第4話 暖房付き保護対象
冬の王都は、音が少ない。
雪がすべてを吸い込み、人の気配さえ遠ざける。
だが。
その静けさは、建物の中までは届かない。
暖炉の中で石炭が弾けた。
鉄製の暖房管が低く唸っている。
「ここは収容所じゃない」
怜は言った。
「一次保護施設だ」
フィンタンが即座に訂正した。
書類の山の向こう側から、顔も上げずに。
「違いが分からない」
怜は机の前に立ったまま、不満そうに言った。
腕を組み、明らかに納得していない。
フィンタンはペンを止めた。
ゆっくりと顔を上げる。
「未成年者の一次保護だ」
はっきりした口調だった。
「身元不明」
指を一本立てる。
「保護者不在」
もう一本。
「異国出身」
三本目。
そして。
「言語能力は高いが、戸籍も後見人も存在しない」
指を閉じる。
「法的には」
一拍。
「放置できない」
怜は黙った。
少しだけ。
「……つまり」
低い声。
「監視」
フィンタンは首を横に振る。
「保護」
即答だった。
怜は目を細めた。
「檻付きの?」
フィンタンは微笑んだ。
「暖房付きの」
一瞬。
怜の表情が少し崩れる。
だがすぐに戻る。
「帰りたい」
小さな声。
フィンタンは静かに言った。
「帰れる場所が確認できればな」
その声は、わずかに柔らかかった。
それ以上は言わない。
部屋に沈黙が落ちる。
外では雪が降っていた。
しばらくして。
フィンタンは別の書類を取り出した。
「ただし」
声の調子が変わる。
「君を閉じ込めるつもりはない」
怜が顔を上げる。
「観察対象ではあるが」
紙を差し出す。
「能力評価は必要だ」
怜はそれを受け取った。
内容を読む。
短い。
訓練参加許可
その下。
小さく。
『条件付き』
怜は顔をしかめた。
「条件」
フィンタンは指を立てた。
「無断行動禁止」
もう一本。
「危険地域への単独侵入禁止」
三本目。
「教官の指示に従うこと」
一拍。
そして。
「未成年だからな」
怜は深く息を吐いた。
明らかに。
嫌そうだった。
「……子供扱い」
フィンタンは穏やかに言った。
「その通りだ」
沈黙。
そして。
「保護対象だ」
怜は何も言わなかった。
ただ。
小さく。
「面倒」
とだけ呟いた。
その声は。
少しだけ。
拗ねていた。
それでも。
どこか安心している自分がいた。




