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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
27/61

君と歩む Ⅷ

これで日常編終わりです。

 西園寺さん達三人からのプレゼントの中身は、最近流行りの裾の短いデニム生地のジャケットと、それに合うような色合いの黒いホットパンツだった。

 触ってみるとどちらも肌触りが良くしっかりとした生地で作られていて、高級品なんだろうなということがうかがえた。

「これ買う時の辰波さん、一日中渋谷の街を歩き回って服を探して凄かったんだから」

「あゆっちから文那ちゃんの写真見せてもらってね、この子のイメージに合うのはなんだろーって考えてたら張り切っちゃって」

「三人集まれば文殊の知恵とも言うし、きっと文那ちゃんに似合うものを選べたはずだよ」

 会ったことも無い私の事を、この人達はそこまで一生懸命考えてくれてたのか。

 良い友達を持ったね、兄よ。

「じゃあ次はわたし達からふみ姉に!」

 玲美ちゃんが小学生らしい可愛い微笑みで手を挙げた。

「玲美ちゃん達からもかぁ、一体何をくれるのかな?」

「私達は、いつも頑張ってるふみ姉にお手紙と――」

 玲美ちゃんが奏熾君に目配せをする。

「俺たちが撮った、姉ちゃんの写真を送るよ」

 ニシシと笑って奏熾君はそう言うと詩道君を見た。

「ねえさまという人間を感じられるよう、僕達が一生懸命考えた物ですので、きっとねえさまも気に入ってくれると思います」

 その言葉を合図に、奏熾君は手に持っていた三通の便箋を取り出し、

「じゃあ、はいよ姉ちゃん」

 私へと手渡した。

「開けて読んでみて下さい」

 詩道君のその言葉に頷き、私は最初に、一番上にあった赤い色の便箋を開けてみる。

 そこには三人の言っていたように一通の手紙と、“私が兄と口論している時の写真”が添えられていた。

 これが私らしい……?うーんなんだか微妙な気分……。

 そう思いながらも、添えられた手紙を読む。

『よぉ姉ちゃん!誕生日おめでとう!いつもありがとな!」

「ははっ、奏熾君の字だ」

『俺が選んだこの写真は、姉ちゃんが歩夢と喧嘩してる時の写真だ!姉ちゃんはやっぱり歩夢と喧嘩してる時が一番姉ちゃんらしいって俺は思うよ』

「うーん、言われてみればたしかに……」

 バカ兄貴に気なんて使わないし、そういう意味では私らしいと言えるのかもしれない。

 だがやはり、複雑だ。

『姉ちゃんは俺たちに凄く優しくしてくれるけどさ……もう一人の俺の姉ちゃん――美空姉ちゃんはすぐ怒るし、めっちゃ声のでけぇ人だったんだ……だからさ、俺は姉ちゃんが歩夢と喧嘩してるの見ると、美空姉ちゃんが帰ってきたみたいで、何だか凄い嬉しいんだ。それに、それとおんなじくらい羨ましいとも思った。歩夢のことが』

「えっ……」

 ここまで読んで、初めて私は奏熾君の気持ちに気付いた。

 あぁ――そうか。そうだったのか。この写真の意味は――私に伝えたかったことは。

『歩夢ばっかじゃなくてさ、たまには俺達の事を叱ってくれていいんだぜ?だって文那は、俺達の姉ちゃんなんだから。作道奏熾』

 私は三人に少し背を向けると、瞳からこぼれ落ちそうになる涙を拭った。

「奏熾君――全く……こんなこと書いて、明日から覚悟しなよぉ」

「へへっ、楽しみにしてるよ。姉ちゃん」

 そう言って白い歯を見せて笑う奏熾君を横目で見た後、次は水色の便箋を開ける。

 中には同じように手紙と“私がリビングで眠っている奏熾君と兄に毛布を掛けている”写真が添えられていた。

『ねえさまへ。お誕生日おめでとうございます!そしていつもお忙しい中、詩道達のお世話をしてくれてありがとうございます』

「詩道君か。いえいえ、こちらこそだよ」

『僕がねえさまらしいと感じた写真は、ねえさまが疲れて眠っていた奏熾とにいさまに布団を掛けてあげている時のお写真です。ねえさまの面倒見が良くて優しい所が凄くでていると、詩道は思います』

