夢を追う者
東方エネルギーの株価は。
上がり続けていた。
それに伴って。
黒崎の資産も。
膨らんでいった。
そして。
信用余力も。
大きく増えていた。
普通なら。
ここで利益を確定する。
少し売って。
現金を残す。
リスクを下げる。
黒崎は。
逆だった。
増えた余力を。
さらに投資へ回した。
「……まだいける」
黒崎は。
次の銘柄を探した。
まず。
宇宙関連。
衛星。
ロケット。
宇宙通信。
資源探査。
まだ利益の出ていない企業も多い。
それでも。
黒崎は。
その先を見ていた。
次に。
核融合。
これは。
民間企業だけの話ではなかった。
各国が。
国家プロジェクトとして。
研究開発を推進している。
莫大な研究費。
実証炉の建設。
関連企業への支援。
まだ。
実用化には時間がかかる。
それでも。
もし実現すれば。
世界のエネルギー事情そのものが変わる。
黒崎は。
国の政策を見た。
予算を見る。
研究計画を見る。
そして。
その周辺企業へ。
資金を入れた。
さらに。
海水淡水化。
食料。
蓄電池。
次世代半導体。
地に足のついた技術から。
まだ夢に近い技術まで。
黒崎は。
次々と投資していった。
以前なら。
考えられなかった。
一つの株に。
全てを賭けていた男が。
今は。
いくつもの未来に。
金を賭けている。
しかし。
その根底にあるものは。
変わっていなかった。
金が増える。
数字が動く。
その瞬間だけ。
頭の中が静かになる。
過去を。
忘れられる。
だから。
もっと買う。
もっと増やす。
もっと賭ける。
黒崎は。
企業の決算だけではなく。
研究開発。
国家予算。
政策。
世界情勢。
資源価格。
あらゆるものを見るようになった。
眠る時間は。
さらに減った。
それでも。
投資をしている間だけは。
苦しくなかった。
そして。
黒崎の予想は。
次々と当たり始めた。
宇宙関連企業が。
大型契約を獲得する。
核融合では。
各国の研究開発が加速し。
政府による大型支援が発表される。
関連企業の株価が。
大きく動いた。
海水淡水化技術が。
水不足に悩む国々で採用される。
蓄電技術が。
世界的な需要を獲得する。
一つ。
また一つ。
黒崎が投資した企業の株価が。
上昇していった。
資産が。
増えていく。
数千万。
その次は。
億。
そして。
さらに。
黒崎は。
自分の資産額を見た。
「……」
以前なら。
想像すらできなかった数字だった。
だが。
黒崎は。
驚かなかった。
ただ。
笑った。
「ははははは……」
頭の中に。
昔の顔が浮かぶ。
父親。
母親。
友人。
元同僚。
自分から離れていった人間。
自分を見下した人間。
自分を哀れんだ人間。
次々と。
浮かんでは消える。
「……覚えてるぞ」
黒崎は。
笑いながら呟いた。
全部。
覚えている。
ただ。
親だけは。
違った。
憎い。
そう思うことはあっても。
本当は。
今でも愛情が残っていた。
だからこそ。
あの日の言葉が。
何よりも痛かった。
――もう知らん。
黒崎は。
目を閉じる。
そして。
また笑う。
「……親父」
寂しそうに。
呟いた。
だが。
すぐに。
別の顔が浮かぶ。
離れた者。
見下した者。
哀れんだ者。
黒崎の中で。
それらは。
もう。
すべて同じだった。
憎い。
許せない。
自分だけが。
あの地獄に取り残されたことが。
許せなかった。
そして。
極度の不眠と孤独。
長く続いた精神的な負荷。
それらが。
黒崎の感情を。
少しずつ歪めていた。
本当に。
あいつらは。
自分を見下していたのか。
本当に。
自分を哀れんでいたのか。
もう。
黒崎には。
確かめる必要などなかった。
そうだった。
そうに違いない。
「はははははははっ!」
黒崎は。
大声で笑った。
涙が。
頬を伝う。
「見てろよ……」
モニターに映る。
膨れ上がった資産。
「俺を誰だと思ってたんだ……」
笑いながら。
黒崎は。
次の投資先を探す。
もっと。
増やす。
もっと。
大きくする。
そして。
いつか。
自分を哀れんだ人間たちが。
自分を見上げる日が来る。
そう思うと。
また。
笑いが込み上げた。
「はははははははははっ!」
その笑いが。
憎しみなのか。
喜びなのか。
復讐心なのか。
もう。
黒崎自身にも分からない。
ただ。
壊れかけた心を。
金と数字で埋めるように。
黒崎は。
投資を続けた。




