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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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資本の魔法

 黒崎が。


 田舎へ引っ込んでから。


 しばらく経った。


 子供たちも。


 いつの間にか。


 大きくなっていた。


 もう。


 親の手を借りなくても。


 自分の人生を歩いている。


 黒崎は。


 子供たちに。


 自分の仕事について。


 詳しく話したことがない。


 投資会社「黒崎」のことも。


 資産の規模も。


 ほとんど教えていなかった。


 ただ。


 子供たちも。


 何も知らないわけではない。


 ニュースを見れば。


 父親の名前が出ることがある。


『投資会社「黒崎」』


『東方カンパニー』


『海外企業への大型投資』


 そんな言葉を。


 時々。


 目にする。


「また父さんの名前出てるよ」


「そうか」


「何やってるの?」


「投資だろ」


「ふーん」


 それだけだった。


 子供たちは。


 自分のやりたいことに。


 夢中だった。


 朝早く家を出て。


 仕事をする。


 汗を流す。


 友人と過ごす。


 自分で選んだ人生を。


 歩いている。


 父親の世界には。


 興味がなかった。


 黒崎は。


 それでいいと思っていた。


 むしろ。


 嬉しかった。


 自分が築いたものに。


 子供たちまで。


 縛られる必要はない。


 それぞれが。


 自分の人生を。


 生きればいい。


 そして。


 黒崎自身も。


 今は。


 自分の好きなことをしていた。


 朝。


 畑に出る。


 昼。


 散歩する。


 時々。


 美咲と出かける。


 夜。


 二人で食事をする。


 静かな生活だった。


 だが。


 世界の方は。


 静かではなかった。


 投資会社「黒崎」は。


 今も動いている。


 会社を構成するのは。


 黒崎。


 美咲。


 そして。


 四人のエキスパート。


 六人だけだった。


 四人は。


 最初から集まっていたわけではない。


 黒崎が。


 投資を続ける中で。


 一人ずつ。


 見つけていった。


 企業分析に長けた者。


 海外市場に詳しい者。


 技術を見抜く者。


 土地と産業の流れを読む者。


 自分から黒崎を訪ねてきた者もいた。


 黒崎が。


 資料を見て。


「こいつは使える」


 そう思って声をかけた者もいた。


 四人に共通していたのは。


 肩書きではなく。


 黒崎と同じように。


 まだ見えていない未来を見る力だった。


 それだけで。


 十分だった。


 一般社員はいない。


 大きな部署もない。


 必要な仕事は。


 六人で分担する。


 それでも。


 扱う資本は。


 すでに。


 世界規模になっていた。


 ある日の朝。


 四人から。


 報告が届いた。


「半導体関連。


 新しい投資候補があります」


「技術面では。


 かなり有望です」


「不動産では。


 この地域に動きがあります」


「エネルギー分野では。


 東方カンパニーとの連携が進んでいます」


 黒崎は。


 資料を見る。


 美咲も。


 隣から目を通す。


「どう思う?」


 黒崎が聞く。


「進めていいと思います」


 四人のうち。


 一人が答えた。


 黒崎は。


 頷いた。


「じゃあ。


 任せる」


 それだけだった。


 数日後。


 投資が実行される。


 すると。


 奇妙なことが起きた。


 その企業へ。


 別の投資会社が。


 資金を入れ始める。


 銀行が。


 融資条件を見直す。


 大企業が。


 提携を申し込む。


 優秀な人材が。


 集まり始める。


 黒崎自身は。


 誰にも指示していない。


 ただ。


 資金を置いた。


 それだけだった。


 土地でも。


 同じことが起きていた。


 黒崎が。


 何年も前に買った土地。


 そこへ。


 工場計画が持ち上がる。


 道路が整備される。


 物流施設が建つ。


 周辺の土地価格が。


 上がっていく。


 黒崎が。


 開発を指示したわけではない。


 先に。


 土地を買っていた。


 ただ。


 それだけだった。


 資本が。


 別の資本を呼ぶ。


 企業が。


 別の企業を呼ぶ。


 土地が。


 新しい産業を呼ぶ。


 そして。


 産業が。


 さらに資本を生む。


 黒崎が。


 最初に置いた金が。


 次々と姿を変えながら。


 世界中を巡っていく。


 まるで。


 一度魔法をかければ。


 あとは。


 世界そのものが。


 動き始めるようだった。


 ある日。


 四人のエキスパートの一人が。


 報告した。


「黒崎さん。


 最近。


 こちらが動く前に。


 市場が反応しています」


「そうなのか?」


「ええ」


「黒崎が買うかもしれない」


 それだけで。


 企業を調べる人間が増える。


「黒崎が持っている」


 それだけで。


 土地を見る人間が増える。


 黒崎は。


 少し黙った。


 昔は。


 自分が動かなければ。


 何も始まらなかった。


 今は。


 違う。


 一歩動けば。


 誰かが反応する。


 その反応を見て。


 また別の誰かが動く。


 やがて。


 黒崎自身が。


 何もしなくても。


 資本が流れ始める。


「……面白いな」


 美咲が。


 隣で笑った。


「何が?」


「俺が。


 いなくても。


 動いてる」


「四人がいるからね」


「それだけじゃない」


 黒崎は。


 窓の外を見る。


「もう。


 俺たちが作った流れなんだろうな」


 美咲は。


 何も言わなかった。


 その日から。


 黒崎は。


 さらに表舞台から離れた。


 海外から。


 面会の依頼が来ても。


 必要なものだけ。


 四人が対応する。


 黒崎自身が。


 出向くことは。


 ほとんどなくなった。


 それでも。


 資本は。


 止まらない。


 企業が動く。


 土地が動く。


 技術が動く。


 新しい資金が。


 また流れ込む。


 やがて。


 金融業界の一部で。


 こんな言葉が。


 使われるようになった。


「黒崎が見ているらしい」


「なら。


 調べておこう」


「黒崎が持っている?」


「なら。


 将来性があるかもしれない」


 黒崎本人は。


 そんなことを。


 ほとんど知らない。


 その頃。


 田舎では。


 黒崎が。


 畑を耕していた。


「今日は。


 何する?」


 美咲が聞く。


「畑」


「昨日もやったじゃない」


「今日もやる」


 二人は。


 笑った。


 子供たちは。


 それぞれの場所で。


 自分のやりたいことに。


 汗を流している。


 ニュースに。


 父親の名前が出ても。


「また何かやってるな」


 その程度だった。


 それで。


 よかった。


 世界では。


 黒崎の資本が。


 新しい企業を育て。


 新しい土地を変え。


 新しい産業を生み出している。


 そして。


 その中心にいる男は。


 世界から離れ。


 静かな暮らしを。


 選んでいた。


 本人が。


 世界へ手を伸ばさなくても。


 世界の方から。


 黒崎の資本へ。


 手を伸ばしてくる。


 それは。


 まるで。


 魔法だった。


 そして。


 その魔法を使う男が。


 何もせず。


 田舎で暮らしていることこそ。


 黒崎が。


 「魔王」と呼ばれるようになる。


 その理由だった。

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