第91話 火と契約
カーヴィー伍長の一撃が、真っ直ぐに振り抜かれる。
火を纏った軽直剣が、グラヴァンディアの胴を捉える――
だが。
鈍い音。
刃は止まった。
巨体の表面に、石が盛り上がっている。
硬化。
防御。
「……硬い!」
怜が即座に踏み込む。
風神。
斬撃が空間を走る。
だが、その動きはわずかに鈍い。すでに“境界を斬る斬撃”を放っている。魔力は削れている。
同時に。
「行くでぇ!!」
未央が雷を纏い、一直線に突っ込む。だがこちらも消耗している。先ほどの離脱で魔力を大きく使っている。
二人の攻撃が、同時に命中する。
衝撃。
土煙。
だが。
浅い。
確かに通ったが、致命には届かない。
「……これは、まずいで」
未央が歯を噛む。
カーヴィー伍長が加わり、三方向からの連携。
それでも。
グラヴァンディアは、崩れない。
その巨体がわずかに動く。
次の瞬間。
カーヴィー伍長が弾かれ、位置が崩れる。
空いた。
そこを、撃ち抜く。
一直線。
バルドルへ。
衝突。
吹き飛ぶ。
地面を転がり、血が散る。
「……っ、もう少し丁重に扱ってほしいものだ」
軽口。
だが、傷は深い。
「バルドル! そっち専念してや!」
未央が叫ぶ。
その瞬間。
地面が、唸った。
隆起。
爆ぜるように持ち上がる大地。
「――ッ!?」
怜と未央の間に、巨大な土壁が割り込む。
分断。
さらに。
その背後。
新たな気配。
ヴェイルが、二体。
援護。
挟撃。
(まずい……!)
内心で叫ぶが、動けない。
それぞれの敵に抑え込まれる。
援護に行けない。
そして、理解する。
この地形変動。
この規模。
(……あいつがやったんか)
グラヴァンディア。
その大魔法。
規格外。
対峙。
カーヴィー伍長とバルドル。
そして、グラヴァンディア。
血を流すバルドルを見下ろし、巨体が嗤う。
「……レガリアを失ったか」
嘲り。
「貴様らは脆い」
石の表面が蠢く。
再生。
ヴェイルは、レガリア由来の魔力で自らを修復する。
バルドルは、肩を竦める。
「いやはや……少々、分が悪いな」
(……ちょっとどころじゃないが)
内心では理解している。
詰みかけている。
だが。
カーヴィー伍長は前に出る。
炎が走る。
牽制。
だが、通らない。
相性が悪い。
出力も足りない。
振り払われる。
その体が、宙を舞う。
――受け止めた。
バルドルが。
一瞬、沈黙。
グラヴァンディアが、嗤う。
「人間の味方か」
嘲笑。
だが。
バルドルは、自分の行動に一瞬だけ戸惑う。
(……今、何をした?)
だが、すぐに切り替える。
状況を、読む。
勝ち筋は一つ。
「きみ」
低く。
「レガリアを貸せ」
カーヴィーの目が揺れる。
「不安なら、そのまま拘束していればいい」
現実は明確だった。
このままでは、確実に死ぬ。
回避。
紙一重。
だが、次はない。
バルドルの視線が、わずかに鋭くなる。
(……死なせるわけにはいかない)
理由は、言語化しない。
ただ、焦りがあった。
リディア・カーヴィー。
この女は――
死なせない。
「契約を結べ」
低く。
「血の契約だ。俺は、お前に従う」
絶対服従。
裏切りは不可能。
それが保証。
カーヴィーの迷いが、消える。
即断。
拘束具が外される。
血が落ちる。
契約が、結ばれる。
次の瞬間。
バルドルが、レガリアを握る。
炎が、揺らぐ。
だが。
質が変わる。
密度。
圧。
明らかに、別物。
バルドルが一歩、前へ出る。
グラヴァンディアと、相対する。
「さて」
軽く、息を吐く。
「続きをやろうか」




