第十五話
ユファは努めていつも通りに振る舞い、忙しく過ごすことで不安を追いやった。
そうしていると、妃たちが次々と産気づいていく。
ユファは自分の侍女を人手として遣わした。侍女たちは最初、難色を示したが、次代のシャオジェたちの誕生こそが使命だと説き伏せた。
侍女頭は頑として動かなかったが、そこはユファの方が折れた。
妃たちが無事出産してから、しばらくの間。妃たちや彼女たちの侍女らは、交代で休むことも出来て、ユファに深く感謝した。
ユファ自身は、侍女が少ないことによって不便を強いられたが、その方が忙しく過ごせてありがたかった。
一週間が過ぎ、半月が過ぎ……けれど、都に向かったジーレンから、連絡はない。
不安で押しつぶされそうな気持ちを、妃たちを見舞ったり、シャオジェたちの面倒を見たりすることで紛らわせ、自分を奮い立たせる。
そうして、第一シャオジェが産まれて初めての秋、ようやくユファにも帰還の許可が下りた。
帰りの道のりは、異様に静かだった。
来るときには農夫も商人も多く行き来していた道だが、今は人を見かける方が珍しいほど閑散としている。
都の門に着いても、何故か「確認のため」だと待たされ、侍従が質問を受けていた。
門をくぐったらくぐったで、街並みに活気がない。
もう一年近く前になるが、その時にはあちこちで物売りたちが商いをしていたし、子どもたちが遊ぶ姿も見て取れた。
今は道行く人の姿もほとんどなく、どの家も戸を閉め切っている。
ひとまずユファは、自分の宮に辿り着いた。真っ直ぐ宮廷に向かいたかったが、もう夜も遅い。
宮に帰ればジーレンがいて、何か話が聞けるはずだと思ったが、ジーレンは留守だった。
残っていた家人に聞けば、ここのところ帰ってきていないという。
「そう……もう遅いし、お前もお休み。」
心配ではあるが、それならもう家人に聞けることはない。
ユファは下がらせようとしたが、家人はまごついている。
不思議に思いながらもう一度声を掛けようとしたが、意を決した家人が言葉を発する方が先だった。
「……ユファ様には申し上げないように、と言われているのですが……」
ユファは居住まいを正して先を促した。
「今、都では……いえ、国中で、類を見ない程の流行り病が広まっております。」
「流行り病……?」
長い間、この国はそれほど大きな病を経験していなかった。
衛生管理と医療の拡充。
それがこの国を支えていたのだ。
「そんな……被害状況は?」
「詳しいことは教えてもらえませんが……毎日のように死人が出ていると聞きます。」
ユファの中に、焦りが積もっていく。
「明日、朝一番に面会届を持って行ってちょうだい。」
家人は頭を下げ、今度こそ下がっていった。
その夜、ユファは落ち着かなくて、兄姉たち全員への面会届と、ジーレン宛に手紙を書き上げた。
何が起きているの。わたくしに出来ることはある?
不安がユファを突き動かした。
明け方になってやっと少し眠れたが、侍女頭が起こしにくるとすぐに身支度し、昨夜書いた物を全て従者に預け、使いに出した。
外出の準備をしながら、そわそわと使いが戻ってくるのを待っていると、使いは昼過ぎに途方に暮れた顔で戻ってきた。
すべての届け出が断られ、突き返されてきたらしい。
どこかで予想はしていたが、本当に断られるとは思っていなかったユファは狼狽えた。
「……ジーレンは? ジーレンにも会えなかったの?」
深呼吸して気を取り直し、泊まり込んでいるはずのジーレンの情報を求める。
使いは首を横に振った。
「お手紙と替えの衣服は受け取って頂けたのですが、ジーレン様と直接お会いすることも、お返事を頂くことも叶いませんでした……。」
申し訳なさそうに肩を落とす使いを、どこか呆然と見ていた。
自分だけが輪の外に置かれているような疎外感と、それだけ重大なことが起こっているのだという危機感だけが高まっていく。
最後の手段と、ユファは父帝に謁見願を提出することにした。
今度は使いを先行させるのと同時に、自分も馬車で宮廷に向かう。来てさえしまえば、ユファを追い返せるほどの者はなかなか居ない。
誰かしら権力のある者が出てくるに違いないから、その人を捕まえて事情を聞こうという、強行突破策だ。
乗りつけた車留めは、やはり閑散としていた。
それでも高貴な設えの車が止まり、ユファが降りてくると、それを見た係の者が大慌てで対応する。
「お約束はおありですか……?」
車留めの担当者は案内係に引き継ぎたかったようだが、先触れもついさっき到着したはずなので、もちろん話は通っていない。だから案内係も来ていない。
困っている担当者に、ユファは慌てずにっこり笑って見せた。
「急な話だったものだから、正式な手順を踏まなくても大丈夫よ。場所はわかっているから、自分で行けるわ。ありがとう。」
決して勝手に押し掛けたとは言わない。
相手はユファの対応に安心した様子で、不自然さに気づかず送り出してくれた。




