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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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見えない手

 国境を越えたところで。


 車列が速度を落とした。


 窓の外に。


 見慣れない街並みが流れていく。


 ヴィクターは。


 黙って外を見ていた。


 戦争が終わってから。


 初めて訪れる場所だった。


「緊張してるか?」


 盟友が。


 隣から聞く。


「してる」


 ヴィクターは。


 素直に答えた。


「意外だな」


「外交は。


 戦場より難しいかもしれない」


 前の席では。


 若い参謀が。


 資料を読み返している。


「相手も。


 こちらを警戒しています」


「当然だ」


 ヴィクターが答える。


「だから。


 余計なことは言わない」


「必要なことだけ?」


「ああ」


 車列が。


 政府庁舎の前で止まった。


 扉が開く。


 三人が。


 車から降りる。


 正面玄関には。


 相手国の政府関係者が。


 すでに待っていた。


 握手を交わす。


 笑顔はある。


 だが。


 誰も。


 完全には笑っていない。


「遠いところを。


 ありがとうございます」


「こちらこそ。


 受け入れていただいて。


 ありがとうございます」


 短い挨拶を終え。


 一行は。


 建物の中へ入った。


 会談は。


 予定通り始まった。


 最初に。


 相手側が口を開く。


「貴国は。


 今後。


 どのような外交を考えていますか?」


 ヴィクターは。


 少し間を置いた。


「まず。


 戦争をしないことです」


 相手が。


 黙る。


「我々から。


 他国へ攻め込むつもりはありません」


「専守防衛ですか?」


「そうです」


 盟友が。


 資料を開く。


「国境を守る。


 国民を守る。


 それ以上のことは。


 必要としていません」


 相手側の代表が。


 腕を組む。


「しかし。


 それだけで国を守れるでしょうか」


 ヴィクターは。


 否定しなかった。


「だから。


 話をしに来ました」


 若い参謀が。


 資料を差し出す。


「貿易。


 輸送。


 エネルギー。


 食料。


 いずれも。


 一国だけで安定させるのは難しい」


「互いに補う?」


「はい」


 相手は。


 資料に目を落とした。


 しばらく。


 沈黙が続く。


「我々も。


 同じ問題を抱えています」


 その言葉で。


 空気が。


 少しだけ変わった。


 それでも。


 すぐに握手をするほど。


 両国の関係は。


 簡単ではない。


 過去の戦闘。


 国境問題。


 失われた命。


 互いの国民に残る感情。


 それらが。


 まだ消えたわけではない。


 だから。


 ヴィクターは。


 急がなかった。


「今日。


 すべてを決める必要はありません」


 相手を見る。


「話せることから。


 一つずつ話しましょう」


 相手側の代表が。


 ゆっくり頷いた。


「分かりました」


 会談は。


 そこから本格的に始まった。


 一方。


 日本では。


 黒崎が。


 昼食を終えたところだった。


 スマートフォンに。


 一件の通知が入る。


『土地取得完了』


 黒崎は。


 画面を見る。


「……いつの間に」


 美咲が。


 向かいから覗く。


「また買ったの?」


「俺は。


 頼んでないぞ」


「じゃあ。


 四人ね」


 黒崎は。


 少し笑った。


 投資会社「黒崎」では。


 四人のエキスパートが。


 すでに動いていた。


 黒崎が。


 すべての案件を。


 直接探す必要はない。


 四人が。


 世界中から情報を集め。


 必要なら。


 自分たちで交渉まで進める。


 黒崎が。


 最後に判断する。


 それだけで。


 資本が動く。


 今回の土地も。


 黒崎が以前から。


 「面白い」と話していた地域だった。


 明確な指示は。


 出していない。


 それでも。


 四人は。


 先回りしていた。


「買ってよかったのか?」


 黒崎が聞く。


 不動産担当から。


 すぐに返事が来た。


『将来的に必要になる可能性が高いと判断しました』


 黒崎は。


 画面を見て。


「なるほど」


 それ以上。


 何も言わなかった。


 数か月後。


 その地域で。


 新しい物流計画が発表された。


 道路が整備される。


 企業が進出する。


 周辺の土地が。


 一斉に動き始めた。


 黒崎が買った土地にも。


 問い合わせが増える。


「売りますか?」


 美咲が聞く。


「いや」


「まだ?」


「ああ」


 黒崎は。


 窓の外を見る。


「この先。


 もっと必要になる」


 それだけだった。


 そして。


 黒崎が売らなかった土地を。


 別の企業が。


 さらに高い価格で欲しがる。


 銀行が。


 融資を増やす。


 企業が。


 新しい施設を建てる。


 その周辺に。


 別の企業が集まる。


 誰かが。


 最初に置いた資金を見て。


 次の資金を置く。


 その資金を見て。


 また別の誰かが動く。


 黒崎は。


 その流れを。


 止めようとはしなかった。


 むしろ。


 もう。


 止める必要がなかった。


 自分が直接動かなくても。


 資本が。


 次の場所を探している。


 その頃。


 ヴィクターたちの会談も。


 夜まで続いていた。


「国境を越える輸送路については?」


「条件があります」


「聞きましょう」


「軍事目的には。


 使用しないこと」


 ヴィクターは。


 盟友を見る。


 盟友が。


 頷いた。


「受け入れます」


 参謀が。


 すぐに記録する。


 次の議題へ進む。


 エネルギー。


 食料。


 人的交流。


 一つずつ。


 小さな合意を積み重ねる。


 大きな約束は。


 まだない。


 それでも。


 会談を終える頃には。


 最初より。


 互いの距離が。


 わずかに縮まっていた。


 建物を出る。


 夜の風が。


 ヴィクターの顔に当たる。


「どうだった?」


 盟友が聞く。


「悪くない」


「それだけ?」


「今は。


 それで十分だ」


 若い参謀が。


 後ろから言う。


「次につながる内容は。


 かなりあります」


 ヴィクターは。


 振り返った。


「じゃあ。


 次も来るか」


「もちろん」


 三人が。


 車へ向かう。


 同じ頃。


 日本では。


 黒崎が。


 畑の土をならしていた。


 スマートフォンには。


 新しい通知が届いている。


 また。


 四人からだった。


『追加案件について。


 判断をお願いします』


 黒崎は。


 画面を見た。


 そして。


 畑へ視線を戻す。


「明日でいいだろ」


 美咲が。


 笑う。


「世界が待ってくれる?」


「待たないだろ」


「じゃあ?」


 黒崎は。


 鍬を握った。


「四人がやる」


 美咲は。


 何も言わず。


 笑った。


 世界のどこかでは。


 国同士が。


 次の関係を作ろうとしている。


 別の場所では。


 資本が。


 次の産業を探している。


 ヴィクターたちは。


 一歩ずつ。


 国の外へ進み始めた。


 黒崎は。


 一歩も。


 動かなかった。


 それでも。


 黒崎の資本は。


 世界のどこかで。


 今日も。


 動いていた。

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