↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/186

面会要請

日本訪問の日程は、予定通り進んでいた。


 ヴィクターは、日本政府との首脳会談を終え、経済協議や共同声明についての打ち合わせにも出席した。今回の訪日は、両国の外交関係を深めるための正式なものだった。


 その日程の中に、一つの企業との面会が組み込まれていた。


 東方カンパニー。


 ヴィクターは、指定された会議室へ入った。


 そこには、東方カンパニーの経営陣が待っていた。


「ようこそ」


「ありがとうございます」


 形式的な挨拶を交わす。


 だが、相手の態度は、一般的な企業経営者とは少し違っていた。


「本日は、どのようなご用件でしょうか」


 経営陣の一人が、資料を閉じる。


「こちらも予定がありますので、手短にお願いします」


 ヴィクターは、少しだけ相手を見る。


「分かりました」


 普通なら、相手が大統領であれば、もう少し低姿勢になる。


 しかし、東方カンパニーは違った。


 彼らにとって、国家は重要な取引相手ではある。


 だが、自分たちもまた、世界の産業を支える側だという自負があった。


「我々は政府の下請けではありません」


 別の経営陣が言った。


「むしろ、政府の方が我々を必要としている場合もあります」


 ヴィクターは否定しなかった。


 実際、その通りだった。


 電力。


 資源。


 半導体。


 通信。


 物流。


 インフラ。


 東方カンパニーと、その関連企業は、ヴィクターの国にも深く入り込んでいる。


「それについて聞きたい」


 ヴィクターが言った。


「我が国にある東方カンパニー関連の事業についてです」


「投資先は多岐にわたります」


「すべて把握していますか?」


「すべて?」


 経営陣が、わずかに笑った。


「我々が直接経営している会社だけでも相当な数です。そこから先の投資先まで、すべて把握する必要がありますか?」


「つまり」


 ヴィクターは資料を見る。


「東方カンパニー自身が知らない企業もある」


「当然あります」


「なぜ?」


「我々は、世界中の企業に資本を投じています」


「その企業が、さらに別の企業へ投資することもある」


「それは、我々の命令ではありません」


 ヴィクターは黙った。


 まさに、報告書にあった通りだった。


 東方カンパニーの下に。


 さらに企業がある。


 その下にも企業がある。


 そして、その先には、東方カンパニー自身も把握しきれない企業が存在する。


「では」


 ヴィクターは、次の質問をした。


「黒崎という人物について知りたい」


 部屋の空気が、少し変わった。


「黒崎?」


「はい」


「我が社の筆頭株主です。それは公になっている事実です」


「私も知っています」


 ヴィクターは、経営陣を見る。


「私が聞きたいのは、株主としての情報ではありません」


「彼は、どんな人物なんですか?」


 経営陣は、しばらく黙っていた。


「正直に言います」


 一人が答えた。


「我々も、彼のことをすべて知っているわけではありません」


「彼から頻繁に指示が来るわけでもない」


「経営について細かく口を出すこともありません」


「では、なぜここまで大きくなった?」


「会社は会社として判断してきたからです」


 その答えは、ヴィクターが予想していたものとは少し違った。


「黒崎が、すべてを動かしているわけではない?」


「少なくとも、我々はそう認識しています」


「では、彼は何をしている?」


「投資をしている」


「それだけ?」


「それ以上のことは、我々には分かりません」


 ヴィクターは、しばらく考えた。


「本人と話すことはできますか?」


 経営陣が顔を見合わせる。


「直接は無理です」


「なぜ?」


「黒崎には、窓口があります」


「窓口?」


「投資会社『黒崎』です」


 一枚の資料が、机の上に置かれた。


「そこに四人のエキスパートがいます」


「黒崎との連絡は、基本的に彼らを通します」


「その四人なら、黒崎に話を通せる?」


「確認はできます」


「会うことも?」


「それは黒崎次第です」


 ヴィクターは頷いた。


「では、その四人と会いたい」


「分かりました」


 数日後。


 ヴィクターは、投資会社「黒崎」の四人のエキスパートと面会した。


 大きな会社ではなかった。


 専用の受付もない。


 大勢の社員がいるわけでもない。


 そこにいたのは、四人だけだった。


「我々が、黒崎との窓口です」


 四人のうち一人が言った。


「あなた方が、すべてを管理している?」


「いいえ」


「黒崎の投資判断を?」


「それも違います」


「では、何をしている?」


「情報を集めます」


「分析します」


「必要な案件を黒崎へ報告します」


「そして、黒崎の判断を受けて動きます」


 ヴィクターは四人を見る。


 人数は少ない。


 だが。


 自分が調べてきた巨大な資本の流れを考えれば、その存在は無視できなかった。


「黒崎は、どんな人間ですか?」


 四人は、すぐには答えなかった。


「我々にも分からない部分があります」


「分からない?」


「ええ」


「長く一緒にいるんだろう?」


「長いです」


「それでも?」


「それでもです」


 一人が答えた。


「黒崎は、自分から多くを語る人間ではありません」


「投資についても、細かい命令はほとんどしない」


「ただ、時々、一言だけ言う」


「それで?」


「我々が動くことがあります」


 ヴィクターは、その言葉を聞いて黙った。


 少しだけ。


 奇妙な人物だと思った。


「私から、黒崎本人への面会を申し込みたい」


 四人が顔を見合わせる。


「正式な要請として受け取ります」


「お願いします」


「黒崎に伝えます」


「いつ会える?」


「分かりません」


「黒崎が決めます」


 ヴィクターは頷いた。


「分かりました」


 それ以上、急かすことはしなかった。


 面会を終える。


 ヴィクターは、建物を出た。


 結局。


 黒崎本人には会っていない。


 だが。


 その名前に、一歩近づいた。


 日本政府との会談でも。


 東方カンパニーとの面会でも。


 その先にいたのは。


 一人の投資家だった。


 会社を経営しているわけでもない。


 政治家でもない。


 軍人でもない。


 それなのに。


 自分の国の電力。


 資源。


 通信。


 物流。


 半導体。


 インフラ。


 そして。


 世界中の産業にまで。


 その資本の痕跡がある。


 ヴィクターは、車の窓から日本の街を見ていた。


「黒崎恒一……」


 小さく名前を口にする。


 まだ。


 どんな人間なのか分からない。


 ただ。


 一つだけ分かった。


 会わなければ。


 この疑問は終わらない。


 一方。


 日本の別の場所では。


 四人のエキスパートが、黒崎への報告を準備していた。


 面会要請。


 相手。


 目的。


 場所。


 すべてを簡潔にまとめる。


 最後に。


『ヴィクター・ヘイル大統領から、面会を希望されています』


 そう書いた。


 四人のうち一人が、報告書を閉じる。


「これを伝えよう」


「ああ」


 その頃。


 黒崎は。


 何も知らず。


 自宅の庭で。


 土をならしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。