9話:魔剣への更なる理解
ルークは虚脱に襲われながらも、馬のもとまで歩いた。馬は街道沿いで主の帰りを待っていた。健気な四つ足の生き物にルークは微笑み、鐙に脚を掛けた。
ゆっくりと馬を進め、ベレネの城門が見えたとき、白の入り口に見覚えのある人影があった。馬の腹を踵でわずかに小突いてしまう。はやあしに馬を駆けさせ、大門のそばにたたずむ人影を前に、ルークは馬を止めた。
「ゾラ――どうしてここに?」
ゾラは門のそばで所在なしに立ち尽くしていた。ルークの姿を認めると、彼女は微笑んだ。胸に手をやり、肩を落とした。
「ルーク、無事だったんですね」
「仕事があるんじゃ無かったのか」
「それはありますが――やはり心配ですから」
ルークは馬から降りた。虚脱に襲われた身体は地に降り立ったとき、彼の体をよろめかせた。ゾラが支え、肩を貸した。
「大丈夫ですか、ルーク」
ゾラの柔らかな感触を鎧越しに感じ、ルークは感謝の笑みを浮かべ、無言で頷いた。口を開き、
「ゾラ――もう一つわかったことがある、クフィヤトについて」
「ほんとうですかっ」
ルークの顔のそばで、ゾラが弾んだ声を上げたが、すぐに咳払いへと変わった。
「す、すみません、ルーク、つい。先に休みましょう」
ルークは華奢なゾラに、身を預けすぎないよう、自身の体を何とか支えた。肩を借りながら、二人は滞在施設へと脚を運んだ。
ルークは寝床で伏すように体を休めた、うとうととどこか心地よい疲労を感じながらも、頭はどこか冷えていた。賢者のようであった。静かに目を閉じ、開いたときには、陽光が玻璃の窓から注いでいた。
昼の日差しに目をこすり、ルークは伸びをする。一刻ほどの眠りながらも、体は虚脱から抜けていた。
ノックの音と共に、ゾラの声が扉越しから聞こえた。
「ルーク、起きていますか……」
ルークは急ぎ、寝床を降りた。扉を開けると、平服姿のゾラがいた。
「ゾラ、何かあったのか?」
眉を寄せ、尋ねるルークに、ゾラは曲げた唇に手をやった。
「いえ、魔物の討伐報告は私が済ませておきましたので、という連絡と……食事でも、と」
ルークは肩の力を抜き、腹をさすった。
「そういえば、朝もまだ食べていなかったな」
「でしょう? 近くに良い小食堂がありますし」
「助かる、実はベレネは始めてだったんだ」
「――だと思った」
ゾラは笑い、すぐに顔をうつむかせ、はにかんだ。
「似合いませんね、我ながらこんな言葉」
「軽口くらいで恥ずかしがる必要は無いさ、仲間なんだろう?」
「それも――そうですね」
どちらとも無く笑い声を上げ、ルークはゾラに伴われ、滞在施設を後にした。
キャバリエは東の通り、卸商組合の合間にあった。ゾラは手慣れた様子で中に入り、適当な空いた席に座る。
ルークは店内を見回した。
「空いているな」
「穴場なんですよ? この時間帯だと込まないんです」
ルークが眉を上げると、ゾラは切れ長の目を曲げ、笑った。
「昼を過ぎた頃から、仕事終わりの丁稚が駆け込むんです」
内緒にしておいてくださいね、とゾラは付け加えるた。歩み寄った給仕にゾラは淡々と注文を告げ、ルークに同じもので良いか、と目線で尋ねた。
ルークは頷いた。
程なくして運ばれた、玉葱のスープにパン、チーズ、それに茹でた豚肉を前に、ルークは目を見張った。
「量が多いな」
「ルークの分だけ、多めにしたのですが……良くなかったでしょうか?」
「いや、ありがたい」
ゾラの気遣いに、ルークの口の端はわずかに緩んでいた。玉葱を炒めたソースをかけた、薄切りの豚肉を食み、合間に雑穀とライ麦を混ぜたパンを口に入れる。ルークはいつの間にか目の前の皿をあらかた片付けた事に気づき、苦笑した。
「――如何しましたか?」
突然笑うルークに、ゾラが目を開いた。眉を上げていた。ルークは半分以上残る、彼女の皿を見て、さらに笑った。
「自分の腹具合に驚いただけだよ、先ほどまで空腹感を感じていなかったのに、不思議だな、と」
「朝を食べずに戦ってきたんですから、当然ですよ」
ゾラがおかしげに笑いながらも、パンをちぎる手を早めようとした。ルークは首を振り、ゆっくり食べてくれ、と伝え、己もスープを飲む手を緩めた。
ゾラの皿も空になる頃、二人は薄めた葡萄酒を静かに傾けた。ふとルークは辺りを見回し、眉を寄せた。
「ゾラ――クフィヤトの事でわかったことだが」
上がり気味であったゾラの口角が元に戻る。葡萄酒の入った木杯を卓に置き、彼女はルークを見つめた。
「教えていただけますか――ルーク」
「実は……」
ルークは言いかけたが、キャバリエに響く足音に、口を閉ざした。
気ぜわしく歩く丁稚達が店内に駆け込み、卓に勢いよく座り込む。給仕が急いで丁稚達の下へと駆け寄った。
矢継ぎ早に注文を告げる丁稚達の姿に、ルークは口をつぐみ、ゾラを見た。
「一度、滞在施設に戻りましょうか」
二人はどちらともなしに席を立った。




