君と歩む Ⅶ
次で日常編、終わりです。
と、まぁ謎の不審者と出会うという暗い展開があったわけだが、それはそれとして私は自宅付近までやってきていた。
切り替えの早さが売りの文那ちゃん視点である。
長々と文化祭の出し物やクッキー作りで尺を取るあのミジンコ兄貴とは違うのである。
「ふっふーん!ほんと超カワイイ豚丸コレクション!これ買えただけでもほんとラッキーデイ!」
手に持つ豚丸キーホルダーをうっとりと眺めそう言う私に詩道君が微笑む。
「良かったですね、ねえさま。ねえさまが嬉しそうだと、詩道もとっても嬉しいです」
「うんー!超良かったー!ありがとね詩道くん!」
「そんなにいいかー?そのキモい豚?」
買ってはくれたものの、奏熾君はまだ納得が言っていないようであきれ顔だった。
「いやいや奏熾君、豚丸ってすごいんだから!丁度いいしよかったら私に豚丸をプレゼンさ――」
「着いたよーふみ姉」
玲美ちゃんのその声でハッとした。
豚丸に夢中になってて気付かなかったが、どうやらもう作道家の前にいたようである。なんともうっかり。まぁこれも、可愛げってやつだよね。
「あっ、入るのちょっと待ってねふみ姉。今あゆ兄が家の掃除してて、ホコリが飛んでると悪いから」
言うと玲美ちゃんはポケットからスマートフォンを取り出し兄にメッセージを送った。
タイミングがタイミングだ。きっと中でサプライズの準備が出来てるかどうかの確認だろう。
まぁそんな事をわざわざ言う訳はないが。
そして1,2分経つと、
『出発〜おしんこう〜♪』
と、玲美ちゃんのスマホから女神の声が鳴った。
ちなみにこの通知音は私が設定した。
「掃除終わったみたいだからもう入っていいって!」
「そっか!じゃあ入ろー!さてー今日は何作ろうかな〜」
お決まりの台詞を言って騙されたふりをしつつドアノブへと手を掛ける。
兄のことだから『おめでとー』と口で言うだけだろうが、まぁそれでもこうサプライズパーティーを開いてくれてるんだしちゃんと驚いたリアクションぐらいはとってやろう。
なんせ私はーー出来る妹ですからね!
ガチャーーと音を立てて扉が開く。
パンッ!パンッ!パンッ!
刹那、無数のクラッカーが鳴り響いた。
「えっ……」
「「「文那 (ちゃん)誕生日おめでとー‼︎」」」
パラパラと色とりどりの紙が私の頭にのる。
呆気にとられ、しばらく言葉が出なかった。
家にいたのは、兄だけではなかった。
私の予想に反したくさんの人がいて、私の誕生日を祝ってくれた。
「ど……どうしてこんなに」
「どうしてって、お前の年に一度の誕生日なんだ。友達を呼んだんだ」
「友……達……」
予想外ーーその言葉が今の私の心境を語るのに適切な言葉だろう。
ずっと、祝ってくれるのは兄と玲美ちゃん達だけだと思っていた。
だが兄にこんなに友達がいたなんて――
三年前の独りだった兄は、もういないんだ。
祝ってくれた以上に、その事実が私にはとても嬉しかった。
「うっわー!この子が文那ちゃん⁉︎どえらー可愛か〜!」
謎の関西弁を喋るおっぱいの大きい人がキラキラした目を私に向けてきた。
お兄ちゃんの彼女だろうか……なわけないか。
「本当に可愛らしくて慎ましやかな子だな。とても二階堂の妹とは思えん」
すごく顔の整ったカッコいいスレンダーな女性が言いながら私に微笑んでくれた。
お兄ちゃんの彼女だろうか……なわけないか!
「すごいなぁ、歩夢とそっくりだ。いいなぁ、僕も兄妹が欲しかった」
えっ……すごい――すごい可愛い人が私を見た。
もうなんか、すごいと可愛いっていう語彙力しか無くなっちゃう金髪碧眼の美少女。
こんなにも人を可愛いと思ったのはユリーナ以来だ。
お兄ちゃんの彼女だろうか……うん!きっとそうだろう!お兄ちゃんこういうのめちゃくちゃタイプだもん‼︎すごいなお兄ちゃん!よく射止めた‼︎
「フォー!初めてましてブラザーのシスター!僕はシスターのブラザーのブラザー神倉潤斗もち‼︎」
何を言ってるかはぼ理解出来なかったが、爽やかイケメンな顔立ちの青年がそう言って手を差し出してきた。
「は、初めまして」
一応手にとって握手をした。
イケメンだったし。
「あー!私も二階堂さんの妹さんに挨拶したいです!」
ヒョコっと可愛らしい仕草で女性が現れ――
れ――
れ―――
「初めまして!」
れ――――
れ―――――
「私――」
れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ
れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ
れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ
「宮鷹由莉奈と申します!以後お見知り置ーー」
「ユリイィィナアァァ⁉︎」
思わず後頭部から玄関に倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですかぁ⁉︎」
「ド、ドンウォーリー……ビー、ハピー」
「と、とても大丈夫そうには見えませんよ……頭から血が……」
「い、いえ……私は頭から出血してるのが平常なんですよ。お気になさらずーー」
「そ、そうなんですか!ごめんなさい。私そういう体質の方とは今までお会いしたことなくて……」
「いや待てい!ユリーナ天然過ぎんだろ!いねぇよ!頭から出血してるのが普通の奴なんていてたまるか!」
女神との会話に雑音が紛れる。非常に不愉快である。
全く……いつからゴミは人間の言葉を喋れるようになったんだ?
