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魔王討伐直前のマゾ勇者、メスガキ双子サキュバスに負けて人間を裏切る  作者: モコナッツ


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8/10

⑧勇者、魔王と対峙する

魔王視点です。

 魔王の執務室はいつものように整っていた。


 紅茶を飲みながら窓の外を見て、短くため息を吐く。


 合戦が近い。


 ここ数日、魔王城はかつてないほど厳重な警戒態勢だった。

 それもそのはず。これまで幾度となく魔王軍を退けた勇者が先日とうとう霊峰の神獣『白虎』を破り魔王領のすぐ近くまで来ているという報せが入ったのである。


 近くには人族と亜人族の、最強の防衛拠点がある。

 そこと組んで攻め入られては地の利があるとはいえ、苦戦は必至。


 いや……たとえ二人だとしても、だ。

 白虎は四神と呼ばれる神にも近しい存在。それを聖女とたった二人で倒した勇者だ。


(可能なのか? 人が神を殺すなど……)


 今は各地から幹部を呼び寄せ、魔王城周辺の警備を固めている最中だった。


「魔王様!」


 側近の一人が駆け込んでくる。


「なんだ、ノックもせずに」

「勇者です! 勇者が来ました!」


 突然の強襲に思わず立ち上がる。とうとうこの時が来た。

 王が臣下に不安を見せるわけにはいかない。


「来たか……。して、敵の数とこちらの被害状況は?」

「はっ。敵は勇者一名のみ、被害は今のところゼロです!」


「一人だと……馬鹿な。ん? ゼロ?」


 聞き間違いか?

 訳が分からなかった。


「それが勇者は、こちらが矢を射ても魔法を撃っても、一向にやり返して来ず……。とにかく『魔王に会わせてくれ』の一点張りで……」

「……まて。さっきから話が見えん。つまり勇者は余と一対一で決着を付けるのが望みなのか?」


 勝てる訳がない。

 戦いだけしていれば良い勇者とは違うのだぞ。

 一対一なら、せめて騎士団長を指名しろ。


「我々にも何が何だか……しかも、その勇者なんですが……」

「まだ何かあるのか」

「丸腰です。全裸です……」


 ……なるほど。


 此奴。

 勇者が近くに来たと聞いて、乱心しておる。


「……貴様、余を馬鹿にしておるのか? クビになりたいのか?」

「いえ……とにかく一度見ていただけないでしょうか。正門前で待機させておりますので」

「はあ……よし。そこまで言うなら、一応見てやろう。だがもしふざけていたら、覚悟しておけよ」


 一応装備を整え、側近を数名連れて城門の隙間から覗き込む。


 居た。


 確かに全裸の男が外堀の前に鎮座している。余も元々は一国の将である。一目見ただけで、強者だと分かる。


「勇者か……成程、間違い無さそうだな」


 全裸ということは、戦う意志は無いということか。良かろう、丸腰で一人で来たというのなら会わぬわけにもいくまい。


「誰か、彼奴に服を用意してやれ。面会する」


 ◇ ◇ ◇


 半刻ほどして、謁見の間に服を着た勇者が現れた。


「お初にお目にかかります。魔王様、突然ご無礼をお許しください」

「勇者よ、堅苦しい挨拶は結構。貴様らと我々は敵対関係の筈。此度は何用か」


 本当は全裸である理由を聞きたかったが、物事には順序がある。


 その言葉を聞いて、勇者は顔を上げて立ち上がった。


 どよめく側近を、手で制止して勇者を見る。


「そうか……なら単刀直入に言おう。俺は今日限りで勇者をやめた。聖女もやめる予定だ。王都とも縁を切る。金輪際、お前らに危害は加えない。だからもう俺を狙うのはやめろ」

「ほう……」


 何を言い出すかと思えば、事実上の停戦協定である。それも極々個人的なものだ。


「信用出来んな。勇者……お前のせいで今までどれだけ多くの国民が犠牲になったと思っておる。お前の事情は知らんが、魔族領ではお前は殺戮者の狂人だ。到底、看過出来んな」

「まあ……そうだろうな。だが、それはこちらも同じだ。お前らが襲って来たせいで多くの仲間が死んだ。そして少なくとも、俺は自分から仕掛けたことはない」


 勇者は毅然としていた。

 本当ならば有難い。しかし、余が首を振っても臣下を納得させねば意味がない。


「もし、貴様が本当に停戦を望むなら書面で残してやっても良い。但し、その申し出を信ずるに足る証拠を差し出すのが条件だ。例えば貴様の家族を魔王領内に住まわせる、等はどうだ?」

「悪いが俺に家族はいない。ガキの頃、お前らに殺された」

「……」

「だから、これをお前らに預けようと思う」


 勇者は亜空間を開くと、聖剣を取り出した。

 ただ自分で持つ事はせず、聖剣はそのまま床に落ちた。


「まぁ……俺にしか扱えないが、これで俺が単独で魔王軍を滅ぼせる事は無くなった。これをあんたに預けたい」

「正気か? これは勇者の証ではないのか? 人族の名誉と誇りではないのか?」

「そうだ。だから俺には必要ない」


 考えれば考えるほど、こちらには何の損もない取引だった。

 勇者は狂人には違いないが、悪人ではないのかも知れぬ。


「…………良かろう。だが勇者よ。それは人族への裏切りぞ。お前が消えても、人と魔族の対立は決して無くならぬ。それを識ることだな」

「ああ。だからここに来た」


 そう言った勇者の目には何の迷いもなかった。

 ふむ……戦士とは、こういうものか。

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