「ははっ、詩道君こんな写真撮ってたんだ」

『僕も成長したら、ねえさまの様な素敵な大人になりたいです。そうしたら――どうかねえさまも、安心してリビングで眠ってください。その時は僕が、風邪をひかないようにねえさまに布団を掛けてあげます。作道詩道』

「ご、ごめんちょっと待ってね……」

 私はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、熱くなった目頭を抑えた。じんわりと、温かい涙がハンカチを濡らしていく。

「ふふっ。私なんか目指さなくても、詩道君はもう素敵な子だよ」

「いえ。ねえさまには、まだまだです」

 ニコリと、可愛らしく詩道君は微笑んだ。

「そんなことないと思うけどなぁ」

 私も必死で笑顔を作って返すと、最後のピンク色の便箋を開けた。

「最後は、玲美ちゃんだよね」

 中には手紙と、“兄と料理をしている私の写真”があった。

『拝啓ふみ姉。お誕生日おめでとうございます。いつも私達の面倒を見て下さって本当にありがとうございます。こんなに私達の事を良くしてくれて、本当にふみ姉は天使さんなんじゃないかと私は思います』

「天使って、そんな大げさだよ」

『私には……美空お姉ちゃんという、もう一人のお姉ちゃんがいました。強くて優しくて、とても尊敬する私の大切なお姉ちゃんでした。でもある日、お姉ちゃんは遠くに行ってしまいました。お空の上に行ったんだと、私は思います』

「玲美ちゃん……」

『けど美空お姉ちゃんがいなくなってからの日々を、私は悲しいと思った事はありません。それは――文那お姉ちゃんと歩夢お兄ちゃんがこの家に来てくれたからです』

 ポタリ、と雫が手紙に落ちてインクが滲んだ。

「あっ……わわ」

 私は慌ててハンカチで涙を拭き、続きを読む。

『この写真は、私の家に初めて来たふみ姉とあゆ兄がご飯を作ってくれている時の写真です。明るくて元気で優しくて、お家は前と同じくらい――ううん、それ以上に明るくなりました。だからふみ姉は、私の所に来てくれた天使さんなんです』

