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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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最初の約束

帰国したヴィクターたちを。


 大統領は。


 執務室で迎えた。


「ご苦労だった」


「ありがとうございます」


 ヴィクターが。


 報告書を机に置く。


「大きな合意はありません」


「だが?」


「次につながる話はできました」


 若い参謀が。


 補足する。


「輸送路の利用。


 エネルギーの融通。


 貿易の再開。


 いくつか具体的な協議に入れます」


 大統領は。


 報告書に目を通した。


「十分だ」


 盟友が。


 椅子にもたれる。


「最初から。


 大きな約束をする必要はないと思います」


「その通りだ」


 大統領が。


 顔を上げる。


「では。


 次の段階へ進もう」


 ヴィクターは。


 頷いた。


 数日後。


 両国の実務担当者が。


 再び集まった。


 今度は。


 政治家だけではない。


 外交官。


 軍の担当者。


 運輸関係者。


 経済担当者。


 それぞれが。


 具体的な条件を詰めていく。


「輸送車両は。


 どこまで入れる?」


「国境から十キロまで」


「それでは足りない」


「では。


 二十キロ」


「警備は?」


「双方で担当する」


 議論は。


 何度も止まった。


 それでも。


 少しずつ。


 形になっていく。


 そして。


 数週間後。


 一枚の合意書が。


 完成した。


 国境を越える。


 商業輸送の再開。


 まずは。


 限定された地域から。


 試験的に始める。


 ヴィクターは。


 署名された文書を見た。


「これが。


 最初の一歩か」


 若い参謀が。


 頷く。


「はい」


 盟友が。


 笑った。


「戦争中なら。


 考えられなかったな」


 ヴィクターは。


 答えなかった。


 ただ。


 窓の外を見た。


 国境の向こうから。


 トラックが一台。


 ゆっくりと入ってくる。


 武器ではない。


 食料を積んでいる。


 国境警備兵が。


 車両を確認する。


 問題はない。


 そのまま。


 トラックは。


 国内へ進んでいった。


 誰かが。


 拍手をした。


 大きな出来事ではない。


 歴史に残るような。


 華やかな式典でもない。


 ただ。


 一台のトラックが。


 国境を越えただけだった。


 しかし。


 ヴィクターには。


 それで十分だった。


 一方。


 日本では。


 別の動きが。


 静かに進んでいた。


 東方カンパニーの。


 経営会議。


「エネルギー以外の事業についてです」


 資料が。


 机に並べられる。


 通信。


 物流。


 素材。


 半導体関連。


 インフラ。


 復興地域で培った事業基盤を。


 別の地域にも広げる計画だった。


「エネルギーだけでは。


 成長に限界があります」


 経営陣の一人が。


 説明する。


「発電した電力を。


 誰が使うのか」


「工場です」


「工場を動かすのは?」


「人と物流です」


「物流を支えるのは?」


「道路。


 通信。


 金融。


 住宅です」


 話が。


 次々とつながっていく。


 東方カンパニーは。


 いつの間にか。


 一つのエネルギー企業では。


 なくなり始めていた。


 その資料は。


 投資会社「黒崎」にも届いた。


 四人のエキスパートが。


 内容を確認する。


「かなり広がりましたね」


「東方カンパニー自身が。


 次の事業を探し始めています」


「もう。


 こちらから細かく指示する必要もない」


 美咲が。


 資料を見る。


「黒崎さん。


 どうする?」


 黒崎は。


 最後のページまで目を通した。


「任せよう」


「それだけ?」


「ああ」


 黒崎は。


 資料を閉じた。


「自分たちで考えて。


 ここまで来たなら。


 もう口を出す必要はない」


 四人は。


 それ以上。


 何も聞かなかった。


 東方カンパニーは。


 次の投資先を探し。


 新しい企業と提携し。


 新しい土地へ進出していく。


 その資金の一部は。


 黒崎が。


 何年も前に置いたものだった。


 だが。


 今では。


 その金が。


 どこで。


 何を生み出しているのか。


 黒崎自身にも。


 すべては分からない。


 それでも。


 資本は。


 次の資本を呼んでいた。


 その夜。


 黒崎は。


 庭に出た。


 空を見上げる。


 星が見える。


「静かだな」


 美咲が。


 隣に立つ。


「都会より?」


「ああ」


「世界では。


 今日も色々起きてるみたいだけど」


「そうだろうな」


 黒崎は。


 笑った。


「俺には。


 ここで十分だ」


 遠くでは。


 虫の声がしている。


 その頃。


 ヴィクターは。


 国境近くの道路を見ていた。


 さっきのトラックが。


 遠くへ走っていく。


「一台だけか」


 盟友が言う。


「今はな」


 ヴィクターが。


 答える。


「でも。


 一台が通れば。


 次も通れる」


 若い参謀が。


 静かに頷く。


「次は。


 十台かもしれません」


「その次は?」


「もっと増えるでしょう」


 ヴィクターは。


 国境の向こうを見る。


 まだ。


 何も変わっていないように見える。


 だが。


 確かに。


 何かが動き始めていた。


 戦争で閉ざされた道が。


 一本。


 また一本と。


 開いていく。


 それは。


 武器よりも静かだった。


 けれど。


 国の未来を変えるには。


 十分な力を持っていた。

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