「本当に大丈夫ですよユリーナさん。こんぐらいの怪我、唾つけときゃ治ります」
「そうなんですか?ではーー」
ユリーナは『ユリーナ命』と書かれた2ndライブ時、物販開始から5分で売り切れた幻の『ユリーナ命ハンカチ』という安直過ぎるにも程があるハンカチを取り出すと、そこに自分の唾液を仕込んだ。
艶のかかった透明な雫が、糸を引いてハンカチへと落とされると、
「これで治りますかねぇ……」
と言って唾液を染み込ませたそのハンカチで私の後頭部を拭った。
「あ――――――」
そこで私の目の前はまっくらになった。
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それから何があったかはよく覚えてない。
物凄い甘いクッキーと、たこ焼き型のクッキー、何故か黒く着色されたクッキー、『ユリーナ命』と書かれたクッキーがあったのだけはよく覚えてる。
「じゃあ食べ終わったし、文那ちゃんにプレゼント渡してこー‼︎」
彩音さんが少年のような笑みを浮かべみんなにそう促した。
「え……プレゼントですか?こんなにして頂いたのに、そんなにしてもらっていいんでしょうか……」
戸惑う私を、三日月さんが優しく微笑んで諭してくれた。
「もちろんだよ。今日は文那ちゃんが産まれたお祝いだ。遠慮することなんて何もないさ」
「そうもちそうもち‼︎」
謎のイケメン神倉さんも縦に首を振って頷く。
「そんなにしてもらえるなんて――とっても嬉しいです。ありがとうございます」
私がそう言うと彩音さんが急に目に涙を浮かべた。
「すごい、超いい子……なんでこの子あゆっちの妹なの……?」
「そりゃあ俺が超いい子だからに決まってんだろ」
「ふふっ。冗談はいいから早く始めようよあゆ兄」
バカ兄貴の背筋も凍るつまらないボケに、玲美ちゃんが笑顔でツッコミを入れる。
「えぇ⁉︎玲美冷たくないか⁉︎」
そう驚く兄には、本当に冷たいことに誰もツッコんではくれなかった。
「じゃあ私からいいでしょうか?」
女神ユリーナが横断歩道を渡る小学生のように可愛らしくも立派に右手を挙げた。
「あっ!ユリちゃんやる気だねー!じゃあユリちゃんからで!」
彩音さんのその言葉に「ありがとうございます」と女神ユリーナは丁寧なお辞儀で返すと、ゴッドネススマイルを向け、私へと近付いてきた。
凄いなぁ、神は歩くたびに鈴の音のような音がするんだねぇ。
「では文那ちゃん!私からのプレゼントはこれです!どうぞ受け取ってください!」
そう言って女神ユリーナは後ろに隠していた金色のリボンで包装された箱を私へと差し出した。
「あ、ありがとうございますユリーナさん‼︎」
「ぜひ、開けてみてください。きっと文那ちゃんの助けになってくれると思います」
「助け……?ですか」
「はい!」
助かる……うーむ、なんだろうか。一番助かるのは今度のライブのアリーナ席だけど、あーでもそれは自力で当ててこそみたいなとこあるしなぁ、ユリーナがそれを見越してると仮定すると何だ?あっわかった!サイリウムだ!限定『宮鷹由莉奈応援サイリウム1色しか光りません!すいません!』だ!あれ謎人気ですぐ売り切れちやったんだよなぁ。あーそうだそれがいいサイリウムがいいそれが一番助かる。ユリーナサイリウムあざーっす!
紐をほどき、パカっとフタを開ける。
「ブロアクティブです‼︎」
あっ、普通に助かる。
「文那ちゃんもにきびや肌荒れで悩む時期だと思い、今回これを選ばせていただきました‼︎」
「ありがとうございますユリーナさん!冷凍庫に入れて永遠に保存させて頂きます‼︎」
「えぇっ⁉︎ちゃんと使ってください!」
「あっ!次僕行きたいもち‼︎」
ユリーナの隣にいた神倉さんがビシッと手を挙げた。
うーん、この人黙っていればイケメンなんだけどなぁ。残念である。
「ブラザーのシスター!僕がブラザーのシスターに送るのはこれもち!ブラザーからブラザーのシスターはユリーナの大ファンと聞いたので!」
そう言って神倉さんが私にくれたのは、
「えぇっ⁉︎これもらっちゃっていいんですか⁉︎」
『宮鷹由莉奈応援サイリウム1色しか光りません!すいません!』だった。
嬉しい。感無量。感謝感激雨あられ。
「僕は同士が喜んでいる姿を見る時が一番嬉しいからね!全然構わないよ!」
あぁ……前言撤回、この人心もイケメンだった。いい友達を持ったね。兄よ。
「じゃあ次は僕が」
金髪の美少女が手を挙げると、私へと近付いた。
すごい、間近で見てもすごく可愛らしい。ユリーナも可愛いけど、この人の可愛さは何というか、それとはまた少し違うような。
というか何だろう、何故か同じ女の子のはずなのに凄いドキドキする。不整脈の検査をした方がいいかもしれない。
「僕は中学生の女の子の事はよくわからなかったから――」
「だから、私とあやちゃんが協力して選んだんだ」
三日月さんが西園寺さんの後ろから現れた。
「だからこのプレゼントは、私とゆみちゃんと西園寺君、三人からのプレゼントです!どうぞ受け取ってください!」
そう言って三日月さんの後ろから現れた辰波さんと、三日月さんと、西園寺さんの三人は、丁寧に包装された大きめの袋を私に差し出した。




