

「ライブのチケットを手に入れるまで、この家の敷居はまたげないと思いなさい、お兄ちゃん」

 冷たい令嬢のような目で俺を見下しそう言った文那は、

 ぽいっと俺の財布と靴とを俺へと投げ渡した。

「じゃ!よろしくね!お兄ちゃん!」

 文那が手を振って可愛らしくウィンクをした後、ガチャリ、と無慈悲な玄関の鍵が閉まる音が響いた。

「まじか〜……」

 こんな夜中に買物……しかも超混雑が予想されるユリーナのチケット……。

「ハハッ……まぁいいか」

 笑い、俺は靴を履く。

「わがままなんて、妹らしくていいじゃないか」



 xxx



「急げ、急げ」

 警察に補導されないよう走りながら、俺は妖しいオレンジ色の灯をともすトンネルを走っていた。

「いやぁ……大変だったけどちゃんと手に入れられて良かった」

 俺は袋に入ったユリーナのライブチケットを見てテンションが上がる。


 ローンソに着くと既に何百人という人間でごった返していた。

 だが“家に入れないのは嫌だ”との考えの元ダメ元で並んだ結果、ちょうど俺のところでチケットは無くなった。

 後ろの人からの殺意めいた視線が、すごく痛かった……。


「そういえばいつかーー今と同じようにユリーナのグッズを買って帰っていた事があったよな……」

 呟き、前を見ると、トンネルの出口に黒いフードを被った人間が佇んでいる事に気付いた。

「こんな真夜中のトンネルに黒いフードとか、冗談きついぜ」

 真夜中、黒いフード――

 どうしても、あの日が頭の中にちらついた。


 俺が殺された、あの日のことが――


「そうか……あの日も、ユリーナのグッズを買った帰りだったよなーー」

 心臓の動きがばくばくと早くなっていっているのを自分で感じていた。

「いやいや……」

 首を振って頭の中に浮かぶ悪い思考を振り払う。

「思い過ごしだ思い過ごし……そんな事あるわけないさ」

 フードの人物は、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。

 引き返すか?いや、何も理由なしにUターンとか俺の方が不審者に思われるな……。


 コツ……コツ……コツ……


 フードの男の足音がトンネルに反響する。

 大丈夫……大丈夫……。

 俺は全力でそう自分に言い聞かせながら必死に歩を進めた。

 どんどんフードの人物との距離は縮まっていく。


 そして――


 俺とそのフードの人物は、すれ違った。


「ほらな……思い過ごしじゃないか」

 ホッと胸をなで下ろし、トンネルを抜けたところで「ふぅ……」と一呼吸おいた。

 良かった。ただの道を歩いていた人みーー


「久しぶりだねーー」


「ーーーー⁉︎」

 何故かすれ違ったはずの人物が、突然俺の前にいた。

「酷いじゃないか。挨拶もなしに素通りなんて」

「な……どういう――」

 思考がまとまらない俺を他所に、フードの下から野太い不気味な男の声が聞こえた。

「僕はずっと歩夢君に会うためにここで待っていたっていうのにさ。何?歩夢君は彼女とかにもそういう事しちゃうの?ダメだな〜歩夢君、女心がわかっていないよ。いいや、もはや人の心がわかっていないよ」

