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死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
19/61

君と歩む Ⅰ

しばらく日常回続きます。

『本日ーー10月11日、あの悲惨な“女子高生拉致惨殺事件”から7年の月日が経ちました』

 神妙な顔つきでニュースキャスターの女性はそう読み上げる。

『複数人の男性が女子高生二人を何ヶ月にも渡り山奥の小屋で拉致,監禁し、暴行の末に殺害したこの痛ましい事件、五年の月日が経ってもなお苦しめられる家族の心境を、バンキングは追いまーー』

「あゆ(にい)ー!晩御飯出来たよー!」

「あいよぉ〜」

 台所で俺を呼ぶ玲美に間の抜けた返事をした後、俺はテレビを消して立ち上がると庭で遊んでいる二人に声をかけた。

「奏熾〜、詩道〜、晩御飯出来たってよ〜行くぞ〜」

 遊びとは思えない真剣な顔つきでバスケの1on1に熱中していた二人は、俺のその呼びかけが聞こえるとピタリと動きを止めた。

「お、まじでか歩夢!」

「はい!にいさま、今行きます」

 さっきまでの真剣な顔つきは嘘のように消え、年相応の小学生らしい笑顔で二人はこちらへと走ってきた。

「にいさま、にいさま!僕、今日は奏熾よりも得点が多かったんです!どうですか?」

 少し息を切らしながら、詩道はそう笑顔で話した。

「おぉそうか!流石、詩道だな。何でもできるな」

 そう言って俺は詩道の頭を撫でてやった。

 詩道の髪には汗一つなく、何十分も運動したとは思えないほどサラサラしていた。

「ケッ、今日はたまたま俺の調子が悪かっただけだし……」

 そう言って奏熾はバツが悪そうに唇を尖らせた。

「ははっ、そう()ねるなって

 もう夕方だというのに寝癖ではねた奏熾のツンツン髪を撫でた。

「や、やめろ!俺は別に歩夢に撫でられても嬉しかねぇよ!」

「照れるなって。頭撫でてもらえるのなんて今のうちだぜ?」

 反応が面白いので、わざとがしがしと強めに撫でてみる。

「あーもー子供扱いすんなし!」

「ははっ、だって子供じゃんか」

「うっせー!歩夢も子供だろうが!」

 ムスッと頬を膨らませると、奏熾は俺の腕を振り払った。

「いいから早く食おうぜ腹減った!」

「奏熾君は素直じゃないな〜」

「ちぃー、わかったような口聞きやがって、歩夢のくせに!」

 そう捨て台詞を吐くと奏熾はそそくさと足早に台所へ行ってしまった。

「にいさま、にいさま。詩道も、お腹が空きました」

 ちょんちょん、と可愛らしく袖を引っ張られた。

「そうだな、行こうか」

 無邪気に「はい!」と可愛らしく笑う詩道と手を繋ぎ、俺は短い廊下を歩いたーーいや、歩こうとしたところで詩道に止められた。

「そういえばにいさま、明日の誕生会の進捗はいかがですか?」

 詩道の尋ねたこの“誕生会”というもの。それは明日に15歳の誕生日を迎える文那の事を祝うために俺が計画しているサプライズパーティーの事を指している。

 明日にまで迫ったというのにこの家にクラッカーやケーキといったサプライズ要素が微塵もないところに詩道は心配しているのだろう。

「その事か、任せてくれ詩道。最強のメンバーを明日集めるつもりだ!」

「ん?明日、集めるのですか?」

「あぁ、そう言った」

「でも、誕生会は明日の夜からですが、そんな即席のメンバーで大丈夫なのですか?」

 心配そうに詩道は見つめてくる。ははっ、当日に準備を始めても間に合うという事を詩道はまだ知らないらしい。詩道は少し世の中を狭く見過ぎだ。

「大丈夫だ詩道。食べ物が採れたてが一番美味いように、メンバーも集めたてが一番上手くいくんだよ!」

 決まったーー正直この台詞が言いたいがために当日まで何も準備してこなかったというのもある。

