表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/123

第98話 ブリーフィング

 翌朝。


 王都を出て、馬車で二時間。

 さらに徒歩で三十分。


 街道から外れ、踏み固められていない土を進む。

 人の気配は、もうない。

 風の音だけが残る。


「……遠ない?」


 未央がぼやく。

「近い方だ」

 フィン・オドハーティ大佐は前を見たまま答えた。

「市街地に出られるよりはましだ」

「それはまあ……」

 未央は肩をすくめる。

 怜は周囲を見渡していた。

「……人払い、してるんですね」

「ああ」

 フィンは短く頷く。

「未分類領域は、位置が固定されない場合もある」

「動く可能性があるってこと?」

 吾郎が聞く。

「ずれる」

 簡潔な返答。

「気づかないまま巻き込まれることもある」

「……最悪だな」

 吾郎が顔をしかめた。

 しばらく進む。

 やがて、フィンが足を止めた。

「ここだ」

 何もない。

 そう見えた。


 だが。

 未央はすぐに気づく。

「……歪んどるな」

 空間が、わずかに揺れている。

 焦点が合わない。

 距離感が狂う。

「未分類領域」

 フィンが言う。

「入る前に説明する」


 四人が自然と意識を向ける。

「内部では、常識が通用しない」

 短く。

「空間の歪み。時間感覚の変質。魔力干渉の乱れ」

 怜が小さく息を吸う。

「……全部盛りだね」

「そうだ」

 フィンは続ける。

「任務は三つ」

「侵入、状況確認、帰還」

「シンプルやな」

「単純な任務ほど死ぬ」

 未央は軽く笑う。

「知っとる」

 そのまま、フィンが視線を吾郎と彰に向けた。


「お前たち」

「はい?」

 吾郎が反応する。

「何ができる」

 間。

 吾郎が少し考えて。


「……殴る?」


 フィンの眉がわずかに動く。

 彰が続ける。


「蹴る?」


 沈黙。

 数秒。

 フィンは小さく息を吐いた。


「……師の顔が見てみたいな」


 呆れた声音。

 未央が横から言う。


「マーラやで」


 その瞬間。

 フィンが止まった。

「……誰だ」

「マーラ」

 未央はあっさり言う。

「こいつらに教えとる人」

「……」

 フィンの視線が鋭くなる。

「そんな報告は受けていない」

「せやろな」

 未央は肩をすくめる。

「つい最近やし」

 短い沈黙。

 フィンは一度、思考を切るように息を吐いた。

「……後で詳しく聞く」

 そして。

「レガリアは」

 吾郎と彰を見る。

「何を使う」

「いや」

 吾郎が答える。

「まだちゃんとしたのは持ってないです」

「市販のやつをいろいろ試してる感じで」

 彰が補足する。

「特定の型には絞っていない」

 フィンの目が、わずかに細くなる。


「……なるほどな」


 小さく呟いた。

 何かに、引っかかった。

「どうしたん?」

 未央が聞く。

「……いや」

 フィンは首を振る。

「悪くない」

「え?」

 吾郎が驚く。

「固定された戦い方がない」

 フィンは言う。

「未分類領域では、その方が生き残る可能性がある」

 彰が小さく頷いた。

「適応力、か」

「そうだ」

 短く。

 それで十分だった。


 フィンは前に出る。

「最後に一つ」

 振り返る。


「撤退は自分で決めろ」


「他人の判断は遅れる」


「遅れれば――死ぬ」


 静かな声。

 でも、逃げ場はない。

 未央は笑う。

「分かりやすいな」

 フィンは頷く。

「行くぞ」

 未央が一歩前に出る。

 歪みの前。

 空気が、わずかに冷たい。

「……ほな」

 振り返らない。

「行くで」

 一歩。

 踏み込む。

 視界が歪む。

 音が遠くなる。

 距離が崩れる。

 それでも。

 未央は止まらなかった。

 その背を、三人が追う。

 最後に。

 フィンが入る。



 未分類領域。

 侵入開始。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