表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んでていいから生きててほしい  作者: やりいかのフリット
18/61

人の心は裏腹模様 ルートB

『彩音のいるメイド喫茶へと出向く』を選んだ方はこちら。













「あの…予約していた二階堂です」

 目的の場所に行く前に、俺は駅前の花屋へと立ち寄ると、事前に注文しておいた白い百合の花束を受け取った。

 その花束を手に、俺は道なりに歩き目的地へと向かう。

「たしか……ここを曲がった所だよな」

 俺は大きく深呼吸をすると、角を曲がった。

 するとーー目の前には


【神倉家】という看板とともに告別式の会場が設置されていた。


 会場には、制服に身を包んだ霞浦高校の生徒達でごった返していた。

 この光景を見て、初めて“神倉順斗は死んだ”ということを実感させられた。


 突然の出来事だったーー


 彩音のメイドカフェでお茶を飲み一服していた俺は、周りのことなど気にしていなかった。だから、外で起こっている異常に気づかなかった……。

 初めて校舎の外を見たのは、グラウンドから悲鳴があがったときだ。

 窓からグラウンドの方を見ると、真下の地面に赤い血溜まり広がっていて、その上に男子生徒の死体があるのがわかった。

 俺は残酷なその現場からすぐに目を逸らした。

 だから、その男子生徒が誰かわかったのは、家に帰った後ニュースで俺の学校が取り上げられ、


 そこで屋上からの飛び降り自殺をしたのが“神倉順斗である”と聞いた時だった。



 心の整理がつかず、涙の一粒も出ない俺に代わって、空が大粒の雫を落とし始めた……。

 会場の外にいる霞浦高校の生徒達が「きゃーきゃー」と場所もわきまえず喚き始める。

 だがしょうがない……俺たちのクラスはまだしも、他のクラスの人間からすれば神倉なんて“同じ学校だった”という認識しかないわけだから、そんな奴に真面目に祈りを捧げろなんて方が無理な話だろう……。

「うわっ!何っ⁉︎」

 急に強い風が“その集団に()()襲いかかると、彼女たちは地面へと尻餅をついた。雨でぬかるんだ地面は、彼女たちの制服を泥で汚した。

「天罰だな」

 俺は鼻を鳴らし彼女たちから視線をはずすと、会場へと足を踏み入れた。

 会場へと入ってすぐ、喪服に身を包んだ星空先生が、スーツを着た若い女性と話していた。

「この度は、順斗さんの事ーーお悔やみ申し上げます」

「えぇ、痛み入ります。どうぞ、よければお焼香をあげていってください」

 女性は先生には目もくれず、忙しそうにスマホをいじらながらそう答えると、奥の部屋を指差した。

 星空先生は一礼すると、お焼香をあげる部屋へと進んでいった。

 話から察するに、今星空先生と話していたこの若い女性が神倉の母親ということらしい。どう見ても二十代後半以上には見えず、神倉ほどの息子がいる母親には見えなかった。

「あの……神倉順斗くんの、お母様ですか?」

 俺は星空先生に変わり神倉の母親の前へ行くと、そう問いかけた。

「はい、そうですが?私は神倉倉妃美嘉(きみか)と言います」

 そう答え、神倉紀美嘉は一瞬だけ俺を見るとすぐに視線をスマホへと戻した。

「その制服ーーあなた、あの子のクラスメイトの方ですか?」

「はい、俺は彼のーー」

 あいつをーー()()()()()()()()()()()()()()()が友達を名乗る資格なんて……そんな言葉が、俺の脳裏をよぎった。

「ーークラスメイトです…」

「……ふーん、面倒くさい子ね、あなた。そんな変なことを気にして」

 神倉紀美嘉は、どうやら俺の一瞬の言葉の間から心情を察知したらしい。スマホを弄りながら、めんどくさそうにそう口にした。

「あなた、見舞いの品はもう食べました?」

 おもむろにそう問いかけられた。

「いいえ……さすがに、そんな気分ではなくて…」

「……へぇ、そうなの。あれ、結構高かったんですけどね」

 神倉紀美嘉はそう言ったあと小さく息を吐き、スマホをいじる手を止めた。

「ねぇ、少しお聞きしたいんだけど、いいですか?」

 断る理由もない、俺は首を縦に振った。

「あの子がどんな子だったか教えてくださらない?このあと親族で集まるらしいのですが……私、あの子の事全く知らないものでして。その席で私があの子がどんな子だったかも話せないようじゃ、親としてみっともないでしょう?」

 神倉の母親から放たれたその言葉を、俺は一瞬理解できなかった。

 息子が自殺したというのに、この母親が気にしていたの息子より、世間体だったーー

「あんた……息子が死んだっていうのに気にするのはそんな下らないことなのか⁉︎」

「しょうがないじゃないですか。あの子を引き取ってから顔を合わせたのなんて2,3回程ですし。あんな低俗な親戚たちに下に見られるのが嫌なんですよ」

 神倉紀美嘉はため息をついてひどく気だるそうにしていた。

「それとあなた、一つ間違いがありますよ?」

 言って俺を見る。

「あの子ーー神倉順斗は別に私の息子ではありません。あの子は私の前夫の連れ子ーーつまり私とは全く血の関係なんてないんです。そんなもの……自分の子供と呼べますか?」

 冷たく、先程と変わらないトーンで、神倉紀美嘉はそう吐き捨てるように神倉の事を語った。

「まったく……金ばかりかかって、おまけに最後は自殺で私の面目を潰して……本当に困るーー」

 わからなかった、俺はーー考えるよりも前に、その女の頬を殴っていた。

「あーーあなた、何するの⁉︎」

 衝撃で倒れた女は、右頬を抑えながらそう叫んだ。

 俺は怒りで震えながら、このクズに叫ぶ。

「あいつはなーー広い家で一人だった。そこで、誰にも気付かれずに死んでいたんだ……誰にも助けを求められずに死んでいったんだ……それでもな、あんたの事を神倉は一度だって悪く言ったことはなかったぞ‼︎」