 俺のその台詞を聞いたあと、詩道はしばらくその凄さに呆気にとられていたが、意識が戻ると「流石です。にいさま」と言って笑っていた。

 その笑顔が嘲笑ではないことを、俺は祈りたい。



 xxx



「というわけでーー」

 学校についた俺は、彩音と優宇ーーそれと呼んではいなかったが彩音について来た委員長の三人に事の次第を話した。

「わけで……?」

「文那にサプライズパーティーを開こうかと思います」

「え〜!あゆっちがパーティー⁉︎似合わな!」

 彩音はそう言うと腹を抱えて笑う。

「す、すごいね歩夢!すごく文那ちゃんも喜んでくれると思うよ」

「ふむ、二階堂にしては中々粋な計らいじゃないか。手伝うよ」

 優宇はそう言ってくれると思っていたが、まさかの委員長も乗り気で参加してくれるとは。意外だ。宮鷹由莉奈を知っていたりするし、最近は意外続きだ。

「ふ〜、それであゆっち、サプライズパーティーって言ってももう今日の夜でしょ?そんな大掛かりな準備は出来ないし、どうするの?」

 彩音は笑いすぎて溢れた涙を拭くと、そう俺に問いかけてきた。

「それなんだが、とりあえずケーキ並べておけば満足するだろうと思う。重要なのは規模とかじゃなく、文那にサプライズをさせることだ。なんて言ったって“サプライズ”パーティーだからな、“ゴージャス”パーティーじゃない」

「とか言って、本当は大掛かりなグッズ買うお金がなかっただけでしょ」

 彩音のその鋭い指摘に「な、なんのことでしょ〜」と俺は目をそらすことしか出来なかった。

 宮鷹由莉奈のライブチケットでお小遣いを溶かしたなど、言えるはずもなかった。

「なるほどだね歩夢。けど、明日は文那ちゃん急に帰ってきたりしないの?」

「良い質問だ!流石優宇だな。実はそこは考えてある」

 コホンとわざとらしく咳払いをしてみせる。

「作戦はこうだ。うちには明日三人の小学生がいてな、その小学生三人組に文那を準備が出来るまで連れてってもらう。そうすれば文那が急に帰ってくることもないだろ」

 ふふん、と思わずこの完璧な計画に思いついた自分に感動し鼻がなってしまう。

「……二階堂、作戦というのはそれだけか……」

「残念すぎる……作戦というか、もはやただの思いつき」

 女子組から不安があがるものの、優宇だけは「すごい!完璧だよ!」と俺の作戦に感銘を受けていた。

「おお〜皆の衆!何をしているんだい?」

 教室の扉を開け、神倉が教室へと入ってきた。

「神倉……もう午後だぞ。何やってたんだ……」

 退院してから神倉はまた学校に通ってくれるようにはなったが、決まって午後から参加だ。神倉にとっては大きな一歩なのかも知れないが、一般の人から見ると小さな一歩だ。

「いやぁ、それがだねブラザー」

 遅刻してしまうのに正当な理由があれば俺も怒ったりはしない。ただ、神倉の場合はーー

「昨日ーーあ、いや正確には0時を回っていたから今日やってた深夜アニメの消化をしたあと、そのアニメの感想を集めてブログに書いてたら夜が明けてたもち〜」

 こんなくだらない理由であった。

「あのなぁ……お前そんな理由で遅刻していいと思ってるのか?お前の親がどんなのかよくは知らないが、それでも金は払ってもらってる身だぜ?」

 そりゃあ俺も怒るさ。これに関してはきっと皆んな同じであるはずだ。

「やめないか二階堂。遅刻はさほどしないとはいえ、学校に来て常に眠っているお前が言っていいような台詞ではないぞ」

 いや、そうではなかったようだ。委員長様だけはどうやら神倉の味方らしい。

「はいはい悪かったよ……」

 心の中で軽く舌打ちしながらそう返した。

「“はい”は一回だ、二階堂。二回なのは“どう”という言葉を使う時だけにしておけ」

 はぁ……全くなんでこうこの委員長様はこんなど底辺の俺に突っかかってくるんだ?

