第八話
そうして穏やかに月日は流れ、五年が経ち、第一シャオジェが成人した。
第一シャオジェは男性で、地龍と名付けられた。
後宮を出て公務も始まり、忙しくなったディロンの顔を見る機会がなくなってしまった。残ったシャオジェたちは寂しさを感じつつ、粛々と日々を過ごす。
そんなディロンが再び後宮に顔を出したのは、約一年後。次の年に第二と第三の成人を控えていた頃だ。
ちょうどシャオジェたちの交流会の日で、喜んでディロンを迎え入れたが、彼の表情は冴えなかった。
「アル、サン、すまない。楽しみにしていただろうに……」
ディロンが持ち込んだ話題は、第二と第三のシャオジェたちの、成人の儀の規模縮小だ。
一年を通じて気候の変動が少ない神源華にしては珍しく、今年は干ばつによる食糧不足に悩まされていた。
食料の高騰、経済の停滞、税収減と、問題は多い。
その中で二人のシャオジェたちの成人の儀を、大々的に執り行うのは難しいという話になったのだった。
「致し方無いことですわ、ディロン兄様。気になさらないで。」
すっかり気を落としてしまったディロンに、第二は痛ましそうな目を向ける。
「そうは言っても、アル、お前の成人の祝いに、職人たちが腕によりをかけて献上品を誂えているのだろう?」
「……それは……」
第二が苦しそうに目を伏せる。今更、不要になったから作るのを辞めろとも言えない。
そこへ第八が、すっと手を挙げた。
「ディロン兄様、アル姉様。わたくしの考えをお聞きいただけますか?」
この年十一になる第八は、素直で闊達なところは変わらないが、少々控えめな態度というものを身につけていた。
「聞こう。」
「ありがとう存じます。これを機に、同じ年に成人するシャオジェの成人の儀は、合同で行うというのはいかがでしょうか?」
第八の意見に、ディロンを始め他のシャオジェは息を呑んだ。
「大々的な宴が年に何回もあれば、参加する臣の負担も増えましょう。その負担は、民にさらに大きく負担となって降りかかります。その点、一回で済ませれば、品格を落とすことなくお二人をお祝いできます。」
説明を受ければ、皆なるほどと納得する。
「しかし、それではわたくしが月満ちていないのに成人の扱いを受けることになるのではありませんか?」
第三が心配するのも最もで、ホワンロンの子どもたちに成人するまで名前がないのも、後宮から出ず性別も隠して育てられるのも、荒ぶる神々に見つからない結界の内で過ごさせるためと言われている。
この計画の穴を突かれて、第八は困ったように眉を八の字にした。
「……神官庁に問い合わせてみなければわかりませんが……わたくし、思うのです。千年を超えて生きる神々が、我ら憎しといえども、数か月の差を見つけ出せるものなのか、と。」
悠久の時を生きる神々には、ふた月み月程度の差など、見えるものだろうか。
それは人間側にはどうにも把握しようのないことで、かろうじて神官庁なら何か情報を持っているかもしれないと、皆困った顔をする。
「……わかった。バーの意見を参考に、前例がないかどうか調べてみよう。前例が見つかれば、サンも安心できるだろう?」
一同にホッとした空気が流れ、この件はディロンが責任をもって調べてくれることになった。
着々と第二第三シャオジェ成人の儀の準備が進む中、ひとつの御触れが出た。
曰く、近年の情勢を鑑み、同い年のシャオジェの成人の儀を合同で執り行う。
過去にも同様の取り組みが行われていた為、問題はなく、代わりに一度の宴の規模を少々なら大きくしても良い。
第八シャオジェの案に裏付けがなされ、ほぼ受け入れられた形だった。
明くる春、第二シャオジェは樹龍、第三シャオジェは河龍となった。
工芸品好きのシュロンの趣味が反映され、宴会場はまた絢爛に飾り付けられていたという。
フェーロンには祝いとして植物園が与えられた。見て楽しむだけでなく、薬効が期待される植物の研究も行われる。
更にその二年後、また春に合同で成人の儀が執り行われ、第四シャオジェは梅花、第五シャオジェは檀龍となる。
ホワンロンの男子は伝統的に、名前に龍の字を冠する。これで性別が明かされたシャオジェは、ディロン含め男子四人、女子一人となった。
親世代は女子が多かっただけに、『これだけ男子が多ければ、子孫も増えるだろう。皇室は安泰だ』と皆、喜んだ。
この年、末の三兄弟は、十四歳。
成人まであと二年を残しつつ、後宮はどことなく寂しくなったのだった。




