黒崎
黒崎。
40歳。
資産だけを見れば。
かつてとは。
まったく違う人間になっていた。
だが。
生活は。
何も変わっていなかった。
東京郊外の。
マンション。
結婚した頃から。
ずっと。
同じ場所に住んでいる。
朝。
黒崎は起きる。
リビングへ行く。
「おはよう」
美咲が言う。
「おはよう」
上の子は。
高校生。
下の子は。
中学生。
学校へ行く準備をしている。
普通の朝だった。
黒崎も。
普通に朝食を食べる。
資産が。
どれだけ増えても。
生活は変わらない。
東京郊外のマンション。
普通の車。
普通の食事。
それで十分だった。
しかし。
黒崎の資産運用は。
大きく変わっていた。
東方エネルギー。
そして。
不動産。
現在の黒崎を支えているのは。
この二つだった。
滋賀は。
すでに大きく変わっていた。
副首都として。
政府機能の移転が進み。
企業も。
数多く集まっている。
鉄道。
道路。
都市交通。
空港へのアクセス。
電力。
通信。
必要なインフラも。
整備された。
街は。
もう。
開発途中ではなかった。
一つの大きな都市として。
形になっている。
黒崎が。
早い時期から保有していた土地も。
すでに。
企業や商業施設などに。
利用されていた。
しかし。
黒崎は。
土地を売ってはいなかった。
所有者は。
今も。
黒崎だった。
企業に貸す。
建物を建ててもらう。
そして。
毎月。
賃料が入ってくる。
土地そのものの価値が上がる。
そのうえ。
賃料収入も入る。
黒崎にとって。
不動産は。
資産であると同時に。
安定した収入源になっていた。
東方エネルギーからの配当。
不動産からの賃料。
それだけでも。
生活には。
まったく困らない。
むしろ。
働く必要すらない。
それでも。
黒崎は。
投資をやめなかった。
夜。
自宅のリビング。
パソコンの画面には。
日本全国の地図が。
表示されている。
滋賀を見る。
黒崎は。
しばらく画面を眺めた。
もう。
十分だった。
政府が来た。
企業が来た。
人が増えた。
街が完成していった。
保有している土地も。
ほとんどが。
利用されている。
これ以上。
同じ場所に資金を集中させる必要はない。
黒崎は。
地図を動かした。
別の地域を見る。
港。
空港。
工業地帯。
再開発地域。
まだ。
大きな注目を浴びていない場所。
次の土地を。
探していた。
「……次はどこだ」
美咲が。
リビングに入ってくる。
「まだやってるの?」
「うん」
「滋賀は?」
「もう十分」
「じゃあ、次?」
「そう」
美咲は。
少し笑った。
「本当に好きね」
黒崎も。
少し笑った。
「面白いから」
それだけだった。
40歳。
黒崎は。
東方エネルギーの株式を持ち。
土地を所有し。
その土地を貸し。
安定した収入を得ていた。
資産を売らなくても。
金が入ってくる。
生活に困ることもない。
だからこそ。
黒崎は。
さらに先を見ることができた。
滋賀で得たものを。
次の土地へ。
そして。
また次の土地へ。
黒崎は。
静かに。
地図を拡大した。
不動産業界では。
すでに。
黒崎の名前を知らない人間は。
少なくなっていた。
だが。
本人は。
いつもと変わらない。
東京郊外のマンションで。
家族と暮らす。
普通の40歳だった。




