隣国の決断
隣国との協力は、少しずつ形になっていた。国境の監視、情報の共有、災害時の相互支援、密輸への対策。まだ正式な軍事同盟ではない。それでも、以前とは明らかに違っていた。
「このまま進めていいのか?」
会議で、一人の代表が聞いた。
「何を?」
「軍事協力です」
ヴィクターは資料を見た。
「まだ、軍事同盟を作るつもりはない」
「ですが、周辺の情勢が変わっています」
ヴィクターは地図を見る。海上輸送、国境、燃料、周辺国。そして、アメリカと戦争を続ける国。戦争が長引けば、この地域にも影響が出る。燃料価格が上がり、輸送が不安定になる。難民が増え、国境警備の負担も大きくなる。
「だからこそ、今のうちに隣国と繋がっておく」
「軍事だけでは?」
「ああ」
ヴィクターは資料を指した。
「燃料を共同で買う」
「食料も?」
「必要なら」
「輸送も?」
「できるなら一緒にやる」
代表たちは顔を見合わせた。軍だけではない。経済まで協力する。それは、小さな取り決めの積み重ねだった。
数日後、隣国から正式な提案が届いた。
『地域安全保障協力協定』
内容は、情報共有、国境監視、災害時の相互支援、輸送路の確保、燃料と食料の共同調達、そして緊急時の協議だった。
ヴィクターは書類を最後まで読んだ。
「受けよう」
反対する者はいなかった。
こうして、二つの国の間で新しい協力関係が始まった。まだ軍事同盟ではない。しかし、いざという時に互いに助け合う。その約束だった。
一方、アメリカと戦争を続ける国では、別の問題が起きていた。
戦争が長引きすぎていた。
兵器、燃料、食料。すべてが不足し始めている。国内では経済への不満も大きくなっていた。
「このままでは、国が持たない」
政府内で、そうした声が増えていく。
それでも、戦争をやめる決断は簡単ではなかった。アメリカ側も、戦争を終わらせる条件をまだ決めきれていない。
戦線は動かない。
戦争だけが続いていた。
そんな中、海外から一つの動きが入った。
「復興支援の提案です」
政府関係者が資料を広げる。
資金、電力、港湾、資源、道路。複数の企業が、戦後を見据えて投資を始めようとしていた。
「こんな規模を、どこから?」
「複数の投資家からです」
「中心は?」
「分かりません」
資料には、いくつもの企業名が並んでいる。その中には、東方カンパニーの名前もあった。
しかし、黒崎恒一という名前はどこにもなかった。
同じ頃、日本の郊外。
黒崎は庭の手入れをしていた。
「恒一」
美咲が家の中から呼ぶ。
「何?」
「これ」
美咲が資料を持ってくる。
「東方カンパニーが、また会社を買ったみたい」
「また?」
「うん」
黒崎は資料を見る。知らない会社だった。
「……こんな会社、持ってたか?」
「直接は持ってないと思う」
「そうか」
黒崎は少し考えた。
「東方カンパニーが買ったの?」
「そうみたい」
「じゃあ、任せよう」
それだけだった。
黒崎は、また庭に戻った。
会社がどこまで増えているのか、黒崎自身にもすべては分からなくなっていた。
自分が投資した会社が、別の会社へ投資する。その会社が、さらに別の会社を買う。気がつけば、自分の資本が知らない場所まで届いている。
黒崎が一つ一つ指示しているわけではない。資本が動き、企業が判断し、その結果として新しい繋がりが生まれている。
それを、黒崎は静かに眺めていた。
一方、ヴィクターは隣国との協力を進めていた。
国境を守る。経済を安定させる。人々の生活を守る。
一つずつ、国を強くしていく。
まだ、世界を動かすほどの力はない。それでも、自分の国と周辺の国々を少しずつ繋げていた。
そして、その動きはやがて地域全体の関係を変えていくことになる。
誰も、その先に何が待っているのか。
まだ分からなかった。




