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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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使節団

連邦議会での議論から数日後。

ヴィクターは、ある決断を下していた。


「アメリカに使節団を送る」


エリアスが顔を上げる。


「停戦の呼びかけですか?」


「ああ」


ヴィクターは頷いた。


「このまま戦火が広がれば、中東だけの問題ではなくなる。連邦として、できることはしておきたい」


そして、その使節団の団長に選ばれたのはアリアだった。


「私が?」


「アリアなら、アメリカとも話ができる」


ヴィクターは静かに答えた。


「君には、あの国とのつながりもある。今回の役目を頼みたい」


アリアはしばらく黙った。


「分かりました」


「無理はするな」


「あなたこそ」


アリアは微笑んだ。


「必ず帰ってきます」


その言葉を、ヴィクターは黙って聞いていた。


数時間後。

使節団を乗せた航空機は連邦を離れ、アメリカへ向かった。


目的は、アメリカ政府に停戦を呼びかけ、これ以上の戦火の拡大を防ぐことだった。


そして数日後。

アメリカ国内で、連邦政府使節団による公式会見が開かれた。


会場にはアメリカ政府関係者をはじめ、多数の報道関係者が集まっていた。


アリアは壇上に立った。


「連邦共和国は、現在の戦闘がこれ以上拡大することを望んでいません」


無数のカメラが向けられている。


「我々はアメリカを敵視しているわけではありません」


アリアは落ち着いた声で続けた。


「だからこそ、両国が直接対話することを求めます」


会場は静かだった。


「中東で起きている戦闘を、これ以上広げてはなりません」


その瞬間だった。


乾いた銃声が響いた。


一発。


会場が凍りつく。


アリアの身体が揺れた。


「団長!」


護衛が叫ぶ。


二発目の銃声。


警護担当者が一斉に動き、アリアの身体を庇う。


会場は一瞬にして混乱した。


「伏せろ!」


「狙撃だ!」


「医療班を!」


アリアは壇上で倒れていた。


会見は中断され、会場から人々が次々と避難させられる。


しかし、懸命な救命処置もむなしく――。


アリアが目を覚ますことはなかった。


事件は瞬く間に世界中へ報じられた。


アメリカ政府緊急声明


事件から数時間後。

アメリカ政府は緊急声明を発表した。


「本日、ワシントンで行われた連邦共和国使節団の会見中に発生した銃撃事件について、アメリカ政府は深い遺憾の意を表します」


声明では、事件を重大な犯罪行為と位置づけ、徹底した捜査を行う方針が示された。


「現時点で、犯行の動機や背後関係について確定した情報はありません」


「アメリカ政府は、連邦共和国政府と緊密に連携し、事件の全容解明に努めます」


しかし、世界各国の報道機関は事件を大きく報じた。


『停戦を呼びかけた連邦使節団長、公式会見中に狙撃』


『アメリカ国内で発生した異例の外交事件』


『連邦とアメリカの関係に重大な影響か』


そして、連邦政府にも第一報が届いた。


「……アリアが?」


ヴィクターは立ち上がった。


エリアスは言葉を失っていた。


「現在、アメリカ側から詳細な情報を確認しています」


「容体は?」


エリアスは目を伏せた。


「……亡くなりました」


ヴィクターは何も言わなかった。


数日前まで、自分は戦うべきか迷っていた。


過去の戦争で受けた傷。

アメリカへの遺恨。

それでも、戦争を避けるためにアリアを送り出した。


そのアリアが――。


「……そうか」


ヴィクターは、それだけを呟いた。


数日後。


アリアの遺体を乗せた航空機が、連邦へ帰国した。


到着した空港には、政府関係者が並んでいた。


ヴィクターも、その中にいた。


扉が開く。


棺が運び出される。


ヴィクターは一歩前へ出た。


しかし、棺の中からアリアが笑顔で現れることはない。


冷たくなった身体だけが、帰ってきた。


ヴィクターは棺に手を触れた。


「……おかえり」


それ以上の言葉は出なかった。


そして少し離れた場所には、ヌールが立っていた。


まだ幼い彼女には、母親がなぜ動かないのか理解できなかった。


「ママ……?」


誰も答えなかった。


ヴィクターはヌールを抱きしめる。


その腕の中で、ヌールは母親の名を何度も呼んだ。


ヴィクターは何も言えなかった。


ただ、冷たくなったアリアを前にして、静かに目を閉じた。


その胸の奥で、何かが変わり始めていた。

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