黒崎夫妻
五年が。
過ぎていた。
黒崎。
45歳。
滋賀は。
もう。
昔の姿を残していなかった。
企業が。
立ち並ぶ。
工場が。
動いている。
研究施設が。
建っている。
道路が。
整備されている。
鉄道も。
変わった。
人が。
集まっている。
かつて。
田畑が広がっていた場所に。
新しい街ができていた。
黒崎は。
その街を。
遠くから眺めていた。
「……大きくなったな」
黒崎が。
最初に土地を買った頃。
ここには。
何もなかった。
今では。
企業が土地を借り。
工場を建て。
人が働いている。
黒崎は。
土地を売らなかった。
持ち続けた。
そして。
企業へ貸した。
長期契約。
安定した賃料。
土地そのものの価値も。
上がっている。
不動産業界では。
黒崎恒一の名前を。
知らない人間は。
少なくなっていた。
だが。
黒崎は。
滋賀だけを見ていなかった。
机の上に。
新しい地図を広げる。
北海道。
九州。
その二つに。
印が付いている。
北海道。
半導体。
九州。
半導体。
そして。
その周辺に。
関連産業が。
集まり始めている。
「……次はここだな」
黒崎は。
土地の資料を見る。
工場用地。
物流施設。
研究施設。
関連企業。
従業員の住宅。
必要になる土地は。
いくらでもある。
黒崎は。
買う。
そして。
貸す。
売るつもりはない。
長期で。
企業に使ってもらう。
土地を持つ。
産業を呼ぶ。
企業が成長する。
地域が変わる。
その循環を。
黒崎は。
滋賀で経験していた。
だから。
次へ進む。
しかし。
今度は。
一人ではなかった。
「この土地。
少し高くない?」
美咲が。
資料を見ながら言った。
「そう思う?」
「うん」
黒崎が。
美咲を見る。
「理由は?」
「土地そのものはいい」
「でも?」
「周辺のインフラが。
まだ弱い」
美咲は。
別の資料を開いた。
「企業が来る前提なら。
将来的には価値が上がる」
「でも。
時間がかかる」
「その間の資金効率が悪い」
黒崎は。
少し考えた。
「なるほど」
美咲は。
昔から。
投資の仕事をしていた。
大学を出て。
投資会社へ入社。
企業分析。
財務分析。
市場分析。
投資判断。
それらを。
一通り経験していた。
しかも。
成績は良かった。
社内でも。
優秀な投資担当として。
知られていた。
黒崎が。
まだ会社員だった頃。
美咲は。
すでに。
金融の世界で働いていた。
その後。
二人が結婚した。
子供が生まれ。
美咲は。
家庭を優先するようになった。
仕事から。
一度離れた。
だが。
投資を見る目まで。
失ったわけではなかった。
子供たちが。
大きくなった。
上の子は。
大学生。
下の子は。
高校生。
以前ほど。
手がかからない。
「そろそろ。
戻ってもいいかな」
ある日。
美咲が言った。
「仕事?」
「うん」
「投資?」
「それしかないでしょ」
黒崎は。
笑った。
「確かに」
それから。
二人は。
一緒に投資をするようになった。
黒崎は。
土地を見る。
産業を見る。
十年後を見る。
美咲は。
企業を見る。
財務を見る。
リスクを見る。
そして。
二人で。
判断する。
「北海道。
半導体関連は?」
「面白い」
「九州は?」
「こっちは。
関連企業が多い」
「株は?」
「AIはまだ伸びる」
「宇宙は?」
「長期」
「防衛は?」
「技術の内製化が進むなら。
持っておきたい」
「半導体は?」
「土地と株。
両方」
投資の規模が。
大きくなっていく。
土地。
株。
企業。
研究開発。
設備投資。
二人の判断で。
資金が動いていく。
ある夜。
美咲が。
資料を机に置いた。
「このまま。
個人でやるの?」
黒崎は。
資料を見る。
「難しいな」
「でしょう?」
「管理も大変だ」
「税務も。
資産管理も。
投資判断も」
黒崎は。
しばらく考えた。
「会社にするか」
「うん」
美咲は。
すぐに答えた。
「私も。
もう一度。
本格的にやりたい」
「大丈夫か?」
「何が?」
「家庭と両立」
美咲は。
笑った。
「子供たちも。
もう大きいから」
「それに」
少し間を置いて。
「私。
投資の仕事。
嫌いじゃなかったから」
黒崎は。
頷いた。
「じゃあ。
二人でやろう」
会社名を。
考える。
「何にする?」
美咲が聞く。
黒崎は。
少し考えた。
「黒崎」
「そのまま?」
「ああ」
「分かりやすいね」
「俺たちの会社だから」
こうして。
投資会社。
黒崎。
が設立された。
黒崎恒一。
土地。
株。
美咲。
企業分析。
財務分析。
リスク管理。
二人の能力が。
一つになった。
黒崎は。
未来を見る。
美咲は。
その未来へ向かうための。
現実を見る。
それぞれの視点が。
重なっていく。
滋賀で。
築いた資産。
そこから生まれる。
莫大な賃料収入。
そして。
東方エネルギーを中心とした。
株式資産。
それらを基盤に。
北海道。
九州。
そして。
全国へ。
投資先が広がっていく。
家では。
何も変わらなかった。
東京郊外のマンション。
いつもの食卓。
子供たちとの会話。
休日。
家族で出かける。
黒崎も。
美咲も。
派手な生活を求めなかった。
ただ。
会社の規模だけが。
大きくなっていく。
土地を持つ。
企業へ貸す。
株を持つ。
成長する企業へ。
資本を入れる。
そして。
次の産業へ。
黒崎夫妻は。
静かに。
投資を続けた。
やがて。
不動産業界だけではなく。
金融業界でも。
その名前が。
知られるようになる。
「黒崎」
その名前は。
会社の名前になった。
そして。
少しずつ。
一つの投資会社を。
超えていくことになる。
だが。
この時の二人は。
まだ知らなかった。
自分たちが。
これから。
日本の先端産業に。
どれほどの資本を。
流し込むことになるのかを。