 クラスカーストーーいや、学年カーストーーいやいや、学園カースト上位にいるんだからその頭良い奴らとつるんで地球に隕石がいつぶつかるかとか人類のためになる事を話し合っていればいいじゃないか……。

「は〜い、ご忠告どうどうも〜」

「茶化すな!」

 そう委員長は怪訝そうな顔つきで言い放ったが、唇の端がヒクヒクと震えていた。どうやらこういう系のギャグには弱いらしい。

「それでそれでブラザー、話がボッキボッキに折れてしまってたけれど、一体何の話をしていたんだい?」

 話がひと段落したのを見計らって、神倉がおもむろに口を開いた。

「あぁその事なんだがな、今日は俺の妹ーー文那の誕生日でな。それを祝うためにみんなでケーキとかお菓子を作ろうって話をしてたんだ」

 その話を聞くと、神倉は「ブラザーのシスターのバースなデイ⁉︎」と驚愕した。

 やかましい。

「お前も来てくれるか?」

「フフッ……なんて愚問だシスターのブラザー。シスターのブラザーのファーストのビッグのブラザーであるこのシスターのブラザーのブラザーのぼくがーー行かないわけないじゃないか‼︎」

「やかましい!シスターとかブラザーの言葉の交通渋滞で何も話が入ってこなかったわ‼︎」

 こいつ……ブラザーのシスターって語呂の良さにハマってるだけだろ……。

「行くってこともち!」

 神倉はサムズアップするとそう言ってウィンクをした。

「……最初からそう言え」

 はぁ……ほんとこいつといると無駄に疲れる。前回の感動を返してくれ……。

「あ、そういえば」

 危ない危ない、ツッコミに夢中になり本来一番伝えなきゃいけない事を忘れるところだった。

「なぁ神倉、その誕生会なんだがーー宮鷹由莉奈を呼ぶ事は出来たりしないか?実は俺の妹が大ファンでな。可能なら合わせてやりたいんだ」

 神倉はあの一件があった後、どうやら宮鷹と相当仲が深まったらしく、事務所の目を盗んでは二人でお茶をして楽しんでいるらしい。

 それを妬んで俺も宮鷹とプライベートで話してみたい、という個人的感情からこの提案を思い付いたという事は決してない。うん、決して。

「いいよブラザー!ちょっと聞いてみる!」

 言うが早いか神倉はポケットからスマホを取り出すとラインを開いて宮鷹由莉奈と書かれたアイコンの人物にメッセージを送った。

 えっ、お前宮鷹由莉奈のライン持ってんの⁉︎ちょっと俺にも教えてくれないか⁉︎

「あっ、返信きた!」

 送信してまだ数秒だというのに、すぐに返信が来た。

「“ドラマの収録が入っていますので途中参加になってしまいますが、是非行かせて頂きます(╹◡╹)”だって」

「うそ⁉︎当日アポなし参加オッケーなの⁉︎すっご!神倉の力すっご‼︎」

 ダメ元の宮鷹が参加してくれるという事実に、テンションの上がりが抑えきれなくなる。

 それは他の面々も同じなようだった。

「えっ⁉︎ユリーナ来てくれんの⁉︎すごない⁉︎」

 彩音なんて机から乗り出して神倉に食い入るようだった。

「別に僕の力って訳じゃないさ。由莉奈もブラザーに挨拶がしたいって前々から言ってたし、これはもう星の導きにより定められていた運命だよブラザー!」

「はーまじかーすげーわ」

 宮鷹由莉奈が家に来る。

 その事実だけで有頂天になっていた俺は、神倉がさりげなく宮鷹の事を“由莉奈”と親しく呼んでいる事など気にもならなかった。

 あぁ、文那の誕生日最高‼︎大成功させるぞ‼︎

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