 涙で視界がかすみ、嗚咽のせいで読む事に集中し辛かった。

 けれど、これは最後まで読まないといけない。そう思った。

『そしてふみ姉は、私の世界一尊敬する自慢のお姉ちゃんです。これからもずっと一緒にいて下さい。ふみ姉の妹、作道玲美より』

「どうだった、お姉ちゃん?私達からのプレゼント?」

「どうだったなんて……そんなの」

 決まっているじゃないか。

 それに対しての答えは、一つだけだ。

「玲美ちゃん、奏熾君、詩道君――」

 私は目の前の三人へと抱きついた。

「こんな嬉しいプレゼント貰ったのは生まれて初めてだよ!三人はほんとうに立派な私の弟妹達だ!」

 いきなり抱きつかれた三人は目を見開いて驚いていた。

「ちょ!抱きつくなって姉ちゃん!俺はそんな歳じゃねぇって!」

「ははっ、ねえさま。苦しいです」

「お、お姉ちゃん恥ずかしいよこんなみんなの前で」

 照れる三人をもっと強く抱きしめる。

「知らない知らない!今日は私の誕生日なんだから誰の言うこともきかないよーだ!」

 あぁ、そうか――

「えー!ひっでぇ!」

 私はこの子達の“姉”にちゃんとなる事が出来ていたんだ。

「ふふっ。やっとわがままを言ってくれました」

 この子達の尊敬出来る姉に、ちゃんとなれていたんだ――


『文那、今日から朝と夜は違う家で食べるぞ』

 数ヶ月前、急にそう言った兄。

『えぇ?違う家?どういうこと?』

『いいから、行くぞ』

 そう言って無理やり私を連れ出した兄と共に着いた家の表札には“作道”と全く知らない人の苗字が書かれていた。

 不安ではあったものの、中に入ると可愛らしい三人の小学生がいた。

『文那、今日からお前はこの三人の姉だ』

 兄は私にそう耳打ちした。

『え!え⁉︎ちょっと待ってバカ兄貴!聞いてないんだけど‼︎』

『だって言ってないし』

『あーもー!』

 はぁ……本当にこの兄は困ったものだ……。何故こう突拍子も無い事をこの人はするんだ?と頭を抱えたものだ。

『初めまして!こんにちはお姉さん。あゆ兄のお友達ですか?』

 だがその私の不安はすぐに無くなった。

 皆、戸惑う事なく私を“姉”として迎え入れてくれた。

 けど私は、その優しい彼女達に甘えてしまっているのではないかと、そう思っていた。だから頑張っていた。

 けれど、彼女達はそれ以上に、私を姉として慕ってくれていた。


「「「ふみ姉、お誕生日おめでとう!」」」

「……ありがとう……本当に、ありがとうっ!」

 そのあと、私はひとしきり三人を抱きしめたまま泣いた。

 格好悪いなと思いながらも、三人の前で泣く事が出来た――



 xxx



 さて、予想外のプレゼントに思わず泣いてしまった。

 まさかこんなにも嬉しい誕生日になろうとは思いもしなかった。

「みなさん今日はありがとうございます!私のためにこんなに用意してくださって、とても嬉しいです!」

 私がそう言うと、彩音さんが声を上げた。

「いやいや文那ちゃん、まだ渡してない人がいるでしょ?」

 その言葉に思わず小首を傾げる。

 渡してない人はたしかにいる。だがそれは私の兄だ。

 私の兄は不器用で、そんなもの用意していないはずだ。なんていったって、私の兄はそういうのを用意することが大の苦手だ。

 兄の方を見ると、下を俯いてもじもじとしていた。

 はぁ……流石兄である。思った通り用意していなかったのだろう。

 だが大丈夫だ。私のためにこうやってサプライズパーティーを開いてくれただけで私はとても感謝している。

 妹として、助け舟ぐらい出してあげようじゃないか。

 出来る妹ですので‼︎

「えーっと彩音さん、兄は忙しい身の人間ですので私にプレゼントとかはーー」

「ほら二階堂!早く行かんか」

 兄がプレゼントを渡さない言い訳を述べようとしたところで、三日月さんがそう兄の背中を叩いた。

 兄は嫌そうに視線を横にずらすと立ち上がり、ずかずかと私の元へと歩いてきた。

 そして、

「これーー俺からの、誕生日プレゼント」

 スパンコールの散りばめられたキラキラと光るカチューシャを私に差し出してきた。

「え……?」

 金縛り?蛇に睨まれた?言葉ではいくらでも形容できるだろう。

 私は、兄の手のひらの上に乗るカチューシャを見て、固まってしまった。それ程までに、このダメ兄貴が私のためにプレゼントを用意していよう事は予想だにしなかった。

「え……お兄ちゃんが、私にプレゼント?」

「そ、そりゃそうだろ。お前の誕生日だし」

「そ、そうだよね。私の誕生日だもんね。そりゃ、プレゼントがあるのが普通だよね」

 カチューシャをよく見ると、所々装飾の幅がずれていたり、接着剤の半透明の後が見えた。

「てかこれ、もしかして手作り?」

「そ、そうだ。誕生日プレゼントは手作りの物が良いと優宇達からアドバイスをもらってな」

 それで、やったこともないだろうに西園寺さん達から裁縫を教わって手作りしたってわけか。

 なんだろうか、とても兄らしいというか兄らしくないというか。

「で、でもみんなのプレゼントに比べたらお粗末過ぎるよな。ご、ごめん!やっぱ今度なんか買ってやるよ!」

 そう言ってカチューシャを後ろに隠そうとする兄の腕を取った。

「いやだ!私それ欲しいもん!」

「えっ……?」

「それに、もう私のプレゼントなんだから勝手に持ってかないで!」

 そうだ。兄は私にプレゼントとして私にこのカチューシャを渡したのだ。これはもう私の物だ。兄が持っていくなどそんな勝手な事させてたまるか!

