値段
翌朝。
黒崎は。
滋賀の地図を広げていた。
土地は。
もう買えない。
だから。
今は。
待つだけだった。
そんな時。
不動産会社から。
電話が入った。
「黒崎さん」
「はい」
「少し動きがあります」
「何が?」
「周辺の土地です」
「……土地?」
「買い付けが入り始めています」
黒崎は。
地図を見る。
「どこから?」
「企業です」
「いくつ?」
「まだ分かりません」
電話を切る。
黒崎は。
不動産情報を調べた。
昨日まで。
売りに出ていた土地が。
一つ。
また一つ。
消えている。
「……売れたか」
翌日。
さらに。
売り物件が減った。
その翌日。
また減った。
新しく出てきた土地には。
以前より高い価格が。
ついていた。
黒崎は。
数字を見つめる。
まだ。
大きな値上がりではない。
しかし。
流れが変わっている。
土地を欲しがる人間が。
増えている。
売る人間は。
減っている。
その結果。
少しずつ。
値段が上がっていく。
黒崎は。
自分の土地を見る。
売るつもりはない。
ただ。
評価額だけが。
増えていた。
「……面白い」
その頃。
東京。
政府の会議室。
数人の閣僚と。
各省庁の幹部が。
一つの資料を見ていた。
机の上には。
分厚い資料。
その表紙には。
計画の名称だけが。
書かれている。
「本当に進めるんですね」
「ああ」
「これまでの計画とは。
規模が違います」
「分かっている」
誰も。
軽い言葉を口にしなかった。
この決定は。
一つの工場を誘致するためのものではない。
産業。
交通。
電力。
物流。
住宅。
行政。
長い年月をかけて。
国の形そのものを。
変える可能性がある。
「……では」
責任者が。
資料を閉じた。
「この計画を正式に進める」
「はい」
その一言で。
長く検討されていた計画が。
動き始めた。
翌日。
関係する企業へ。
情報が流れた。
企業が動く。
不動産会社が動く。
土地を探す人間が増える。
そして。
土地の値段が。
動き始めた。
まだ。
世間は。
何も知らない。
黒崎も。
知らなかった。
ただ。
自分が買い集めた土地の周りで。
何かが。
大きく動き始めていた。




