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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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見えない計画

 滋賀の土地を。


 黒崎が買い始めてから。


 半年ほどが経った。


 半導体工場の候補地調査は。


 まだ続いている。


 正式な決定はない。


 それでも。


 周辺では。


 少しずつ人が増えていた。


 企業。


 行政。


 不動産業者。


 建設業者。


 物流関係者。


 それぞれが。


 それぞれの目的で。


 土地を見ていた。


 黒崎も。


 いつものように。


 地図を見ていた。


 工場候補地。


 道路。


 電力。


 水。


 物流。


 そして。


 自分が買った土地。


「……まだいけるな」


 黒崎は。


 新しい土地の資料を開いた。


 価格は。


 少し上がっている。


 それでも。


 まだ安い。


 黒崎は。


 購入を決めた。


 その日の夕方。


 スマートフォンが鳴った。


「はい」


「黒崎さんですか?」


 知らない男だった。


「そうですが」


「少し、お伝えしておきたいことがあります」


「何でしょう?」


「滋賀の土地ですが」


 男は。


 少し間を置いた。


「少し慎重になった方がいいですよ」


 黒崎は。


 黙った。


「何かあるんですか?」


「そういう意味ではありません」


「では?」


「……いろいろな人が見ていますから」


「誰が?」


 沈黙。


「それは、私からは言えません」


「そうですか」


「ただ」


 男が続ける。


「目立ちすぎない方がいい」


「忠告ですか?」


「そう受け取ってください」


 電話が切れた。


 黒崎は。


 スマートフォンを机に置いた。


 怖くはなかった。


 ただ。


 気になった。


 なぜ。


 自分の土地のことを知っている。


 そして。


 なぜ。


 わざわざ忠告してきたのか。


 黒崎は。


 地図を見る。


 滋賀。


 まだ。


 何もない。


 田畑。


 道路。


 水路。


 住宅。


 それだけだ。


「……何があるんだ?」


 黒崎は。


 そう呟いた。


 しかし。


 買うことはやめなかった。


 むしろ。


 もう一度。


 土地の情報を調べた。


 その頃。


 東京。


 一つの会議室で。


 数人の男たちが。


 地図を囲んでいた。


「現状では、東京への集中が限界に近い」


「災害時のリスクも高い」


「行政機能を一か所に集めすぎています」


 机の上には。


 日本地図がある。


「分散させる必要がある」


「問題は場所です」


 別の男が。


 資料をめくった。


「候補はいくつかあります」


「どこです?」


「関西圏に近い場所」


 地図を指す。


「滋賀です」


 部屋が。


 静かになった。


「理由は?」


「平地が多い」


「水もある」


「京都、大阪へのアクセスもいい」


「既存の交通網も使える」


「そして」


 別の資料が出される。


「大規模な土地を確保できる可能性があります」


 男たちが。


 地図を見る。


「ただし」


 一人が言った。


「まだ何も決まっていません」


「当然です」


「首都機能の移転など、簡単にはできない」


「国民への説明も必要になる」


「だから」


 年長の男が言った。


「今は言葉を変える」


「?」


「首都移転とは言わない」


 資料を閉じる。


「まずは、国家機能の分散」


「防災拠点」


「行政機能のバックアップ」


「産業拠点」


「企業誘致」


 一つずつ。


 言葉が並ぶ。


「それらを先に進める」


「そして」


 地図を見る。


「結果として、必要なら首都機能を移す」


 誰も。


 反対しなかった。


「企業の誘致を先に進めましょう」


「半導体工場の件は?」


「重要です」


「インフラ整備も同時に?」


「はい」


「道路」


「電力」


「水」


「通信」


 計画が。


 一つずつ積み上がっていく。


 まだ。


 誰にも公表されていない。


 国民も知らない。


 企業の多くも知らない。


 そして。


 黒崎も。


 知らない。


 その頃。


 黒崎は。


 自宅で。


 滋賀の土地を調べていた。


 新しい情報が入る。


 道路計画。


 電力設備。


 工場誘致。


 物流拠点。


 黒崎は。


 それらを並べてみた。


「……妙だな」


 一つ一つは。


 別々の話に見える。


 しかし。


 地図に重ねると。


 同じ場所に集まっている。


 黒崎は。


 画面を拡大する。


 工場。


 道路。


 物流。


 電力。


 水。


 住宅。


 すべてが。


 少しずつ。


 一つの地域に集まっていた。


「偶然か?」


 黒崎は。


 しばらく考えた。


 そして。


 結論を出した。


「まあ、いいか」


 まだ。


 工場すら決まっていない。


 だったら。


 今まで通り。


 価値があると思う土地を買う。


 それだけだった。


 翌日。


 黒崎は。


 また一つ。


 土地を買った。


 その土地が。


 後に。


 国家の重要施設が建つ場所になることを。


 この時の黒崎は。


 まだ知らない。


 そして。


 東京の会議室では。


 新しい資料が。


 机の上に置かれていた。


 表紙には。


 一行だけ。


 書かれている。


 ――国家機能分散計画。


 その計画の先にあるものを。


 まだ。


 誰も口にはしなかった。


 だが。


 地図の上では。


 すでに。


 一本の線が。


 東京から滋賀へ。


 静かに伸び始めていた。

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