第94話 オールCの女
未央は、手の中の金属製カードを見て、にやけていた。
魔力登録証――。
そこに刻まれた数値を、何度も何度も見返す。
「ふふ……」
「……ちょっと顔やばいよ」
横で、怜が苦笑する。
「ええやろ。見てみいって。私、戦闘力Cやで?」
未央は誇らしげにカードを掲げた。
先日の戦闘。 雷鳥を使った無茶な立ち回りと、そのままの脱出。
無謀だった。 けど、確かに結果は出た。
戦闘力はC。
はっきりと“強くなった”とわかる数字だった。
「やっとやで……ほんまに」
未央は、少しだけ息を吐く。
嬉しさが、じわっと滲んでいた。
もう一度カードを見る。
――そして、止まった。
「……あれ?」
「どうしたの?」
怜が覗き込む。
「フィジカル、Cに落ちとる」
「え、ほんとだ……」
魔力の使いすぎ。 無理な連戦。 強化の酷使。
全部そのまま、数字に返ってきている。
「戦闘力は上がったのに、こっちは下がったんだね」
「せや。でもな――」
未央は、にやっと笑った。
「全部Cや」
「……え」
「オールCの女やで、私」
少し得意げな声。
怜は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。
「なにそれ……」
「ええ響きやろ?」
「ちょっとわかるの悔しい」
二人で小さく笑った。
その横で。
吾郎と彰も、それぞれレジストリを確認していた。
「お、上がってる」
吾郎が声を上げる。
「フィジカルと戦闘力、どっちもDだ」
「俺もだな」
彰も頷いた。
少しだけ、安堵したような顔。
「ええやん」
未央が覗き込む。
「ちゃんと伸びとる」
「まあ、なんとかって感じだけどな」
「でも前よりはマシだ」
彰が静かに言う。
未央は満足そうにうなずいて、それからふと思い出したように聞いた。
「そういや二人とも、レガリアはまだなん?」
吾郎と彰は、顔を見合わせる。
「まだだよ」
吾郎が答えた。
「マーラさんに止められてる。今は無銘の市販品だけ」
「基礎ができてから、って言われてる」
彰が続ける。
「レガリアは扱いが難しいからな」
「……まあ、そらそうか」
未央は納得したように頷いた。
強い武器ほど、扱う側が問われる。
今の二人には、まだ早い。
「マーラらしいね」
怜が少し柔らかく言う。
「ちゃんと順番守らせる」
「正直、今の俺たちじゃ持っても使えないと思うし」
吾郎が苦笑する。
「たぶん振り回される」
「壊しそう」
彰がぼそっと言う。
「それはある」
未央が即答した。
「おい」
「いや、ほんまに」
また少し笑いがこぼれた。
その流れのまま。
吾郎が、前から気になっていたことを口にする。
「でもさ」
「ん?」
「この国って、強い女、多くないか?」
未央がじっと見る。
「言い方ちょっと危ないで」
「違うって!そういう意味じゃない!」
吾郎は慌てる。
「なんていうか……日本より普通に前線にいるっていうか」
「……ああ」
怜が少し考えて、うなずく。
「それは、あるかも」
マーラから聞いた話を思い出す。
「この世界だとね、女の方がほんの少しだけ魔力が多い傾向があるらしいよ」
「へえ」
「体格の差はあるけど、その分を魔力で補えるって」
怜は言葉を選びながら続ける。
「強化とか、操作とか。あと……細かい制御は、得意な人が多いって」
「なるほどな……」
吾郎が感心したように言う。
「だから強い女が多いのか」
「うん。そういうことだと思う」
怜はうなずいた。
「術式とか、制御が重要な戦いだと、差が出やすいみたい」
「じゃあ……アーウィン中将って」
吾郎の言葉に、空気が少しだけ変わる。
怜は、はっきりと言った。
「純粋な最大魔力量の持ち主、らしいよ」
「……やっぱりか」
吾郎が息を吐く。
彰も黙って頷いた。
未央は、何も言わなかった。
けれど。
あの光景は、焼き付いている。
ブリギット・アーウィン中将の雷。
同じ、雷属性。
なのに。
全然違った。
圧も、密度も、速度も。
何もかもが別物だった。
「……同じ雷やのにな」
ぽつりと、未央が言う。
「未央……?」
怜が少しだけ心配そうに見る。
未央はカードを見たまま、苦く笑った。
「アーウィン中将の雷。私と同じやで?」
「……うん」
「せやのに、威力が全然ちゃう」
軽く言っているようで、その実、重かった。
「これでCランクか、って思ってもうたわ」
上がった。
強くなった。
それは、ちゃんと実感している。
でも。
あの一撃を見たあとでは――
「全然、足りへんなあって」
正直な言葉だった。
少しの沈黙。
そのあとで。
「でもさ」
吾郎が言う。
「それって、逆にいいことじゃないか?」
「ん?」
「上がいるってわかったってことだろ。だったら、そこ目指せばいい」
まっすぐな言葉。
未央は一瞬、きょとんとしたあと。
「……雑やなあ」
「いいだろ別に」
「でも、嫌いやないで」
少しだけ、笑った。
彰も静かに続ける。
「届かないと思う相手がいる方が、鍛える理由にはなる」
「……せやな」
未央はレジストリを握る。
オールC。
まだ途中。
でも。
確実に、前には進んでいる。
「見とれよ、って感じやな」
「誰に?」
怜が聞く。
未央は、にやっと笑った。
「アーウィン中将に」
その目には、はっきりと闘志があった。
「同じ雷や。ちょっとは近づいたる」
怜はその顔を見て、少しだけ笑う。
「……うん」
そして、小さく言った。
「遠いけどね」
「知っとるわ」
「じゃあ、やるしかないね」
「せや」
迷いはなかった。
その声は、少しだけ強くなっていた。




