選挙
投票日。
朝。
まだ日が昇りきる前から。
投票所には。
人が集まっていた。
開場を待つ列が。
道路まで伸びている。
「こんなに早くから?」
「今日は特別だからな」
老人も。
若者も。
親子連れも。
仕事へ向かう前の人間も。
次々と列に加わっていく。
街のいたるところで。
選挙の話がされていた。
市場でも。
工場でも。
学校でも。
人々は。
候補者の政策について話していた。
「若い方に入れる」
「俺は継続だな」
「どっちが国を強くできる?」
「経済を開くなら改革派だろ」
意見は。
それぞれ違った。
それでも。
投票へ行くという一点だけは。
同じだった。
これまで。
三度の大統領選挙が行われた。
三回とも。
現職が勝利している。
しかし。
今回は。
その現職が立候補できない。
憲法によって。
大統領の四選が禁止されているからだ。
国民にとって。
初めての選択だった。
自分たちが。
これからの国を託す人間を。
直接選ぶ。
その意識が。
国中に広がっていた。
投票所が開く。
人々が。
一人ずつ中へ入っていく。
そして。
投票する。
昼を過ぎても。
列は途切れなかった。
夕方になっても。
投票所には。
多くの人が残っていた。
投票時間が終わる。
集計が始まった。
発表された投票率は。
九十パーセントを超えていた。
異例の高率だった。
選挙管理委員会の発表を。
国民が見守る。
「九十パーセント……」
街のテレビから。
数字が流れる。
驚きの声が上がる。
今回の選挙が。
それだけ特別だった。
BAも。
一票を投じた。
投票所を出ると。
外には。
多くの市民がいた。
「どうなるかな」
盟友が聞く。
BAは。
人々の姿を見る。
「分からない」
少し間を置いて。
「国民が決めることだ」
夜。
開票が進む。
テレビ画面には。
各地域の結果が。
次々と表示されていく。
「改革派が優勢!」
速報が流れる。
歓声が上がる地域もあった。
一方。
現職支持派の候補も。
強い。
特に。
地方では。
内政派の候補が票を伸ばしていた。
都市部では。
改革派が大きくリードする。
数字が。
何度も動いた。
深夜。
開票率が。
九十パーセントを超える。
それでも。
まだ確定しない。
BAは。
画面を見つめていた。
「まだ分からないな」
盟友が言う。
「ああ」
やがて。
最後の票が集計された。
画面が切り替わる。
「当選確実」
改革派候補。
その文字が。
画面いっぱいに表示された。
一瞬。
部屋が静かになった。
そして。
「勝った……」
盟友が呟いた。
BAは。
ゆっくり息を吐いた。
「これからだな」
その夜。
新大統領が。
国民に向けて演説した。
「この国を。
世界から孤立した国にはしません」
「外国との関係を深めます」
「投資を受け入れます」
「企業を育てます」
「そして。
国民が豊かに暮らせる国を作ります」
街では。
人々が演説を聞いていた。
歓声を上げる人もいれば。
静かに画面を見る人もいた。
選挙に敗れた候補も。
敗北を認めた。
「国民の判断を受け入れます」
現職大統領も。
新大統領への協力を表明した。
政権交代は。
大きな混乱なく進んだ。
翌日。
BAのもとへ。
一通の連絡が入った。
「大統領府からです」
BAは。
顔を上げた。
「俺に?」
「はい」
内容を確認する。
新大統領から。
面会の申し出だった。
BAは。
しばらく黙った。
自分は。
まだ地方行政の人間だ。
だが。
戦場を知っている。
復興も知っている。
そして。
市民の生活も知っている。
BAは。
立ち上がった。
「行く」
盟友が笑う。
「やっと動き出したな」
BAは。
何も答えなかった。
ただ。
窓の外を見る。
昨日までと。
同じ街。
同じ人々。
それでも。
国は。
今日から変わり始める。
33歳。
BAも。
その中心へ。
歩き始めていた。




