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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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揺らぐ信頼

アリアが帰国してから三日が経っていた。

連邦政府の建物には、重苦しい空気が漂っていた。

ヴィクターは執務室に一人で座っていた。

机の上には、アリアの事件に関する報告書が置かれている。

犯人は拘束された。

しかし、動機については明確な説明がついていない。

そして何より、事件が起きた場所が問題だった。

アメリカ国内。

それも、連邦共和国の使節団が停戦を呼びかける公式会見の最中だった。


扉が開く。


「ヴィクター」


エリアスが入ってきた。


「捜査状況は?」


「アメリカ政府から正式な報告が届きました」


エリアスは資料を机に置く。


「犯人は単独犯とされています」


ヴィクターは資料を見る。


「単独犯?」


「はい。現在のところ、組織的な関与を示す証拠は確認されていないとのことです」


ヴィクターは黙っていた。


「納得できない」


エリアスが言う。


「私も同じです」


「公式会見だぞ」


ヴィクターの声が低くなる。


「警備も厳重だったはずだ。それなのに、使節団長が狙撃された」


「偶然にしては出来すぎています」


しばらく二人は黙っていた。

ヴィクターは窓の外を見る。

「アメリカ政府が本当に何も知らないのか」

エリアスは答えなかった。

それが、今の二人に共通する疑問だった。


その頃。

連邦議会では、緊急会議が開かれていた。

議場はこれまでにないほど騒然としていた。


「アリアを殺されたまま、何もしないつもりか!」


「アメリカ政府は説明責任を果たすべきだ!」


「停戦を呼びかけに行った人間が殺されたんだぞ!」


強硬派の議員が声を張り上げる。


「アメリカとの外交関係を見直すべきだ!」


一方で、別の議員が反論する。


「証拠もない段階でアメリカ政府の関与を断定するべきではない!」


「しかし、事件が起きたのはアメリカ国内だ!」


「だからこそ冷静になるべきだ!」


議場は二つに割れていた。

エリアスはその様子を黙って見ていた。

やがて、一人の議員が叫ぶ。


「ヴィクター議長!」


議場の視線が集まる。


「我々は、いつまで黙っているのですか!」


ヴィクターはしばらく何も言わなかった。

アリアの顔が脳裏に浮かぶ。

「必ず帰ってきます」

あの日、彼女はそう言った。

しかし、帰ってきたのは冷たくなった身体だった。

ヴィクターはゆっくりと立ち上がった。


「私は、アリアの死を無駄にはしない」


議場が静まる。


「だが、感情だけでアメリカと戦争を始めるつもりもない」


強硬派から声が飛ぶ。


「では、何をするのです!」


ヴィクターは答えた。


「真実を明らかにする」


その一言に、議場が静まり返る。


「誰がアリアを殺したのか」


ヴィクターは続けた。


「なぜ、停戦を呼びかける使節団が狙われたのか」


そして、低い声で言った。


「それを確認する」


エリアスが前へ出る。


「情報機関には、すでに調査を指示しています」


「アメリカ政府からの情報だけを待つな」


ヴィクターが言った。


「独自に調べろ」


「分かりました」


その日の夜。

連邦情報機関では、極秘の調査が始まった。

事件現場の映像。

犯人の経歴。

資金の流れ。

通信記録。

会見当日の警備体制。

あらゆる情報が集められていく。

そして、その中に一つだけ奇妙な記録があった。

犯人が事件の数日前に、ある人物と接触していた。

その人物の身元を確認すると――。

担当官の手が止まった。


「……これは」


画面に表示された情報。

アメリカ政府関係機関との接点。

さらに調査を進める。

しかし、その記録は途中で消されていた。


「誰が消した?」


誰も答えられなかった。


一方、ヴィクターは自宅に戻っていた。

部屋には、アリアの写真が飾られている。

ヴィクターはその前に立った。


「……アリア」


静かな部屋に、声だけが響く。


「必ず分からせる」


それが誰に向けた言葉なのか。

ヴィクター自身にも、まだ分からなかった。

ただ一つだけ確かなことがあった。

アリアの死によって、連邦とアメリカの関係は、もう以前のものには戻れなくなりつつあった。

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