意見交換
アメリカ国内の混乱が続く中、政府では連日、対応策が協議されていた。
関税政策によって国外へ圧力をかけた。
しかし、その影響は国内にも跳ね返り、経済と社会の不安定化を招いている。
連邦との関係をさらに悪化させることも避けたい。
新安共和国への圧力も、東方カンパニーを通じて自国企業へ影響を及ぼす可能性がある。
政府内では、次の一手を慎重に探っていた。
「連邦政府との交渉は?」
「現在のところ、大きな進展はありません」
「新安共和国は?」
「同様です」
大統領は深く息を吐いた。
「東方カンパニーは?」
その名前が出た瞬間、室内の空気が変わった。
「……直接交渉を?」
「そうだ」
経済担当者が資料を開く。
「東方カンパニーは新安共和国の経済基盤に深く関与しています。エネルギー、製造、物流、技術、土地、人材……関係する分野は非常に広い」
「つまり、新安共和国だけを見ていても意味がない」
「はい」
「ならば、東方カンパニーと直接話す」
政府関係者の一人が慎重に口を開いた。
「しかし、東方カンパニーは国家ではありません」
「分かっている」
大統領は答えた。
「だからこそだ」
国家同士で交渉すれば、外交問題になる。
連邦や新安共和国を巻き込めば、さらに話が複雑になる。
ならば、その巨大な経済基盤を担っている企業と直接話す。
それがアメリカに残された一つの選択肢だった。
数日後。
東方カンパニーへ、一通の非公式な打診が届いた。
「アメリカ政府からです」
投資会社黒崎の執務室。
報告を受けた黒崎は、資料を手に取った。
「アメリカ政府?」
「はい。正式な外交ルートではありません」
黒崎は書面に目を通す。
「東方カンパニーとの意見交換を希望しているようです」
黒崎はしばらく黙っていた。
「国家が、一企業に直接話を持ってくるか」
専門家の一人が口を開く。
「それだけ追い込まれているとも考えられます」
「あるいは、こちらの反応を見たいだけかもしれない」
別の専門家が続ける。
「アメリカは依然として巨大な市場を持っています。こちらとしても無視できる相手ではありません」
黒崎は頷いた。
「分かっている」
そして書面を机へ置いた。
「東方カンパニー側と協議しよう」
「国家からの申し入れですが、黒崎さんが直接対応されますか?」
黒崎は首を横に振った。
「俺一人で決めることじゃない」
投資会社黒崎は、黒崎夫妻と四人の専門家によって重要事項を判断する。
そして東方カンパニーには、実際の経営を担う者たちがいる。
「東方カンパニーとして話を聞く」
黒崎はそう言った。
「ただし、こちらから譲歩することを前提にはするな」
「承知しました」
その頃、アメリカ側でも返答を待っていた。
「東方カンパニーから返事は?」
「まだです」
「そうか」
担当者は沈黙した。
アメリカにとって東方カンパニーは、単なる外国企業ではない。
新安共和国の経済基盤を支え、世界各地へ製品と技術を供給する巨大企業。
そして、その背後には黒崎という存在がいる。
一方、黒崎側から見れば、アメリカは今も巨大市場を持つ世界有数の大国だった。
互いに相手を必要としている。
だからこそ、簡単には譲れない。
数日後。
東方カンパニーから、ようやく返答が届いた。
「面会には応じる」
アメリカ側に安堵の表情が広がる。
しかし、その直後に続いた言葉を見て、担当者の表情が引き締まった。
「ただし、交渉ではなく、意見交換として」
アメリカ政府関係者は、その一文を何度も読み返した。
国家と企業。
これまでなら、考えられなかった組み合わせだった。
しかし今の世界では、それが現実になりつつある。
そして東方カンパニー側でも、アメリカとの面会に向けた準備が始まった。
黒崎は窓の外を眺めながら、静かに呟いた。
「さて……何を聞きに来るのかな」
その問いの答えを、まだ誰も知らなかった。




