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第87話 標的

 ——時は、少し遡る。

 ——アーケイン・レジストリ。


 石造りの広間。

 無駄がない。

 机と椅子。

 壁際には書類棚。

 整然と並んだ記録。

 ここは、戦う場所ではない。

 契約を交わす場所だ。

 名と力と責任を——紙と記録に落とすための場所。

 静かだ。

 だが。

 軽い場所ではない。

 ここで決めたことは、外で命になる。

 その重さだけが、空気に残っていた。

 その中央で。

 怜と未央が向かい合っていた。


「受けるんやろ?」

 未央が先に言う。

 腕を組んでいる。

 表情は、少しだけ硬い。

「……迷ってる?」

 怜。

 静かに問う。

「迷ってる、いうか」

 未央は視線を逸らす。

「軍やで?」

「命令系統あるし、自由きかへん」

「それに——」

 少し間を置く。

「巻き込まれるやろ」

 本音だった。

 傭兵は自由だ。

 だが、軍務に入れば話は違う。

 戦場の中心に立つことになる。

「巻き込まれるんじゃない」

 怜は首を振る。

「もう、いる」

 短く。

 言い切る。

 未央の目が揺れる。

「マーラも、吾郎も、彰も行く」

「見てるだけでいられる?」

 沈黙。

 未央は、息を吐いた。

「……ずるい聞き方やな」

 苦笑。

 だが。

 否定しない。

 その時。

「悩む必要あるか?」

 吾郎が横から口を挟む。

 壁にもたれていた。

「行くなら行く。行かないなら引く」

「それだけだろ」

 シンプル。

「俺は行く」

 即答。

「マーラが動くなら、それに乗る」

 彰も頷く。

「同じく」

 短い。

 理由はそれだけで十分だった。

 未央は、二人を見る。

 そして。

 怜を見る。

「……ほんま、逃げ場ないな」

 苦笑。

「しゃあない」

 肩を回す。

「乗ったるわ」

 怜は、わずかに笑った。

「ありがと」

「まだ言うなや」

 未央。

「死んだら恨むで」

 軽口。

 だが。

 覚悟は決まっていた。

 ——



 ——地下・護送区画。

 静かな空間。

 重警備。

 だが。

 その一角だけ、どこか穏やかだった。

 椅子。

 拘束具。

 バルドル。

 その前に、女性の軍人。

 食事を運んできた。

 無駄のない動き。

 姿勢も崩れない。

「どうぞ」

 簡潔。

 余計な言葉はない。

 バルドルは、軽く目を細めた。

「ありがとう」

 丁寧に答える。

 手は拘束されている。

 だが、所作は崩れない。

 女性は無言で食器を整える。

「……興味深い」

 バルドルが言う。

「何がですか」

 女性。

 視線は逸らさない。

「恐れていない」

 バルドル。

 穏やかに続ける。

「私は敵だ」

「あなたを殺す側の存在だ」

「普通は、距離を取る」

 女性は、淡々と返す。

「任務です」

 一言。

「それだけ?」

「それだけです」

 迷いがない。

 バルドルは、わずかに笑った。


「立派だ」

 言葉は柔らかい。

 だが——

 どこか上からだ。


「ですが」

 少し首を傾ける。

「あなたのその信念」

「長くは持たないかもしれない」

 女性の眉がわずかに動く。

「どういう意味ですか」

「今夜」

 バルドルは静かに言う。

「ここは襲われる」

 空気が、わずかに張る。

「……」

 女性は黙る。

 だが。

 目は揺れない。

「それでも、ここに立つと?」

 問い。

 試すような声音。

 女性は答える。

「立ちます」

 即答。

「任務ですから」

 同じ言葉。

 だが——

 重みが違う。

 バルドルは、わずかに目を細めた。

「そうか」

 小さく頷く。

「なら、一つ忠告を」

 静かに。

「“上”に気をつけなさい」

 女性の表情が、わずかに変わる。

 その時。


 ——ギィィ。

 どこかで。

 空間が、軋んだ。

 ——



 ——屋上。


 夜。

 風。

 何もない空間。

 だが。

 そこに——

 “歪み”が生まれる。

 空間が、裂ける。

 音もなく。

 黒。

 穴。

 そこから。

 何かが、出る。

 ヴェイル。

 一体。

 二体。

 三体。

 次々と。

 落ちるように現れる。

「……来たか」

 影。

 屋上の縁。

 フィン・オドハーティ大佐。

 すでに、そこにいた。

「予想通りだ」

 笑う。

 同時に——

 別の影。

 ドナル。

 動かない。

 壁のように立つ。

 そして。

 キアラン。

 視線が鋭く動く。

「反応、増加」

「数、十以上」

「いいね」

 フィン。

 一歩、前に出る。

「派手にいこう」

 その瞬間。

 ヴェイルが、動いた。

 戦闘が、始まる。

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