⑩勇者エムリット、幸せに暮らす
「成程……勇者様から聞いてはいましたが、お二人はやはり淫魔なのですね。それも双子ですか……」
「リリア、その、一昨日も話したけど二人は何も悪くないんだ。俺が勝手に会いに行っていただけで」
「実に可愛い子達ですね。そう思いませんか? 勇者様?」
「はい……」
分かっている。
俺が悪い。全面的に悪い。
ただ、俺が悪いという事をリリアに伝え切れた自信がない。彼女は普段は温厚だが、これは本当に怒っている時のそれだ。
「お姉ちゃん、あの人怖いよ……」
「『しゅらば』ってやつじゃない? マズいよ……あの人、お兄さんより全然強そうだよ」
何やらミルとメルが怯えながらヒソヒソと話している。良かった。
生存本能なのか、二人も今のリリアを煽るような事はしないらしい。
「失礼ながら、先程のやり取りは全てお聞きしていました。そしてお二人の事も、勇者様から聞いてます。とても大切な方達だと。だから、一先ず傷付けるようなことはしません。『お二人』には」
「ひっ!」
「お兄ちゃん、大切だって……バカだなあ///」
違う。そうだけど、違うぞメル。
今大事なのはそこじゃない。
「聞きたいのですが、貴女達は勇者様の事をどう思ってるんですか? 淫魔にとっては男性は餌であって、それ以上でも、以下でもないと思うのですが」
リリアの問いかけに二人は目を丸くする。正直に言って、そこは俺も少し気になっていた。
「えっ? うーん、そうだなあ……。ミル達にとってのお兄さんは……その、お気に入りの玩具、かな?」
「そうだね。お兄ちゃんはメル達の玩具だね。だから、その……取らないで欲しいっていうか……」
二人とも、こんな時まで……最高すぎる。
やはり、離れたくない。
「……成程、玩具、ですか。ちなみに普段はどうやって遊んでるんですか?」
ん?
「それはね、色々あるよ? 踏んであげたり、縛ったりとか。この前なんか、鞭で叩いてあげたらビクンビクン、って泡吹いて気絶しちゃったの! あはは!」
話している間に思い出したのか、メルに少しだけスイッチが入る。
「……私達は悪くないよ? だって全部、お兄さんがして欲しいって言ってるんだもん。見ててね。ほらっ」
バシッ
「うっ!」
「勇者様!!」
ミルが俺の頬に容赦なく平手打ちを加える。
「この、お前っ……!」
「ね? こうすると、凄く気持ちいい顔するの。面白いでしょ?」
「ありがとう……ございます……」
「あ……あああぁっ……!」
リリアの顔が怒りから一転して絶望に変わる。一応、事前には伝えていたが、やはり実際に見るとなると全然違うのだろう。
俺もいつもより感情を抑えてはいるが、それでも身体だけは反応を抑え切れない。
情け無い恋人ですまない……
「お姉ちゃんずるいよー。やって良いなら早く言ってよ。ねぇお兄ちゃん、やっぱり待ってたんだよね? ほらぁ、自分の口から言ってみろよ? どうして欲しいのかさあ?」
「やめ、いや……最高です、メル様……」
「答えになってないだろうが! あはは!」
バシッ バシッ
「あっ! あっ!」
胸ぐらを掴まれたまま容赦なく平手打ちが加えられる。
ああっ飛ぶ、トブ。
二日ぶりのビンタ気持ちいいよぉ〜っ!
「……成程、そういう遊び方ですね。…………すみません、ちょっとお借りしますよ」
メルから奪い取るように俺を引き寄せ、リリアはまじまじと顔を眺める。
「そうですか……何の魔術の痕跡も無い。操られているわけでも、魅了されているわけでも無い。つまりこれが本当の勇者様、というわけですか……」
「り、リリア?」
「喋らないでください。気持ち悪いです」
「!」
普段の優しいリリアとは真逆の侮蔑的な目。ミルやメルの嗜虐的な笑みとは違った。氷の様な蔑みの眼差し。何故か心臓が高鳴る。
「……私、出会った時からずっと貴方のことが好きだったんですよ。周りが色恋の話をしていても、ずっと聖女の務めばかりでろくに遊びにも行けませんでした。友達も誰一人いませんでした。だから、貴方が最初に聖女じゃなく、「リリア」と呼んでくれた時、本当に嬉しかった」
「リリア……」
「本当に愛してます、勇者様」
そうか……リリアもずっと、俺よりもずっと長い間、同じ悩みを抱えていたのか。勿論、それだけじゃ無いだろうが、だからこそお互いに居場所を求めるようにして、俺達は惹かれあったのだと思う。
「俺も愛し」
「だから、残念です。私の好きな人がこんなだらしない顔で、ブヒブヒ涎を垂らしているのが。ほら、豚は豚らしく四つん這いになってお鳴きなさいな」
「! ……ブ、ブヒッ! ブヒブヒ!(喜)」
「不細工な豚ですね。ほら、そこにちょうど良い草が生えてますよ。食べなさい」
「ブヒッ、ムシャムシャ! ……うべっ! リリア、これ毒草っ……!」
「は? 誰が喋って良いと言いましたか? 知りませんよ、食べなさい。気が向いたら死ぬ前に治療してあげます」
「……ぶ、ぶひぃ(泣)」
嫌だ、苦しい。あっでもリリアの蔑むような目、好きかも……。
でも、これは……大丈夫なのか? 全身が痙攣してきたけど、助かるのか? 俺……
「……成程。これは案外楽しいかもしれませんね」
リリアは俺の様子にニコリともせず、複雑な表情を浮かべる。戸惑っているのか、合わせてくれているのか、何にせよ、良き……
「うっ、おえぇっ……」
「あらあら。吐き出しちゃってみっともないですよ、勇者様。ほら、次はあちらの草を食べてみましょうか? 美味しそうですよ?」
「ふっ……ぐっ……ブヒっ……」
リリアの斬新な攻め方を見て、何故か二人は恍惚の表情を浮かべている……
「お姉様……」
「リリアお姉様だ……」
ミル、メル……見てないで助けて……!