「……そっか、そうだよな。これはお前のだったな」

 兄はなんだか嬉しそうに微笑むと、私にカチューシャを手渡した。

「ふっふーん。ありがと」

 兄がわざわざ私のために用意してくれたプレゼント、それだけで正直、とても嬉しかった。

「そういえば、なんでカチューシャ?ブレスレットとかもっと作り易いのあったでしょ」

「それは、昔お前が欲しいって言ってたから」

「昔……?あっ――」

 兄のその言葉で唐突に思い出した。

 三年前のあの日の事を、お父さんとお母さんがまだいたあの日の事を――


 私はその年の誕生日、両親にカチューシャを頼んだ。当時クラスの可愛い女子が付けていたのを見て、私も同じ物を買って真似しようと思ったのだ。

 だが、その夢は叶うことはなかった。

 私の誕生日の前日にお父さんとお母さんはいなくなり、兄も消えてしまった。

 そうか、そうだったのか。このバカ兄貴はその時の事をずっと覚えていたのか。それで、私のために作ってくれたというのか――


「なぁ文那、せっかくだし付けてみてくれよ」

「あ、そうだね。そうする!」

 私は手に持ったそのカチューシャを頭へと付けた。

 お父さんとお母さんが居なくなってから、私がしっかりしないと!と変に気負って大人ぶって、以前のように笑って話すことが少なくなった私――

 兄も心の傷を負って、以前よりも笑う数が減って、私とも話してくれなくなっていた気がした。

 けれど兄は、お父さんとお母さんがいなくなってもずっと兄のままだったのかもしれない。

「ふみ姉すごく似合ってるよ!」

「お似合いですねえさま。まるで物語のお姫様みたいです!」

「おー!似合ってるじゃねぇか姉ちゃん!」

 根性なしで、捻くれていて、クソザコで、ドルオタで、そしてーー

 優しかった私の兄のままだったのかもしれない。

「おー!文那ちゃんカワイイー!どえらー似合ってるよ!」

「うんうん!歩夢うまく作れてるよ」

 変わってしまったと思っていたけれど、変わっていたのは私だったんだ。

「ブラザーのシスター!最高だぜ!」

「とっても可愛いです!文那ちゃん‼︎」

「うむ、つける角度が絶妙だ。流石だ文那ちゃん!」

 兄が変わらずに待っていてくれたというのならーー

 私も、素直になってみようか。

 あの頃と同じように。

「ど、どうかな?……お兄ちゃん、似合ってる?」

 恥ずかしいーー

 相手の意見にこんなにも一喜一憂して、返事が待ち遠しいのはいつ以来だろうか。心臓のばくばくという音がうるさいぐらいだ。

「似合ってるよ。流石、兄の俺が作っただけある」

 憎たらしいぐらいのどや顔を、兄はキメた。

「なにそれ!」

 そのまぬけな面構えに、思わず口から笑みがこぼれた。

 やっぱりこの人は何も変わっていない。

 昔も今も、妹大好きのシスコン馬鹿兄貴だ。

「ねぇお兄ちゃん、これからもよろしくね!」

「ははっ、なんだよ急に」

 私は二階堂文那。16歳。中学三年生――

「別に〜なんか言ってみたくなっただけ!」

 そんな兄の、自慢の妹である。


 君と歩む-fin-

これで物語の前半は終わりです。

後半は暗い展開ばかりですが、最後は後味の良い終わり方ですのでよろしくお願いいたします。


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