地方自治
ヴィクター・ヘイル。
その名前が。
少しずつ。
国民の間に広がっていた。
だが。
本人は。
相変わらずだった。
朝。
政府庁舎へ行く。
資料を見る。
会議に出る。
そして。
地方から届いた報告に目を通す。
その日も。
一枚の報告書を。
手に取った。
「……またか」
道路の補修。
病院の予算。
学校の再建。
産業支援。
どれも。
地方自治体から。
中央政府へ申請が上がっている。
BAは。
書類をめくった。
「決定まで。
どれくらいかかってる?」
部下が答える。
「平均で。
三か月ほどです」
「三か月?」
「中央で審査する必要があります」
BAは。
報告書を見る。
「道路一本直すのに?」
「はい」
BAは。
黙った。
「それじゃ。
遅すぎる」
翌日。
BAは。
地方自治体の代表を。
政府庁舎へ集めた。
都市。
農村。
港町。
山間部。
さまざまな地域から。
代表者が集まった。
「率直に聞きたい」
BAが言う。
「何が一番困る?」
最初は。
誰も答えなかった。
だが。
一人が口を開いた。
「中央の許可です」
「何の?」
「道路です」
「病院です」
「学校です」
次々と。
声が上がる。
「予算が必要でも。
中央の承認を待たないといけない」
「地域の事情を説明しても。
書類だけで判断されます」
「災害が起きても。
決定が遅い」
BAは。
最後まで聞いた。
「自分たちで決められたら?」
代表者たちが。
顔を見合わせる。
「地方に。
一定の予算と権限を渡す」
「中央は。
最低限の基準だけ決める」
「その範囲なら。
地方が自分たちで決める」
静かだった。
だが。
会議室の空気が。
変わった。
「地方に。
そんな権限を?」
一人の幹部が言った。
「必要です」
BAは。
即答した。
「中央にいる俺たちより。
現場にいる人間の方が。
その街のことを知ってる」
「しかし。
地方に任せすぎれば。
国としてまとまりません」
「全部を同じにする必要はありません」
BAは。
地図を広げた。
「この国には。
都市もある」
「農村もある」
「港もある」
「山もある」
「同じ問題でも。
解決方法は違う」
BAは。
地図を指した。
「自分たちの街のことは。
自分たちで決める」
改革案が。
作られた。
地方自治体への。
財源移譲。
行政権限の移譲。
災害時の。
緊急予算権限。
地域産業への。
独自支援制度。
学校や医療についても。
地方の裁量を広げる。
そして。
BAは。
一つだけ。
明確にした。
「権限を渡すなら。
責任も渡す」
「地方に任せる。
だからといって。
何をしてもいいわけじゃない」
改革案には。
強力な監査制度が組み込まれた。
予算の公開。
入札の透明化。
独立監査。
不正の通報制度。
そして。
汚職への厳格な処分。
地方自治法が。
成立した。
それから。
数か月。
一つの報告が。
BAの机に届いた。
ある地方自治体で。
道路工事の入札をめぐり。
地方幹部が。
業者から金を受け取っていた。
しかも。
その幹部は。
革命の功労者だった。
戦争中。
兵士を率いた人物。
住民からの支持も。
決して低くない。
部下が。
慎重に説明する。
「証拠は揃っています」
「金銭の授受も確認済みです」
「本人も。
認めています」
BAは。
書類を読んだ。
しばらく。
何も言わなかった。
「……逮捕」
「はい」
部下が。
少し迷う。
「ですが。
この人物は――」
「功労者?」
「はい」
BAは。
顔を上げた。
「それが?」
部屋が。
静まり返る。
「戦争で国のために戦った」
「だから?」
「……」
「それと。
住民の金を盗んだことに。
何の関係がある?」
誰も。
答えられなかった。
BAは。
書類を机に置いた。
「革命の功績は。
犯罪の免許じゃない」
低い声だった。
「国のために戦った人間だから。
法を破っていいなら」
「この国に。
法なんて必要ない」
部下が。
姿勢を正す。
「逮捕の手続きを進めます」
「今すぐ」
「はい」
「それから」
BAが続ける。
「この人物の名前を。
隠すな」
「……公表するんですか?」
「ああ」
「地方の混乱を招く可能性があります」
「だからこそだ」
BAは。
まっすぐ答えた。
「地方自治は。
権力者を守る制度じゃない」
「住民を守る制度だ」
その日の夕方。
地方幹部の逮捕が。
発表された。
翌朝。
新聞の一面に。
大きく報じられた。
「革命功労者、汚職で逮捕」
街では。
驚きの声が上がった。
「本当に捕まえたのか」
「あの人を?」
「BAが?」
だが。
その後。
別の声も。
広がっていった。
「誰であっても。
同じなんだな」
「功労者でも。
許されない」
「それなら。
地方に任せても大丈夫かもしれない」
BAは。
記者会見に立った。
「地方に。
大きな権限を渡します」
「だからこそ。
その権限を使う人間には。
もっと大きな責任を求めます」
記者が聞く。
「功労者を逮捕したことについて。
政治的な影響は?」
BAは。
少しも迷わなかった。
「法を守ることに。
政治的な影響を考える必要がありますか?」
会場が。
静かになる。
「罪を犯したなら。
裁かれる」
「それだけです」
BAは。
それ以上。
説明しなかった。
地方自治。
それは。
中央の力を弱めることではない。
人々に。
自分たちの街を決める力を返すこと。
そして。
その力を持つ者が。
誰よりも法を守ること。
BAは。
それを徹底した。
数か月後。
地方を訪れたBAに。
一人の市長が言った。
「正直に言います」
「何ですか?」
「最初は。
怖かったんです」
「何が?」
「地方に権限が増えれば。
悪い人間も。
力を持つと思っていました」
BAは。
黙って聞いていた。
「でも。
あの事件を見て。
少し考えが変わりました」
「権限を持つ人間が。
法を破れば。
ちゃんと捕まる」
「それなら。
自分たちも。
責任を持ってやれる」
BAは。
小さく頷いた。
「それでいい」
その頃。
街の広場では。
人々がBAを待っていた。
「ヴィクター!」
「BA!」
声が重なる。
黒い髪。
青い瞳。
その姿を見つけた人々が。
次々と集まってくる。
かつて。
戦場で。
BAと呼ばれた男。
今は。
ヴィクター・ヘイルと呼ばれている。
その名前には。
新しい意味が加わっていた。
地方の声を聞く。
権限を返す。
そして。
権力者であっても。
法の前では特別扱いしない。
それが。
ヴィクター・ヘイルだった。
BAは。
集まった人々を見る。
そして。
いつものように。
静かに頭を下げた。
歓声が。
広場に響いた。
その声を聞きながら。
BAは。
また次の街へ向かった。
国を変える仕事に。
終わりはなかった。