ちょっと……これはまだ、レベルが高すぎっ……
そこで意識が暗闇に包まれた。
「勇者様!」
「あーあ」
「あはは」
あー……幸せだ。良い人生だった。
◇ ◇ ◇
それから数週間が経った。
「ほら、ポチ。お菓子で手が汚れてしまいました。どうしたらいいと思いますか?」
「ワンワンワン!(ペロペロペロ)」
「勇者様、生きてて恥ずかしく無いんですか? こんな姿を王都の人々が見たらどう思いますかね? 今度街中でやってもらいましょうか」
「クゥーん……」
「こんなマゾの変態を愛してあげられるのは私くらいですよ? 感謝してくださいね?」
「ワン!(歓喜)」
「〜〜〜〜! ……ほら、ポチ。貴方の涎でベトベトになった手でどうして欲しいのか言ってごらんなさい」
「ハッ、ハッ、ハッ」
「気持ち悪いですね。するわけないでしょう、穢らわしい」
……まさか、リリアにこんな才能があったなんて。
たまにレベルが高すぎて付いて行けない事もあるが、俺の為に頑張ってくれている事も知っている。
「あの、リリア」
「え? ポチ、いえ勇者様、どうしましたか?」
「愛してる。本当に君と出逢えて良かった。これからもずっと、俺のそばにいて欲しい」
「えっ、えっ? 勇者様? これって、もしかしてプロポ」
「お兄ちゃん、次私とあそぼー! あれ? ど、どうしたのお姉様……顔、怖いよ?」
「別に……」
リリアと俺は相変わらず愛し合っている。
俺は彼女のことを少し誤解していた。俺が聖女ではなくリリアを愛していたように、彼女もまた、勇者ではなく俺の事を愛してくれていた。
……名前はまだ、恥ずかしがって呼んでくれないが。
「お兄ちゃん、今日はこの”マシュマロ”ってお菓子を、窒息するまで口に詰めてもらいます」
「はいメル様」
「こらっ、食べ物で遊んじゃダメよ、メル?」
ミルとメルも相変わらずだ。
変わったことといえば、洞窟ではなく森の木を使って俺が小さな家を建てた事と、俺とリリアの蓄えを使って人族のお菓子や食べ物をミルとメルも好きな時に食べられるようになった事だ。
家の周りはリリアの認識阻害結界で覆っているから、魔物や人に見つかる心配もない。
ゆくゆくは少しずつここを大きくして、村を作ろうと思っている。種族間や貧富の争いに疲れた人達の隠れ里みたいな場所になればいいな、と思っている。
「お兄さん、また魔王様のところに行くの? 今度はミル達も連れてってよ。別荘ってとこ、見てみたい」
「ああ、いいぞ。一緒に行こう」
気に入ってもらえたのか、魔王とも個人的に良好な関係が続いている。もう少し落ち着いたら、一度王都に戻って人族の王ともきちんと話が出来ればいいと思う。
「マシュマロがダメならどうしようかなー?」
「その辺の泥でもいいのでは? きっとポチなら喜んで食べてくれますよ」
「あはっ、お姉様鬼畜過ぎ♪ それはもうただの拷問だよ?」
「えっ、そうなのですか? うーん、塩梅が難しいですね〜……」
……うん。いつも通りだ!
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの名前ってポチなの?」
「あー。これはリリア、いや、ご主人様がつけた仮の名前で……」
「ふーん……じゃあ、お兄ちゃんの本当の名前は?」
「言ってなかったっけ? 俺の名前は……」
fin
ここまで読んでいただきありがとうございました!
誤字、脱字も多くて途中読みづらいところも多々あったと思いますが……
この結末を、良かった!と思ってもらえると幸いです。
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ありがとうございました!