 な、なんだよコイツ……何で俺の名前を知ってるんだ。

「あんたは、一体」

 俺のその質問に、男は小首を傾げた。

「あぁ〜そうか。フード被ったままじゃわからないよね」

「でもここじゃあ味気ないし、場所を移そうか」

「場所を移すってーー」

「そうだなぁ。広くて戦い易い場所がいいよね。う〜ん、どうしようか。広くて戦い易い場所……広くて戦い易い場所……何処があったかなぁ……」

 男は俺の話など聞く耳無いようで、ぐるぐると歩き回りながらぶつぶつと何かを呟いていた。

 そしてしばらくした後、

「あっ、そうだ!」

 と言ってパチンと指を鳴らした。

「ねぇ歩夢君、キミの学校にしようか。学校でバトルなんて学園モノの王道だしさ、カッコよくないかい⁉︎」

 興奮めいた声で男はそう語ってくる。

「話が飛躍しすぎだ!バトル?学校?どういう――」

 だが俺のそんな事などおかまいなしに言葉を遮った。

「善はやるが如し!さぁ移動しよう!」

 言って、男がパチンと指を鳴らすと、視界が――いや、周りの世界が揺らいだ。

「な、何が起こってる‼︎」

 そして俺の視界には、暗闇だけが映った。

 ……。

 …………。

「ここはーー」

 再び視界に色が映り、辺りを見渡す。

「霞ヶ浦高校……?」

 歴史あるという建前の元改修されないボロ校舎、高校だというのに備え付けてある鉄棒やブランコ――。

 どうやらこの一瞬の間に、俺の高校霞ヶ浦高校に移動したようだ。

「でも、どうやって……あのトンネルからここまでは20分はーー」

 そこまで言ったところで思い出した。

「いや……そうか」

 そんな奇怪な事を出来る存在を、俺は知っているじゃないか。

 そう、このフードの男も、俺と同じってわけだ。

「あんたーー()()()()()()のか」

 その言葉に、男は小首を傾げた様子を見せた。

「えぇ〜何だいその“もしかしてこの予想当たってるのか?”みたいな口調。死んでるに決まってるじゃないか。生き返ってるにきまってるじゃないか。能力みせたでしょ?それでわからなかったら歩夢君はミジンコ以下のおつむだよ」

 人をイラつかせるような言い回しで、男は話した。

「何なんだよお前……さっきから俺を馬鹿にして訳の分からないを言いやがって!一体お前は何なんだ!」

「えぇ?まだそんな事にも気付いてないの?察しもつかないの?わざわざ()()()と同じシチュエーションを選んであげたっていうのに」

 残念残念……とうなだれてた。

「ほんっっと〜に歩夢君は昔から相変わらずだねぇ。もう何十年経ったっけ?最初に会った頃と同じでぜ〜んぜん成長しないんだから」

 だがそう言ったあと、

「あーそっか……()()()()()()()()

 と笑いを孕んだ声で言い放った。

「御託を並べてないでさっさと言え!」

 男のふざけた態度に業を煮やした俺は、思わず声を荒げてフードの男にそう叫ぶ。

「やー怖い。暴力系主人公は嫌われちゃうよ〜?」

 だが臆する様子もなく、男は気味悪く体をくねらせる。

「でも歩夢君に殴られるのも怖いし……そろそろ教えてあげようかな」

 笑い混じりにそう言うと、男はフードを取った――

 月明かりに照らされ、男の顔が見える。

「――お、お前……は」



 xxx



 5月1日、現在の天気は雨。

 俺――二階堂歩夢の人生は、どうやら17歳という若さでその生涯を終えるらしい。

「……ごふっ!」

 倒れている俺の背中にまた包丁が突き立てられ、俺の口から血が溢れ出す。

 あーあ…なんか、まだやりたい事とかあったんだけどなぁ…まさかコンビニでアイドルのグッズを買いに行った帰りに通り魔に刺されるとか……いくらなんでもダサすぎて死ぬに死ねないな……

「……ッッ」

 背中から突き立てられた包丁が腹部を貫通し、硬いアスファルトにコツンと当たった。

「……あ……ぐっ」

 せめて殺す奴の顔ぐらいは最後に拝みたいとも思ったが、全身が麻痺して体が言うことを聞かない。

 どうやら俺の最後の願いは、叶いそうにもなかった。

「……う……ぁ」

 背中にまた包丁が突き立てられた。

 ポツポツと顔に雨粒が当たる。そしてその小さな粒は、次第に大きな雷雨となって俺に降り注いだ。




 何十分――何時間続いたんだろうか…わからないけれど、満足したようで、通り魔はやっと俺の体を刺すのをやめてくれた。

 ははっ、ありがたいな。これ以上の傷はお嫁に行けなくなる。

「はぁ…はぁ…」

 背中からは興奮めいた荒い息遣いが聴こえる。

 こいつは――まさか。

「……………………」

 いや…まぁもう、いいか……なんか、刺された場所の…痛みも、無くなって……眠く……って…き………

 ……。

 …………。

 ………………。

「ククッ、んはぁ……こんだけやれば死んだでしょ」

 意識が無くなる直前――周りが暗い闇に覆われていく中で、少しだけ見えた。

 片目を(からす)のように真っ黒な髪で隠した男が俺を見て、笑う顔が――



xxx



「あぁ……そうか……そういうことかよ」


 薄れていた記憶が、ようやく蘇った。


「やぁ、歩夢君。久しぶり。思い出した?」


 闇より深い黒の瞳が俺を睨む。


 今、俺の目の前に立つこの男こそが――


 俺を殺した人間だった。

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