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魔王討伐直前の勇者M、双子Sにメロメロにされて人族を裏切る  作者: モコナッツ


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9/10

⑨勇者、断罪の時

次話が最終話になります。

 魔王に謁見した翌日。


 俺は魔王城で一晩を過ごした後、正式に停戦協定の書状と聖剣の借用書を手に入れることが出来た。今日ほど聖剣が、個人所有のスキル扱いで良かったと思った事はない。


 魔王は紛れもない王だった。


 本当は日帰りでその足で帰る予定だったが、急な訪問にも関わらず毒味付きの食事まで用意してくれた上、浴場や手土産まで持たせてくれた。


 帰りは魔王領の領境まで馬車を出してくれるという厚遇っぷりだ。


「貴様のような戦士を手ぶらで帰したとなれば、余の恥である」


 服は着せてくれたが、恩は着せなかった。


 あれが王というものなのだろう。

 魔王軍の練度が高いのも納得だ。


 とにかくこれで、外堀は埋めることが出来た。


 ただ……まだ一番大きな問題が残っている。

 ここで対応を間違えると、最悪、俺は死ぬことになる。


 さあ、最後の勝負だ。


 俺はバルゴに戻った後、そのまま覚悟を持って、ミルとメルのいる森に向かった。


 ◇ ◇ ◇


 二人が住む洞窟は河原から少し離れた森の斜面にある。バルゴからそう遠くないとはいえ、人里から離れた禁忌の樹海の中だ。他の人間と出会う事はほぼ無いだろう。


 俺が訪ねると、二人はタイミングよくいつもの河原の近くを散歩していた。


 二人の少女は俺を見つけると、パッと顔を輝かせる。それだけで、魔王城に飛び込んで来た苦労が全て報われた気がした。


「あっ、お兄さん。お帰りなさい」

「……ただいま」

「あれ、なんか緊張してる? ……クスクス、分かった。昨日会えなかった分、イジメて欲しいんだね。いいよ? ほら、今日もぐちゃぐちゃにしてあげる」

「やめろ! 今はちょっと待って!」


 小悪魔モードのメルを慌てて制止したが、少しだけ遅かった。


 突如バリッ、とした殺気が辺り一面に飛ぶ。


「えっ、何今の? なんか一瞬もの凄い魔力を感じたんだけど!?」

「あわわ、お姉ちゃん、怖いよう……」

「……悪いけど、今はお家モードでお願いします……」


 怯える二人を宥めながら、俺は魔王とのやり取りを一つ一つ話していった。


 魔王軍の認識としては、もう俺は勇者をやめた事。

 聖剣も預けてきた事。

 俺が狙われる事は無くなった事。


 そして……魔王の手土産の件。


「ほら。これがその権利書だ」


 二人に見せたのは、魔王領の一部を勇者とその親族に無償で貸与するという権利書だ。


 担当者から説明を受けたのは魔王城から比較的近くの、住宅地からは少し離れた場所らしい。尤も、勇者の顔は割れてないらしいのだが、その辺りも含めて考慮してくれたのだろう。


 つまりは魔王様からの、粋な計らいである。


「これで魔王軍でなくても、魔王領で棲家を持てるぞ。まあ、別に今すぐにここを引っ越せって訳じゃないけど、もしここに何かあった時に自分の土地に戻れるっていうのは、悪くないんじゃないかって思ってさ」


 二人はその説明を一部始終、黙って聞いてくれた。

 そして一通り話が済んだ後、まだ実感が持てないという感じで、ゆっくりと口を開いた。


「お兄さん……」

「……お兄ちゃんは何でここまでしてくれるの? メルが前に故郷の話したから?」


 理由なんか山ほどあった。なんだって良かった。


 二人の事が好きだから。

 二人にもっと、幸せになって欲しいから。

 安心して暮らして欲しいから。

 美味しいものを食べて欲しいから。

 そもそも、俺がマゾだから。


 ただ……そう。

 一つだけ挙げるなら。


「俺を人間に戻してくれたから、かな」

「どういう事?」


 ミルとメルが顔を見合わせた。


「細かい事はよく分からないけど。まあ、取り敢えずこれからは三人で暮らせるって事だね!」


 ミルがそう言った時、再び空気がびりついた。

 並の冒険者なら、それだけで失神するほどの殺気。


「勇者様、おめでとうございます。……御三方とも、大変仲がよろしいようで」


 虚空から突然響く声に、二人が震え上がる。


「ひやっ! 声!? 何なのよぅ、さっきから!」

「お姉ちゃん、お兄ちゃん! 怖いよう!」

「その件なんだけど……実はもう一人増えるか、あるいは減るかって問題があって……」


 俺は声の方を向いた。

 完全に気配を遮断するはずの結界なのに、殺気が溢れ出ている。


 聖剣のない今、間違いなくこの場の最強戦力。歩く慈愛。そして災害。魔族過激派宗教の2世。そして、俺の最愛の人。


「初めまして、ミルさん、メルさん。リリアと申します」


 そう。


 聖女リリアである。


 ◇ ◇ ◇


『リリア……話がある』


 一昨日の夜。


 俺はリリアに、ミルとメルの事を話した。嘘をついて会いに行っていたことや、自分の性癖についても、包み隠さず話した。


 それだけじゃない。


 勇者としての使命を果たす事に嫌気が差してしまった事、魔王を倒しても、それは人族の勝利という結果だけで、争いは無くならないと知ってしまった事。勇者をやめるため、魔王に個人的な停戦交渉を申し出ようと思っている事。リリアにも教義や聖女を降りて欲しいと思っている事。


 そして……双子と暮らしたい。リリアとも暮らしたい。俺はどちらも愛していて、どちらか片方だけを選ぶ事は出来ないと思っている事。


 リリアは時折り顔を青くしながらも、黙って聞いてくれていた。その間、俺を責めることもしなかった。


 強い女性だ。俺はリリアのそういうところが好きだった。


 だが。


 全てを聞いた後。


 リリアが唇を噛み締めながら、静かに口を開いた。


「許しません」


 ……でしょうね。


 仕方ない。

 こうなったのは全て俺の責任である。


 俺は、死を覚悟した。


 俺が殺されるのは仕方ないとしても、せめてミルとメルが逃げる時間くらいは稼がないと。そう思った。


 ただ、リリアから出てきたのは意外な言葉だった。


「取りあえず、魔王との話が纏まったら一度、その二人に会わせてください」


 ◇ ◇ ◇


 すまない。ミル、メル。


 最悪、三人とも死ぬ事になるかもしれない。


 せめて二人の逃げる時間だけでも、稼がなければ。

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