三の矢
二の矢から数日。
連邦周辺では、緊張が高まっていた。
国境付近では武装勢力の活動が続いていたが、連邦軍は動かなかった。
ヴィクターは、何者かが連邦を戦争へ引きずり込もうとしていると考えていた。
だからこそ、軍には徹底して自制を命じていた。
しかし、その判断を試すように、新たな事件が起きた。
早朝。
連邦軍の基地に緊急警報が鳴り響いた。
「未確認の飛翔体です!」
「数は?」
「複数!」
レーダー画面に光点が現れる。
「進行方向は?」
「基地へ向かっています!」
直後、基地周辺で爆発が起きた。
大規模な攻撃ではなかった。
しかし、軍施設の一部が損傷し、複数の兵士が負傷した。
数分後。
「攻撃元を特定しろ!」
司令官が叫ぶ。
しかし、答えは返ってこなかった。
「発射地点を特定できません!」
「どういうことだ!」
「複数方向から発射されたようですが、情報が一致しません!」
そこへ別の報告が入る。
「議長府から緊急連絡です!」
ヴィクターのもとにも、すぐに情報が届いた。
「基地が攻撃された?」
「はい」
エリアスが答える。
「死者は?」
「現在確認中です。負傷者が複数出ています」
ヴィクターは黙っていた。
二の矢では、周辺国が攻撃された。
今回は、連邦そのものが攻撃された。
「発射元は?」
「まだ分かりません」
「武装勢力の声明は?」
「ありません」
ヴィクターが顔を上げる。
「声明がない?」
「はい」
エリアスも眉を寄せる。
普通なら、攻撃を行った勢力は何らかの声明を出す。
少なくとも、自分たちの存在を示そうとする。
しかし今回は、それがなかった。
「アランを呼べ」
しばらくして、アランが入ってきた。
「AIで攻撃の情報を解析してくれ」
「すでに始めています」
モニターに攻撃の映像が表示される。
「まず、発射された兵器についてですが、既存の武装勢力が使用しているものとは一致しません」
「つまり?」
「少なくとも、これまで確認されている武器とは違います」
アランは次の画面を表示した。
「さらに、攻撃のタイミングが不自然です」
「何がだ?」
「周辺国への襲撃事件から、ちょうど一定の間隔を置いています」
ヴィクターが画面を見る。
「計画的ということか?」
「可能性があります」
アランは続ける。
「そして、もう一つ」
画面に通信記録が表示された。
「攻撃の直前、世界各国の報道機関に一斉に情報が流れています」
エリアスが顔を上げた。
「またか」
「はい」
そこには、すでに公開されている記事が並んでいた。
『連邦軍基地が攻撃された』
『連邦への大規模攻撃か』
『連邦政府、報復を検討』
しかし、攻撃からまだ数分しか経っていない。
「……攻撃が起きる前から準備されていた?」
エリアスが呟く。
アランは答えなかった。
ただ、AIが表示した解析結果を見つめていた。
「攻撃そのものより、こちらの反応を利用することが目的だった可能性があります」
ヴィクターは椅子から立ち上がった。
「議会を招集する」
数時間後。
連邦議会は緊急招集された。
「我が国が攻撃された!」
「報復すべきだ!」
「これ以上、黙っているわけにはいかない!」
議員たちの声が飛び交う。
しかし、反対する議員もいた。
「発射元が分かっていない!」
「誰が攻撃したのかも分からないのに、どこを攻撃する?」
「それこそ相手の思うつぼだ!」
議場は完全に割れていた。
一人の議員が立ち上がる。
「議長!」
ヴィクターを見る。
「これが三度目です!」
議場が静かになる。
「アリア議長夫人が殺された」
「周辺国が攻撃された」
「そして今度は我々自身が攻撃された!」
議員の声が響く。
「これ以上、何を待つのですか!」
ヴィクターはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「犯人が分からない」
「しかし――」
「だからこそだ」
ヴィクターは議場を見渡した。
「ここで感情のままに攻撃すれば、我々は誰かが用意した道を歩くことになる」
議場が静まり返る。
「俺は、その道を歩かない」
その時、アランから緊急通信が入った。
ヴィクターが通信を開く。
「何だ?」
『ヴィクター、攻撃について新しい解析結果が出ました』
「話せ」
『発射された兵器の一部に、非常に特殊な技術が使われています』
「どこの技術だ?」
アランは少し沈黙した。
『まだ断定できません』
そして続ける。
『ただ、これまで確認された武装勢力の技術水準ではありません』
ヴィクターの表情が険しくなる。
「つまり、誰かが武器を与えた可能性がある」
『その可能性があります』
ヴィクターは通信を切った。
エリアスが静かに口を開く。
「三の矢……」
ヴィクターは答えなかった。
アリアの死。
周辺国への攻撃。
そして、連邦軍基地への攻撃。
偶然にしては出来すぎている。
誰かが連邦を怒らせようとしている。
そして、その目的はおそらく戦争だ。
ヴィクターは窓の外を見た。
「エリアス」
「はい」
「軍には防衛態勢だけ維持させろ」
「分かりました」
「そして、アランには徹底的に調べさせる」
ヴィクターは静かに続けた。
「この三つの事件をつないでいる人物を見つける」
その頃、アメリカのある施設では、別の報告が届いていた。
「連邦は、まだ動きません」
男はしばらく黙っていた。
「ヴィクターは本当に慎重だな」
「次はどうしますか?」
男は窓の外を見る。
「これで三度目だ」
「それでも動かなければ?」
男は答えなかった。
ただ、机の上に置かれた次の資料へ手を伸ばした。
そこには、連邦周辺国の地図が広げられていた。
そして、その中の一つに赤い印が付けられていた。
「次は……連邦が自分から動きたくなる場所だ」
静かな声だった。
だが、その言葉の先には、これまでとは比較にならない危険な計画が存在していた。




