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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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消された記憶

アリアの死から数日。

連邦情報機関では、事件の調査が続いていた。

膨大な映像記録と通信記録が解析され、会見当日の動きが一つずつ洗い出されていく。

しかし、調べれば調べるほど不可解な点が増えていた。

まず、会見会場周辺の警備体制。

通常の外交使節団に対する警備よりも厳重だったにもかかわらず、狙撃地点を事前に確保されていた。

さらに、犯人が会見会場周辺に現れたことを示す記録が、事件の直前まで残されていた。

ところが、事件後に一部の記録が消去されていた。


担当官が画面を見つめる。


「この時間帯だけ、記録が抜けています」


別の担当官が答える。


「削除された?」


「単なる欠損ではありません。意図的に消された形跡があります」


「誰が?」


「そこまでは分かりません」


担当官は別の画面を開いた。


「ただ、もう一つあります」


そこには、犯人の事件前の行動記録が表示されていた。


「事件の三日前、犯人がある人物と接触しています」


「身元は?」


「アメリカ人です」


「一般人か?」


担当官は首を横に振った。


「政府関係機関との接点があります」


室内が静かになった。


その頃。

ヴィクターのもとに、一本の電話が入った。


「ヴィクター議長ですか?」


「はい」


聞き覚えのある声だった。

アリアの父親だった。


「突然すまない。どうしても、あなたに伝えておきたいことがある」


「何でしょう」


少しの沈黙。


「アリアがアメリカへ行く前のことです」


ヴィクターは黙って聞いた。


「娘から、少し気になる話を聞いていました」


「気になる話?」


「今回の会談についてです」


父親の声が低くなる。


「アリアは、出発前にこう言っていました」


「今回の会談、どうも情報が漏れている気がする、と」


ヴィクターの表情が変わった。


「理由は?」


「はっきりとは分からないと言っていました。ただ、アメリカ側がこちらの動きを妙に把握しているように感じる、と」


ヴィクターは椅子に座り直した。


「他には?」


「会見場所についても、少し不自然だと言っていました」


「何がです?」


「予定していた場所から、直前になって変更されたそうです」


ヴィクターは黙った。


「アリアは、あなたに話そうか迷っていたようです」


父親は続けた。


「でも、停戦のために行くのだから、余計な心配をさせたくないと言っていました」


電話の向こうで、声が震える。


「……私は、あの子が帰ってくると思っていました」


ヴィクターは何も言えなかった。


「ヴィクターさん」


「はい」


「娘は、本当にただの暴漢に殺されたのでしょうか」


その言葉が、ヴィクターの胸に残った。


「……まだ分かりません」


ヴィクターは静かに答えた。


「ですが、必ず調べます」


電話が切れた。


しばらく、ヴィクターは動かなかった。

やがて机の上に置かれた事件資料へ目を向ける。

犯人と接触していた人物。

政府関係機関との接点。

消された記録。

そして、渡米前からアリアが感じていた違和感。

一つ一つは決定的な証拠ではない。

しかし――。


「……エリアス」


「はい」


「アリアの渡米前の行動を、最初から全部調べ直せ」


「何か分かったのですか?」


「まだ何も分からない」


ヴィクターは資料を閉じた。


「だが、偶然で片づけるには重なりすぎている」


その頃。

アランも独自に事件の解析を始めていた。


研究施設の一室。

大型モニターには、アリアの事件に関する膨大な情報が並んでいる。

会見映像。

衛星画像。

通信記録。

公開情報。

犯人の行動履歴。

そして、削除された記録の痕跡。


アランは画面を眺めながら、AIに指示を出していた。


「すべての情報を時系列で統合して」


AIが処理を開始する。


「犯人の移動経路、接触人物、資金の流れ。事件前三十日まで遡って」


画面上の情報が次々と整理されていく。


「さらに、アメリカ政府関係機関との間接的な接点も抽出」


数秒後。


一つの人物が候補として表示された。


アランの目が止まる。


「……もう一度」


AIが再計算する。


同じ人物が表示された。


その人物は表向きには政府関係の仕事に就いている。

しかし、過去の所属、移動記録、接触履歴を重ねると、複数の情報機関と接点を持っていた。


さらにAIが別の情報を表示する。


事件直前に消去された記録。

犯人との接触。

会見場所の変更。

そして、その人物の事件前後の移動。


すべてが一本の線でつながり始めていた。


「……偶然じゃない」


アランが呟く。


AIが新たな解析結果を表示した。


その人物の背後に、さらに別の組織との関連性が浮かび上がる。


しかし、決定的な名称までは出てこない。


アランはしばらく画面を見つめていた。


「この組織……」


その時、部屋の扉が開いた。


「アラン」


エリアスだった。


「何か分かったか?」


アランは振り返る。


「まだ確定ではありません」


「何が見つかった?」


アランは画面をエリアスへ向けた。


「犯人は単独で動いていない可能性が高いです」


エリアスの表情が変わる。


「そして、事件の背後にアメリカ政府関係機関とつながる人物がいる」


「証拠は?」


「まだ足りません」


アランは一度画面を閉じた。


「ですが、AIの解析では、複数の独立した情報が同じ一点を指しています」


エリアスが黙る。


「その先に何がある?」


アランは答えなかった。


ただ、画面に残された一つの組織情報を見つめていた。


「……もう少し調べれば、尻尾を掴めると思います」


その頃、ヴィクターは何も知らず、アリアの写真の前に立っていた。


まだ真実は見えていない。


しかし、確実に近づいていた。


そしてアランのAIは、消されたはずの記録の奥から、ある組織の存在を捉え始めていた。

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