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第10話 雷の裁断

 静寂が落ちた。


 次の瞬間。


 世界が白く弾けた。


 雷が――落ちた。

 轟音が地下空間を叩き割る。

 光がすべてを塗り潰し、視界が一瞬で消える。


 鼓膜が震え、胸の奥まで衝撃が突き抜けた。

 怜は思わず目を閉じた。

 それでも、まぶたの裏に白い残像が焼き付いて離れない。

 空気が遅れて震えた。

 焼けた石の匂い。

 蒸気。

 焦げた肉の臭い。

 恐る恐る目を開ける。

 歪体は。

 まだ立っていた。

 だが。

 外殻は割れていた。

 黒い装甲の表面に、蜘蛛の巣のような亀裂が走っている。

 その隙間から、青白い光が漏れ出していた。

「……効いてる」

 キアランが低く言った。

 ブリギットは剣を下ろさない。

 姿勢は変わらない。

 呼吸も乱れていない。

 ただ、次の一撃を待っている。


 歪体が唸った。

 低く。

 重く。

 怒りではない。

 本能的な危機感。

 次の瞬間。

 歪体が跳んだ。

 狙いは。

 マーラだった。


「また私!?」


 思わず叫ぶ。

 距離は近い。

 逃げ場は狭い。

 爪が振り下ろされる。

 マーラは体を沈めてかわす。

 すれ違うように横へ転がる。

 石の破片が腕に当たる。

 痛みが走る。

「っ……!」

 だが。

 体勢が崩れた。

 足が滑った。

 背中が壁に当たる。

 動けない。

 歪体が腕を振り上げる。

 今度こそ。

 間に合わない。

 その瞬間。

 影が割り込んだ。

 ドナルだった。

 拳が振り抜かれる。

 衝撃。

 歪体の体がわずかに逸れる。

 だが。

 止まらない。

「硬ぇな……!」

 腕が再び振り下ろされる。

 キアランの槍が横から突き込まれる。

 関節部。

 火花が散る。

 動きが鈍る。

 だが。

 まだ足りない。

 核が生きている。

 そのとき。

 怜の視界に。

 亀裂。

 外殻の裂け目。

 その奥で。

 青白い光が脈動している。

 心臓のように。

(あれだ)

 直感だった。

 理屈ではない。

 だが確信があった。


「ブリギットさん!」


 声が出た。

 自分でも驚くほど大きな声だった。

 ブリギットがわずかに視線を向ける。

 怜は指を伸ばした。

「あそこです!」

 亀裂。

 光る核。

 短い沈黙。

 そして。

 ブリギットが頷いた。

 それだけ。

 理解は共有された。

 雷が収束する。

 剣の周囲に、青白い光が渦を巻く。

 空気が震え、髪が逆立つ。

 床の水面が波打つ。

 マーラが壁際で息を整えながら、苦笑した。

「……ほんと、頼りになる新人だね」

 息が少し荒い。

 だが、目は笑っていた。

 ブリギットが踏み込む。

 一歩。

 それだけで距離が消えた。


 剣が振り下ろされる。

 雷が。

 直線になった。

 閃光。

 轟音。

 衝撃。

 歪体の体が縦に裂けた。

 青白い光が弾ける。

 次の瞬間。

 静寂。

 巨大な体が。

 崩れ落ちた。

 重い音が地下に響く。

 水面が揺れる。

 石片が転がる。

 動かない。

 完全に。

 沈黙した。

 均衡が、ひとつ崩れた。

 数秒。

 誰も動かなかった。

 やがて。

 キアランが杖を軽く振る。

「反応消失」

 一拍。

「核、完全消滅」

 短い報告。


 ドナルが大きく息を吐いた。

「終わったな」

 マーラは壁にもたれたまま、肩を回した。

「いやー、ちょっと危なかった」

 軽い口調。

 だが。

 腕には細かな傷が増えている。

 それでも。

 立っている。

 怜はその姿を見ていた。

 汗が背中を伝う。

 膝が少し震えている。

(怖かった)

 正直な気持ちだった。

 だが。

 同時に。

(役に立てた)

 胸の奥に、小さな熱が残っていた。

 そのとき。

 ブリギットが振り返った。

 視線が合う。

 数秒。

 何も言わない。

 やがて。

 短く。

「よく見ていた」

 それだけ。

 褒め言葉だった。

 そして。


 次の瞬間。

 キアランの表情が変わった。

 杖が震えている。

「……待て」

 空気が張り詰める。

 彼はゆっくりと言った。

「まだ終わっていない」

 沈黙。

 そして。

 地下の奥。

 暗闇の向こうで。

 別の反応が。

 ゆっくりと。

 増えていた。

 ひとつではなかった。

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