隣に立つ者
戦闘から三日後。
反乱軍の拠点には、いつもより重い空気が漂っていた。
北部隊の敗走。
多くの負傷者。
そして、指揮官だった小隊長の判断ミス。
その報告は、すでに上層部まで届いていた。
「今回の判断について、どう考えている」
小隊長は将軍の前に立っていた。
「俺の判断ミスです」
「敵の誘導を見抜けなかった」
「はい」
「結果、部隊を危険に晒した」
「……はい」
将軍はしばらく黙っていた。
「責任を取ってもらう」
小隊長は顔を上げない。
「指揮官の任を解く」
「分かりました」
それだけだった。
部屋を出る。
廊下を歩いていると、兵士たちの声が聞こえた。
「小隊長、外されたらしいぞ」
「仕方ないだろ」
「でも、あの状況から逃げられたのはBAのおかげだろ?」
「……そうらしいな」
「18歳だろ?」
「ああ」
「すげえな」
小隊長は足を止めなかった。
少し離れたところにBAがいた。
数人の兵士に囲まれている。
「BA、次はどうする?」
「知らない」
「でも、敵がまた来たら?」
「そのとき考える」
「昨日もそれで当てたじゃないか」
「たまたまだ」
「またまた」
兵士たちが笑う。
BAは困ったような顔をしていた。
小隊長はその様子をしばらく見ていた。
以前とは違う。
兵士たちがBAを見る目が。
いつの間にか変わっている。
頼れる人間を見る目。
判断を待つ目。
小隊長は少しだけ苦笑した。
「……出世したな」
「何が?」
BAが振り返る。
「お前だよ」
「そう?」
「自覚ないのか」
「ない」
「そうか」
小隊長は壁にもたれた。
「俺、指揮官を外された」
「知ってる」
「聞いたのか?」
「さっき」
「そうか」
少し沈黙する。
「……悪かったな」
「何が?」
「この前のこと」
BAは小隊長を見る。
「判断を間違えた」
「そうだな」
あっさり返される。
「おい」
「事実だろ」
「もう少し慰めろよ」
「必要?」
「……いや」
小隊長は笑った。
BAは続ける。
「でも、あそこで逃げなかっただろ」
「部下が残ってたからな」
「それでいい」
「何が?」
「だから助けた」
小隊長は黙った。
「……そうか」
BAはその場を離れようとする。
「待て」
小隊長が呼び止める。
「これからどうする?」
「分からない」
「俺もだ」
二人の間に沈黙が落ちる。
小隊長は笑った。
「俺はもう、指揮官じゃない」
「知ってる」
「反乱軍にいても、前みたいには動けない」
「そうだな」
「……お前は?」
BAは少し考える。
「俺は変わらない」
「そうか」
小隊長が歩き出そうとした。
「待て」
BAの声。
小隊長が振り返る。
「何だ?」
BAは小隊長を真っ直ぐ見る。
「俺のところに来い」
小隊長が目を瞬かせる。
「……俺が?」
「ああ」
「俺は失敗したぞ」
「知ってる」
「指揮官でもない」
「それも知ってる」
「それでも?」
「お前が必要だ」
小隊長は黙った。
18歳の少年。
つい数日前まで、自分が守る側だと思っていた。
その少年が。
今は、自分を必要だと言っている。
「……随分、偉くなったな」
BAは答えない。
小隊長はBAを見る。
そして、少し笑った。




