第22話 見誤った代償
——王都守備隊臨時詰所
戦闘終了から一時間後。
隊員たちは臨時詰所に集められ、装備点検と報告書作成に追われていた。
机の上には地図と記録用紙が並び、室内には乾いた紙の擦れる音だけが響いている。
ラウルが資料を確認しながら言った。
「被害報告」
セラが即座に応じる。
「民間被害なし。
施設損壊、小規模。
隊員負傷、軽傷二名」
ラウルは短く頷いた。
「作戦は成功と判断する」
その言葉を聞いた瞬間。
怜の視界が揺れた。
床が遠ざかる。
身体が急に重くなる。
力が抜ける。
膝が折れた。
次の瞬間、ラウルの腕が肩を支えていた。
「座れ」
有無を言わせない口調。
怜は椅子に沈み込んだ。
呼吸が浅い。
心臓の鼓動が早い。
全身が鉛のように重かった。
セラがすぐに手首を取る。
「魔力反応、急激に低下しています」
ユーグが眉をひそめた。
「……枯渇か」
その言葉に、怜は小さく頷いた。
理解していた。
これは。
魔力枯渇。
初めての経験だった。
日本では陰陽師として活動していた。
祓い、結界、除霊。
どんな任務でも、魔力管理は絶対条件だった。
使用量を把握し、限界を超えないよう調整する。
それが生き残るための技術だった。
だから。
一度も。
こうなることはなかった。
(……見誤った)
原因は明確だった。
風神。
その消費量。
この世界の基準。
それを。
まだ完全には理解していなかった。
頭の奥で、声が響く。
『当然だ』
風神だった。
『あれは本来、戦場を薙ぎ払うための術式だ』
怜は苦笑した。
(加減していたと言ったな)
『していた』
迷いのない答えだった。
ユーグが椅子に腰掛けながら言う。
「銘持ちのレガリアは燃費が悪い」
軽い口調だが、経験に裏打ちされた言葉だった。
彼は腰の長銃を指先で叩いた。
「俺のは《チャンピオン》」
登録名。
長銃型レガリア。
「魔力増幅と射出に特化した軍用モデルだ。
派手さはないが、信頼性は高い」
続いて、腰の両側に装着された二丁拳銃を軽く持ち上げる。
「こっちは《アリス》と《ライラ》」
左右対称の双銃。
「近距離制圧用。
取り回しがいい」
セラも自分の杖を掲げた。
「私のは《水鏡》です。
防御術式と解析補助に特化しています」
ラウルは腰の剣に手を置いた。
「《断鋼》」
短い紹介だった。
「強化と破断」
それだけ。
だが、それで十分だった。
ユーグが怜を見た。
そして、素直な感想を口にした。
「俺と違って、いい術式を持っている」
皮肉ではない。
本気の評価だった。
怜は小さく笑った。
「……代償も大きい」
率直な実感だった。
風神が静かに言った。
『力には対価がある』
『それだけのことだ』
室内に短い沈黙が落ちた。
やがてラウルが口を開いた。
「休養を取れ」
「次の出動に備える」
命令は簡潔だった。
だが。
全員が理解していた。
これは終わりではない。
始まりだ。
ヴェイルは。
境界の向こうから。
確実に。
こちら側へ歩み寄ってきている。




