土地
「母さんが死んだ」
父が言った。
黒崎は、何も言わなかった。
祖母が死んだ。
それだけだった。
両親は滋賀の出身だった。
けれど、黒崎にとって滋賀はほとんど知らない場所だった。
祖母は一人で暮らしていた。
たまに電話をする。
たまに会う。
それくらいだった。
ある日、叔母が祖母の家へ向かった。
電話に出なかったからだった。
玄関を開ける。
返事がない。
家の中を探す。
トイレの扉が閉まっていた。
開ける。
祖母が倒れていた。
もう死んでいた。
警察が来た。
家の中を調べる。
写真を撮る。
物の位置を確認する。
外傷はない。
争った形跡もない。
実況見分が終わった。
死因は心臓発作。
事件ではなかった。
ただ、死んだ。
葬式が終わった。
人がいなくなった。
家だけが残った。
祖母が使っていた食器。
服。
家具。
冷蔵庫。
人間だけが消えて、物だけが残っている。
そして、その下には土地がある。
大人たちが話していた。
「この土地、どうする?」
黒崎は聞いていた。
「売るか?」
「持っておくか?」
「誰が管理する?」
黒崎には、まだよく分からなかった。
ただ、一つだけ分かった。
人は死ぬ。
家も古くなる。
けれど、土地は残る。
人がいなくなっても。
そこにある。
そして、土地には値段がつく。
黒崎は窓の外を見た。
知らない町だった。
特別な思い入れもない。
ただ、そこに土地がある。
「どうする?」
また誰かが言った。
黒崎は答えなかった。
まだ、自分には関係のない話だった。
そのときは。




