第14話 制限
夜風が少しだけ強くなっていた。
街の外れ。
石造りの建物の影に、簡易的な集結地点が設けられている。
灯りは最低限。
周囲には警戒線が張られていた。
怜は壁にもたれ、静かに息を整えていた。
まだ心臓の鼓動が速い。
足の震えも、完全には止まっていない。
「……で」
マーラが肩を回しながら言った。
「今回は、ちょっと手抜きだったわけ?」
軽い調子。
からかうような声音。
その言葉に。
キアランが小さく息を吐いた。
「手抜きではない」
静かな否定。
そして。
少しだけ間を置いてから。
「制限だ」
短い言葉だった。
怜は顔を上げた。
ブリギットが腕を組んだまま答える。
「地下空間では、広域雷撃は使用できない」
事実を述べる口調。
「天井崩落の危険がある」
一拍。
「市街地では、出力は段階的に制限する」
規則の確認のような口調だった。
ドナルが苦笑した。
「本気でやったら、俺たちごと埋まるってわけだ」
マーラが鼻で笑う。
「なるほどね。だからあんな“控えめ”だったのか」
控えめ。
その言葉に。
怜は思わず反応した。
(あれが……?)
あの一撃。
地下全体を白く塗り潰した雷。
耳が聞こえなくなるほどの衝撃。
あれで。
控えめ。
信じられない。
ブリギットは怜の視線に気づいた。
数秒。
静かに見つめる。
やがて。
淡々と言った。
「本来の出力は、あの三倍以上だ」
空気が止まった。
さらに。
静かに続ける。
「野外戦闘でのみ許可される」
マーラが口笛を吹いた。
「うわ。
そりゃ街ごと消えるわ」
冗談のような口調。
だが。
誰も否定しなかった。
怜の背中に、冷たい汗が流れた。
(じゃあ……)
(本気の戦いって)
(場所を選ばないってことか)
想像が追いつかない。
そのとき。
ドナルが腕を押さえながら言った。
「まぁ、正直助かったけどな」
全員がそちらを見る。
「地下であれ以上暴れられたら、俺もさすがに持たん」
率直な言葉だった。
マーラが小さく笑う。
「珍しく弱音?」
ドナルが肩をすくめた。
「現実的な判断だ」
短い沈黙。
そして。
キアランが静かに言った。
「今回の戦闘は、戦力的には優勢だった」
だが。
声は重かった。
「それでも撤退を選んだ」
ブリギットが頷く。
「合理的判断だ」
迷いはない。
「任務は調査」
一拍。
「殲滅ではない」
その言葉は。
怜の胸に深く落ちた。
戦うことが目的ではない。
生きて帰ること。
それが。
任務。
そして。
戦わない判断も。
戦いの一部。
そのとき。
マーラがちらりと怜を見た。
少しだけ。
真面目な顔。
「今日の動き」
短く言う。
「悪くなかったよ」
不意打ちの言葉だった。
怜は一瞬、言葉を失った。
「……ありがとうございます」
小さく頭を下げる。
マーラはすぐに視線を逸らした。
「でも」
続ける。
「次はもっと早く動きな」
率直。
だが。
責めてはいない。
助言だった。
怜は静かに頷いた。
そのとき。
ブリギットがゆっくりと立ち上がった。
動きが変わる。
空気が締まる。
「本部へ戻る」
短い命令。
全員が動き出す。
その背中を見ながら。
怜は思った。
(まだ)
(何も分かっていない)
だが。
一歩だけ。
近づいた気がした。
戦いの本当の重さに。
この人たちの本気に。
そして。
これから起きることに。
確実に。




