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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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同じ空

国境の朝。


 空は。


 薄い雲に覆われていた。


 ヴィクターは。


 防空部隊の配置を確認していた。


「レーダー。


 問題ありません」


 若い兵士が報告する。


「通信は?」


「隣国側とも繋がっています」


「いい」


 ヴィクターは。


 地図を見る。


 国境の向こうでは。


 (ある国)の部隊が。


 さらに増えていた。


 戦車。


 砲兵。


 補給車両。


 その動きは。


 明らかに。


 国境付近での作戦を。


 想定している。


「まだ。


 攻撃は始まっていません」


 参謀が言う。


「ああ」


 ヴィクターは。


 地図から目を離さない。


「だからこそ。


 こっちから始めるな」


 それが。


 最初の指示だった。


 その数時間後。


 通信機が鳴った。


「航空機!」


 兵士が叫ぶ。


「方向は?」


「西です!」


「速度は?」


「現在確認中!」


「識別は?」


「まだです!」


 防空部隊が。


 一斉に動く。


 ヴィクターも。


 レーダー画面の前へ立った。


「味方の飛行計画は?」


「現在。


 該当する機体はありません」


「民間機は?」


「航路から外れています」


 ヴィクターの表情が。


 変わった。


「なら。


 警戒を上げろ」


「迎撃しますか?」


「まだだ」


 兵士が。


 画面を見る。


「でも。


 接近しています」


「分かってる」


 ヴィクターは。


 落ち着いて答えた。


「正体が分からないものを。


 いきなり撃つな」


 数十秒。


 誰も。


 動かなかった。


 やがて。


「識別完了!」


「どうだ?」


「隣国の輸送機です!」


 空気が。


 わずかに緩む。


 ヴィクターは。


 画面を見る。


「通信を繋げ」


「はい」


「飛行情報を共有してもらえ」


 確認が終わる。


「問題ありません」


「よし」


 ヴィクターは。


 その場を離れた。


「警戒は続ける」


「はい」


 そして。


 数時間後。


 再び。


 警報が鳴った。


 今度は。


 さっきとは違った。


「飛翔体!」


 兵士の声が。


 基地に響く。


「方向!」


「国境の向こうから!」


「数!」


「四!」


 レーダー画面に。


 四つの光点が現れた。


 ヴィクターが。


 画面の前へ戻る。


「進路は?」


「こちらではありません!」


「どこへ向かってる?」


「隣国側の軍事施設です!」


 ヴィクターは。


 すぐに。


 隣国との通信回線を開いた。


「警報を送れ」


「送ります!」


「向こうの防空部隊は?」


「現在。


 迎撃準備中です!」


 ヴィクターは。


 画面を見る。


「こちらも準備」


 兵士が。


 確認する。


「迎撃許可は?」


「まだだ」


「しかし。


 一発でもこちらへ逸れれば――」


「その時は撃つ」


 ヴィクターは。


 飛翔体の進路を見つめた。


「今は。


 隣国への攻撃だ」


「俺たちが。


 先に撃つ理由はない」


 数秒後。


 隣国側から。


 迎撃が始まった。


 空が。


 何度も光る。


「一発撃破!」


「二発目!」


「三発目も!」


 だが。


 最後の一発だけが。


 迎撃を抜けた。


「抜けました!」


 兵士が叫ぶ。


「進路は!」


「軍事施設へ向かっています!」


 ヴィクターは。


 画面を見る。


 着弾まで。


 時間がない。


「隣国側。


 迎撃できますか?」


「確認中!」


「ヴィクター!」


 盟友が。


 声を上げる。


「ここで撃たなければ。


 また基地をやられるぞ」


 ヴィクターは。


 数秒。


 黙った。


 そして。


「まだ撃つな」


 盟友が。


 顔を上げる。


「まだ?」


「進路が。


 こっちに変わってない」


「……分かった」


 その直後。


 遠くで。


 大きな爆発音が響いた。


 地面が。


 わずかに揺れる。


「着弾!」


 兵士が。


 報告する。


「隣国側の軍事施設です!」


 ヴィクターは。


 目を閉じることなく。


