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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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何もない場所

日本に戻ってから。


 黒崎は。


 いつものように投資先を探していた。


 そんなある日。


 一つの情報が入ってきた。


 半導体製造企業が。


 日本国内に新しい工場を建設するらしい。


 まだ正式発表前。


 候補地も。


 決まっていない。


 黒崎は資料を見る。


 半導体。


 大量の電力。


 大量の水。


 広い土地。


 物流。


 安定したインフラ。


 そして。


 働く人間。


「……工場か」


 黒崎は呟いた。


 その情報を教えてくれたのは。


 半導体業界に詳しい人物だった。


 業界の動きを追い続け。


 企業の設備投資にも詳しい。


 いわば。


 業界の情報通だった。


「まだ表には出てない話だ」


「どこから?」


「いろんなところから入ってくる」


「そうか」


「候補地はいくつかある」


 黒崎は。


 その話を聞きながら。


 地図を思い浮かべた。


 そして。


 一つの場所が頭に浮かんだ。


「滋賀は?」


「滋賀?」


「ああ」


 黒崎は地図を開いた。


「そういや」


 少し考えて。


「滋賀って、田んぼだらけだったなあ」


 琵琶湖。


 広い平地。


 農地。


 そして。


 豊富な水。


 黒崎は。


 資料を見直した。


「水はある」


 電力も引ける。


 大阪にも近い。


 京都にも近い。


 交通網もある。


 物流も組める。


 工場を建てる場所として。


 悪くない。


 むしろ。


「……結構いいな」


 情報通の男が。


 少し考える。


「確かに候補にはできる」


「企業側に伝えられるか?」


「直接は難しい」


「そうか」


「ただ」


 男が続ける。


「候補地を検討している人間に、話を入れることくらいならできる」


「それでいい」


 黒崎は答えた。


「滋賀という選択肢があると伝えてくれ」


「分かった」


 電話を切る。


 黒崎は。


 すぐに土地の調査を始めた。


 工場が来るなら。


 まとまった土地が必要になる。


 まず。


 候補地周辺の地図を確認する。


 道路。


 電力。


 水。


 物流。


 そして。


 土地の所有者。


 一枚の資料に。


 地権者の名前が並んでいた。


 一人。


 また一人。


 所有する土地の面積。


 場所。


 売却の意思。


 黒崎は。


 一つずつ確認していく。


 その途中だった。


「……ん?」


 ある名前に。


 黒崎の手が止まった。


 住所を見る。


 土地の位置を見る。


 昔の記憶と。


 地図が重なった。


「ここ……」


 黒崎は。


 もう一度確認した。


 間違いない。


 祖母が昔持っていた土地だった。


 幼い頃。


 何度か行った場所。


 田んぼの向こうに。


 小さな家があった。


 祖母が亡くなったあと。


 その土地は手放されていた。


 黒崎は。


 しばらく画面を見つめた。


 偶然だった。


 工場候補地を調べていなければ。


 もう一度見ることもなかった土地。


「……まだあるのか」


 現在の所有者を調べる。


 売却の意思もある。


 そして。


 その土地は。


 今回、黒崎が集めようとしている土地の近くにあった。


 黒崎は少し考えた。


 工場用地として見ても。


 悪くない。


 なら。


「……ついでに買うか」


 黒崎は。


 土地の所有者に連絡を取った。


 交渉が始まる。


 価格。


 条件。


 引き渡し。


 話を進める。


 そして。


 契約が成立した。


 祖母の土地が。


 黒崎の手元に戻った。


 だが。


 それだけでは終わらない。


 工場候補地の土地も。


 少しずつ買い進める。


 一人。


 また一人。


 所有者と話す。


 条件を提示する。


 断られる。


 別の土地を探す。


 また交渉する。


 簡単には進まない。


 それでも。


 少しずつ。


 土地がまとまっていく。


 黒崎は。


 その土地を眺めながら考えた。


 もし。


 半導体企業が滋賀を選べば。


 ここには工場ができる。


 電力が必要になる。


 水も必要になる。


 道路が整備される。


 物流が増える。


 関連企業が集まる。


 人が集まる。


 住宅ができる。


 学校ができる。


 病院も必要になる。


 ただ。


 一つの工場が建つだけではない。


 その周りに。


 新しい経済が生まれる。


 だが。


 企業が滋賀を選ぶ保証はない。


 もし選ばれなければ。


 買った土地は。


 ただの土地として残る。


 何十億。


 場合によっては。


 それ以上の金が動く。


 黒崎は。


 そのリスクを理解していた。


 それでも。


 買った。


「決まってからじゃ遅い」


 黒崎は。


 そう考えていた。


 数週間後。


 情報通から連絡が入った。


「滋賀を候補地として調査するらしい」


「そうか」


「現地にも人が入る」


「分かった」


 電話を切る。


 黒崎は。


 地図を見る。


 そこには。


 自分が買った土地が並んでいる。


 その中に。


 祖母から受け継がれ。


 やがて手放され。


 そして今。


 再び自分の手元に戻った土地がある。


 黒崎は。


 そこを指でなぞった。


「……妙な縁だな」


 少しだけ笑う。


 そして。


 視線を上げる。


 今は。


 ただの土地。


 田んぼ。


 道路。


 水路。


 何もない。


 だが。


 もし。


 ここに企業が集まったら。


 もし。


 人が集まったら。


 もし。


 新しい街ができたら。


 黒崎は。


 そこまで考えて。


 地図を畳んだ。


「……まだ、何も決まってない」


 それでも。


 黒崎は。


 また一つ。


 未来に金を置いた。


 その土地が。


 やがて。


 日本そのものを変える場所になるとは。


 この時の黒崎は。


 まだ知らなかった。

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