第九話
「皆様が成人してしまってから、すっかり寂しくなってしまったわねぇ……」
いつもの交流会。集まる部屋はいつも通りなのに、人数が少ないせいで閑散としている。会場を見渡した第六が溜め息をつく。
「そう仰らないで、リォウ姉様……わたくしも我慢しているのです……」
第八もしょんぼりと肩を落としている。
そんな二人の様子を見て、第七は外廷の方角に視線を向けた。
「……そんなにお寂しいのでしたら、兄様姉様方に、お友達を紹介していただいては? 確か、客人を招くのは禁止されていないはずです。」
「……! さすがです、チー姉様!」
第八が弾んだ声を上げ、早速、第六が代表して文をしたためた。
数日後、文の返事の代わりに、元第二シャオジェのシュロンが従者を伴ってやってきた。
「本当はディロン兄様が直接紹介したかったそうだけれど、今手が離せないご様子でね。代わりに紹介させてもらうよ。」
シュロンが連れてきた青年は、礼の姿勢を取ったまま微動だにしない。髪の色はくすんだ朱色で、ズーチェ家の親類だと一目でわかる。
「彼はズーチェ家の傍系で、継人という。ジーレン、顔を上げなさい。」
は、と一言発すると、ジーレンは顔を上げた。橙色の瞳が、シュロンとシャオジェたちを映す。
「ジーレンは優秀な文官でね。まだ十七だというのに、私も兄上も重宝してしまって……たまには息抜きでもと思って、連れてきたんだ。」
「まあ、兄様方が認めるほど優秀な方だなんて。」
第六が弾んだ声を出す。
残ったシャオジェたちにとって、年上の彼らはいつも憧れの的だ。そんな彼らが認める人物となると、さぞや良い話し相手になるのではと、期待が高まる。
「……お褒めに預かり、光栄にございます。」
ジーレンが今一度頭を下げる。
「それなら、ジーレンが仕事をしない間、兄様方はどなたを頼りにするのですか?」
第八は不思議そうに首を傾げる。手足として使える部下が穴を開けるのは、大変なのではないかと。
「確かにジーレンがいないのは手痛いが、彼にばかり仕事が集中するのも問題だろう? この機会に、もう少し体制を見直そうと思って。」
「なるほど、分かりました。」
第八は納得しても、ジーレンは納得できなかったようだ。ほんの一瞬、彼の表情が曇るのを見た。
「ジーレンは納得していない様子ですね。何か気になることがおあり?」
第八はまっすぐ疑問をぶつける。ジーレンは驚いたように息を呑み、不自然にならない程度、視線を下げた。
「何だ、そうだったのかジーレン? 気になることがあるのならば言ってくれ。」
「いえ、シュロン様。どうか御心のままに……」
「そのシュロン兄様が、あなたの意見をお聞きになりたがっているのですわ。不敬だなどとは申しませんから、仰って?」
第八はジーレンの逃げ場を奪いつつ、不敬扱いしないと約束する。ジーレンは少し迷ったが、最終的に口を開いた。
「……わざわざディロン様やシュロン様のお手を煩わせずとも、自分のことは自分で処理しとうございます……」
悔しそうに声を絞り出したジーレンに、シュロンとシャオジェたちの視線が刺さる。
「まあ、本当に優秀ですのね。何でも自分で制御出来る、と?」
第八が少し挑発するような言い方をし、ジーレンは耳を赤くした。
棘のある言い方を第六は嗜めようとしたが、第八に視線で任せろと押しとどめられる。
ジーレンは、慌てて釈明しようとする。
「いえ、何でもなど……ただ、身の回りのことくらいは……」
「それが可能ならば、兄様方とて放っておかれたでしょう。」
ジーレンの言い訳を、第八はピシャリと跳ね除ける。
「……今、わたくしと話していてどうお思い? 年下の小娘に言われっぱなし。わたくしの言う事なすこと、癇に障るとは思いませんの?」
「滅相も……」
「思いますわよね?」
慌てて否定しようとしたジーレンに最後まで言わせず、追い打ちをかける。ジーレンは二の句が継げなくなり、ただ頭を下げている。
「正しいことでも、本人を前にすると認められないと申しますか、感情が邪魔をして素直に聞けないという問題がままあると聞きます。今のわたくしたちの関係が、正にそうでしょう?」
ジーレンはこっそり唇を噛んだ。不甲斐なさに落ち込むジーレンをよそに、続く第八の声音は、軽く転がるような音を出す。
「兄様方は、そこを調整なさろうとしているのですわ。部下が働きやすくするのも上官の務め。大人しくわたくしたちの相手でもして、羽を伸ばされませ。」
にこっと微笑む第八を見て、一同は『結局、遊んで欲しいだけではないか』と思ったが、何となく悪い気はしなくて苦笑した。
第八の笑顔に毒気を抜かれたジーレンは、改めて返事をする。
「……私でよろしければ、お相手を務めさせていただきます。」