 画面を見続けた。


「被害は?」


「施設に被害。


 負傷者あり」


 そして。


 別の通信が入る。


「国境方面。


 地上部隊が動いています!」


 ヴィクターが。


 地図を見る。


 (ある国)の部隊が。


 国境へ向けて。


 一斉に進み始めていた。


 戦車。


 装甲車。


 砲兵。


 その動きが。


 今までとは違う。


「これは。


 攻撃準備です」


 参謀が言った。


「そうだな」


 ヴィクターは。


 隣国側を見る。


「向こうから。


 正式な支援要請は?」


「来ています」


「内容は?」


「国境防衛への参加。


 敵部隊の侵入阻止。


 防空支援です」


 ヴィクターは。


 要請文を確認した。


 そして。


 時計を見る。


「全員。


 持ち場へ」


 兵士たちが。


 一斉に動く。


「国境部隊を前へ」


「防空部隊は。


 そのまま」


「砲兵は?」


「まだ撃つな」


 ヴィクターは。


 地図を指す。


「国境線を越えたら。


 防衛射撃を開始する」


 参謀が。


 確認する。


「こちらから。


 先制はしない?」


「ああ」


「向こうが。


 越えてきたら?」


「止める」


「追撃は?」


「しない」


 ヴィクターは。


 はっきり言った。


「俺たちは。


 戦争を始めに来たんじゃない」


「隣国を。


 守りに来た」


「だから。


 守る線を決める」


 その直後。


 遠くで。


 砲声が響いた。


「砲撃です!」


 兵士が叫ぶ。


「着弾地点!」


「国境線の手前!」


 ヴィクターは。


 すぐには反撃を命じなかった。


「隣国側の部隊は?」


「応戦しています!」


「こちらへの攻撃は?」


「ありません!」


 ヴィクターは。


 数秒待った。


 次の砲撃。


 今度は。


 国境線を越えた。


 土煙が上がる。


「こちら側に着弾!」


 兵士が叫ぶ。


 ヴィクターは。


 地図を見る。


 そして。


 静かに言った。


「防衛射撃を開始」


 国軍の砲が。


 初めて火を噴いた。


 轟音が。


 国境一帯に響く。


 ヴィクターは。


 その場から動かなかった。


「目標は?」


「国境へ接近する敵部隊です」


「民間地域は?」


「外れています」


「よし」


 砲撃が。


 続く。


 だが。


 国軍は。


 国境を越えない。


 追撃もしない。


 ただ。


 近づいてくる部隊を。


 押し戻す。


 その時。


 一人の兵士が。


 ヴィクターを見る。


「司令官」


「何だ?」


「これが。


 本当の戦闘ですか?」


 ヴィクターは。


 前方を見た。


「そうだ」


 少しだけ。


 間を置く。


「でも。


 始めたのは。


 俺たちじゃない」


 砲声が。


 また響いた。


 国境線を挟んで。


 二つの軍が。


 撃ち合っている。


 その隣では。


 かつて敵だった。


 隣国軍が。


 同じ方向へ向けて。


 銃を構えている。


 ヴィクターは。


 その光景を見ながら。


 自分の決めた線を。


 もう一度確認した。


 守る。


 それ以上はしない。


 その夜。


 最初の戦闘が。


 ようやく収まった。


 両軍に。


 負傷者が出た。


 だが。


 国境線は。


 守られた。


 隣国軍の指揮官が。


 ヴィクターのもとへ来る。


「助かった」


「まだ終わっていない」


「ああ」


 指揮官は。


 しばらく。


 ヴィクターを見る。


「昔なら。


 ここで。


 俺たちは。


 互いに撃っていた」


 ヴィクターが。


 国境を見る。


「今は違う」


「そうだな」


「今は。


 同じ場所を守っている」


 二人は。


 短く頷いた。


 その翌朝。


 周辺国から。


 新たな連絡が入った。


「昨日の戦闘について。


 協議したいとのことです」


 ヴィクターは。


 地図を見る。


 戦争は。


 もう。


 一つの国だけの問題ではなくなっていた。


「分かった」


「会うんですか?」


「ああ」


 ヴィクターは。


 静かに答えた。


「話を聞こう」


 国境の向こうでは。


 まだ。


 戦火が続いている。


 そして。


 この一夜を境に。


 周辺国の関係も。


 大きく動き始めようとしていた。

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