第83話 評価という現実
未央は、手の中の金属カードをじっと見つめていた。
小さな板状のそれは、薄く光を帯びている。
触れているだけで、微かな温もりが伝わってきた。
そして。
そこに並んだ文字。
NAME: Mio Tennoji
ORIGIN: Hinomoto
REGISTRY NO: C-73-1286
REGALIA: Raicho
REGALIA RANK: C
PHY: B
MAG: C
OVERALL RANK: E
STATUS: Registered
RECORD: None
AGE:18
未央が、ゆっくり顔を上げた。
静かに。
だが確実に怒っている。
「ちょっと待て」
低い声。
「能力そこそこあるのに」
カードを指で叩く。
「総合Eってどういうことや」
テレサは落ち着いた声で答えた。
「総合評価は、戦闘実績および任務履歴を基準として決定されます」
未央はカードを掲げた。
「雷鳥がCはまだええ」
一拍。
「なんで私がEやねん」
テレサ。
「公式戦闘記録が存在しません」
未央。
「この前まで命がけやったやろ!」
テレサ。
「未登録期間中の戦闘は、
正式記録としては扱われません」
沈黙。
未央は天井を見上げた。
「融通きかへんなこの制度!」
横で、吾郎が苦笑した。
「まあ……役所だからな」
彰も言う。
「そんなもんだろ」
未央は、ふっと二人を見た。
目が細くなる。
「あんたらも見せてみい」
嫌な予感。
吾郎。
「え?」
未央は、すっと手を伸ばした。
奪った。
「おい!」
吾郎が慌てる。
彰も声を上げる。
「ちょっと待て!」
未央は、まず一枚目を見る。
NAME: Goro Nishikori
ORIGIN: Hinomoto
REGISTRY NO: D-73-1287
REGALIA: None
REGALIA RANK: N/A
PHY: E
MAG: B
OVERALL RANK: E
STATUS: Registered
RECORD: None
AGE:21
未央。
沈黙。
もう一枚。
NAME: Akira Saejima
ORIGIN: Hinomoto
REGISTRY NO: D-73-1288
REGALIA: None
REGALIA RANK: N/A
PHY: E
MAG: C
OVERALL RANK: E
STATUS: Registered
RECORD: None
AGE:22
未央は、ゆっくり顔を上げた。
「……」
吾郎。
「なんだ」
彰。
「嫌な間だな」
未央は、静かに言った。
「フィジカル」
一拍。
「Eやん」
沈黙。
吾郎。
「悪かったな」
彰。
「鍛えてないからな」
未央は、自分のカードを掲げた。
PHY: B
どや顔。
「見てみい」
胸を張る。
「Bや」
吾郎。
「はいはい」
彰。
「自慢するほどか?」
未央は真顔で言った。
「めちゃくちゃ健康やねん」
沈黙。
未央は指を折りながら説明した。
「朝ちゃんと起きる」
「飯ちゃんと食う」
「寝る」
吾郎。
「普通だな」
彰。
「むしろ当たり前だな」
未央は腕を組み、満足そうに頷いた。
「それが出来てる人間、意外と少ないねん」
テレサが静かに口を開いた。
「身体能力評価には、筋力や瞬発力だけでなく」
一拍。
「健康状態、持久力、回復力なども加味されます」
未央は得意げに言った。
「ほらな」
しかし。
テレサは続けた。
「ただし」
未央の表情が止まる。
「戦闘状況に限定した場合」
一拍。
「実効的な身体能力は
C相当と評価されることがあります」
沈黙。
未央。
「……は?」
テレサは淡々と説明する。
「戦闘訓練の履歴、
高負荷環境での活動記録、
継続的な戦闘耐性」
一拍。
「これらの要素が不足しているためです」
未央の顔が、ゆっくり歪む。
「ちょっと待て」
自分のカードを叩く。
PHY: B
「これ」
一拍。
「健康点数やん」
沈黙。
テレサ。
「極めて健康であることは、
重要な資質です」
未央。
「褒められてる気がせえへん」
吾郎が小声で言う。
「要するに」
彰が続ける。
「とびきり健康ってことだな」
未央。
「それだけやん」
静かな絶望。
そして。
「戦闘力Bやと思ってたのに」
一拍。
「健康優良児Bやったんかい」
完全にキレた。
ブリギットが腕を組んで言った。
「基礎体力は評価されている」
未央。
「基礎体力て」
さらに一拍。
「体育の成績やないねんぞ」
吾郎が笑いをこらえる。
彰も肩を震わせている。
その時。
テレサが静かに続けた。
「なお」
一拍。
「評価は固定ではありません」
未央が顔を上げる。
「え?」
テレサはカードを指差した。
「レジストリには記録機能があります」
一拍。
「戦闘、任務、負傷、回復」
さらに一拍。
「すべて自動的に記録され、評価に反映されます」
未央。
「自動」
テレサ。
「はい」
「評価は、実績に応じて」
静かに。
「自動更新されます」
沈黙。
未央の目が、ゆっくり細くなる。
拳を握る。
「つまり」
一拍。
「働いたら」
さらに一拍。
「勝手に上がるんやな」
テレサ。
「その通りです」
短く。
明確だった。
未央はカードを胸ポケットにしまった。
そして。
静かに言った。
「……よし」
一歩踏み出す。
「健康優良児から」
一拍。
「戦闘優良児に昇格したる」
その目は。
本気だった。