 だがその言葉は、神倉眞姫那には届いていないようだった。

 彼女は俺には目もくれず、無様に床に手をつき、あたふたと落としたスマートフォンを気にしていた。

「あぁ、スマホの液晶が‼︎どうしてくれるのよ‼︎今取引先との重要な契約をしていた最中なのに‼︎」

「こんな時でも……息子の事よりそんな事かよっーー‼︎」

「やめろ!クソガキ‼︎」

 女にもう一発入れようとしたところで、背後から大柄の男二人に取り押さえられた。

「くそ‼︎はなせ‼︎」

 大の男二人に抑えられたは、元々貧弱な俺では逆らうことなんて出来なかった。

「早くその子を連れ出して下さい‼︎もう二度とここには入れないで‼︎」

 そう言い放った神倉眞姫那の命令により、俺は男達に引きずられながら会場の外へと出される。

「俺はーー俺は絶対にあんたを許さない‼︎神倉を殺したのは他でもない、あんただ‼︎」

 だが、その最後の叫びさえも、あの女には届いていなかった。

「あぁ……!本当最悪です‼︎ほんとあの子は疫病神でしかないわ‼︎」

 そう叫ぶ女を、俺は最後まで睨み続けた。



「オラ!二度とくんじゃねぇぞ‼︎」

 ベチャ…と雨で濡れたアスファルトへと投げ捨てられる。

 黒一色に塗られた空から降る雨粒が、俺の体を濡らした。

「神倉様を殴ろうなんて、あの人が寛大じゃなかったらテメェ消えてたぞ。運が良かったなクソガキ‼︎」

 そう捨て台詞を吐き、男達は会場へと戻っていった。

「あんな毒親…あの中でも、よくお前はあんな明るく育ったよ…」

 乾いた笑いを浮かべながら、俺は泥にまみれた体を起こす。

「……ぅ……ぅ」

 ザーザーと降る雨音の中に、鈴の音のような澄んだすすり泣く声が、聞こえた気がした。

「あっちの方……か」

 俺は何故だかその声に引かれ、泣き声のする方へと足を運んだ。

 会場を出てすぐの角を曲がった所で、雨にさらされながら、喪服姿の女性が顔にハンカチを当て泣いていた。

 栗色の髪の毛は雨に濡れ、悲しみの音が、雨粒に反響していたーー

「あんたーー何でこんな所に」

 ずっとここにいたのだろう、その女性ーー宮鷹由莉奈の服はずぶ濡れだった。

「あなたはーー」

「神倉順斗の…………友達だ」

 俺は、詰まりながらもそう口にした。

「そうでしたね……そういえばあの時、あなたは神倉さんのお家をさがしていたんですもんね」

 宮鷹は赤く腫れた目で、無理やり笑ってみせた。

 あの時、神倉の家まで俺を案内してくれた怪しい女性ーーそれが宮鷹由莉奈だった。

 本当ならまた再開出来たことに喜びたいが、今はそんな気分には到底なれなかった。

「神倉とあんたに、何か関係があったのか?」

「神倉さんは…校舎の天井から飛び降りようとする私を庇って……私を引き上げる際、代わりに……」

 最後は、宮鷹はキュッと口を閉じ、肩を震わせていた。

「そうだったのか……」

 あの時、屋上に宮鷹の姿があったのはそういうことだったのか。

 神倉……お前は最期に、誰かを助けるヒーローになれたんだな。

 だが、鳴り止むことのない雨音は、宮鷹のその言葉を闇の中へと、溶かしていったーー

 結局、神倉のしたことは…誰にも伝わらない……あいつは、世間からは自殺した高校生として扱われる。

「もう、手は合わせたのか?」

「いいえ…私が入れば会場が混乱してしまいますから」

 宮鷹はすすり泣きながら「それに…」と付け加える。

「事務所から、もうこの件に関わることは許さないと言われてしまっていて……ごめんなさい!私ーー弱くて、臆病者だから……逆らうことが出来なくってっっ‼︎」

 必死に声を振り絞り、そう胸の内を叫んでいた。

 人気アイドルが自殺を図り、無関係の人間を巻き込む殺してしまったーーそんな事が公になれば、もう宮鷹は芸能界で生きていく事など出来ないだろう。そんな事を、事務所が許すはずはなかった。

「……だから、ずっとここにいるのか?」

「はい……せめてーー入れなかったとしても…近くで、彼に祈りを捧げたかったんです……」

 (せき)を切ったように宮鷹の瞳から涙がこぼれ落ちる。

「わたしが……わたしが彼を、殺してしまった、から……」

 宮鷹が顔に当てたずぶ濡れのハンカチは、もう水分を吸収する機能など残っていなかったーー

 宮鷹はただ“ごめんなさい……”と言って泣いていた。

「いいや、お前が悪いわけじゃないさ」

 気休めの言葉を、宮鷹にかける。

「これはーー」


 “これは、***のせいだ”


 あの時、***が違う行動を取っていれば避けられていた事象。

 こんな悲しい想いをせずにすんだ。

 この世界に、彼の存在は欠かせない。彼がいなければ、***に……いや、みんなに救いが訪れることはない。

 もうーーこの世界は終わりだ。

 悲しみに包まれたこの世界をもう救ってあげることはできないーー

 全ては、大いなる意思の赴くままーー

 だからーー世界が幸せに包まれるその日までーー


 さようなら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