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『東の魔王、西の勇者 ~普通のおっさんと少年ゲリラが世界を二分するまで~  作者: サラ男


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崩れ始める秩序

アメリカ各地で発生した抗議活動は、日を追うごとに拡大していった。

最初は一部の都市で始まったものだった。

しかし、ネットを通じて拡散された映像が人々の不満を刺激し、別の都市でも抗議活動が始まる。

やがて、その一部は暴徒化していった。


警察は各地へ部隊を投入した。

道路を封鎖し、政府関連施設を警備し、群衆の鎮静化を試みる。


しかし、対応する地域が増え続ければ、警察だけでは人員が足りない。


「こちら第七管区。応援部隊を要請する!」


「現在、対応可能な部隊がありません!」


「ならば州警察を回してくれ!」


通信が飛び交う。


ある都市では政府施設の周辺が封鎖され、別の都市では道路が占拠される。

商店が営業を取りやめ、公共交通機関にも影響が出始めていた。


そして、ついに政府へ一つの報告が入った。


「大統領、警察だけでは対応が困難です」


「どの程度だ?」


「複数の州で同時に大規模な混乱が発生しています。州警察を含めても人員が不足しています」


大統領は黙って報告書を見つめた。


「……軍への派遣要請を出します」


その言葉が、重く室内に響いた。


軍を国内の治安維持に投入する。


それは政府にとって、決して軽い判断ではなかった。


だが、選択肢が残されていなかった。


各地の警察から、相次いで支援要請が届く。


「軍への派遣要請を承認してください」


「こちらも同様です」


「複数都市で警察だけでは対応できません」


次々と届く報告。


政府はついに、軍の派遣準備を開始した。


そのニュースもまた、瞬く間に世界へ広がった。


「アメリカ政府、国内の混乱を受け軍の派遣を要請」


世界中のニュース番組が一斉に報じる。


連邦でも、その映像が流れていた。


ヴィクターは無言で画面を見つめていた。

隣ではアリアが息を呑んでいる。


「……軍まで出るの?」


アリアが呟く。


ヴィクターはしばらく答えなかった。


「警察だけでは抑えられなくなったということだ」


「ここまで大きくなるなんて……」


「経済政策への不満が、政府そのものへの不満に変わっている」


ヴィクターは静かに言った。


「そして、一度広がった不満は簡単には止まらない」


アリアは画面を見つめた。


そこには、アメリカ各地で混乱する街の映像が映し出されていた。


かつて世界の秩序を支えていた大国。


その国内で、今まさに秩序そのものが揺らいでいる。


一方、東方カンパニーでも状況は把握されていた。


黒崎は報告書を読み終えると、静かに口を開いた。


「……そこまで行ったか」


専門家の一人が答える。


「はい。関税政策を発端とした国内経済への不満が、政府への抗議へと変化しています」


「アメリカ自身も苦しいということだな」


「その可能性が高いです」


黒崎はしばらく考えた。


「こちらからは何もしない」


「はい」


「ただし、警戒は続けろ。アメリカが次に何をするか分からない」


「承知しました」


黒崎は再び資料へ目を落とした。


関税は、外国を締め付けるための政策だった。


しかし、その政策によって生じた負担は、巡り巡ってアメリカ国内にも跳ね返った。


経済を守るために打ち出した政策。


その政策が、国内の不満をさらに刺激する。


そしてついに、軍の派遣要請にまで至った。


世界は静かに、その光景を見つめていた。


だが――。


その夜、アメリカ政府の危機管理センターに、さらに新しい報告が届いた。


担当官の表情が変わる。


「……大統領」


「どうした?」


担当官は手にした資料を見つめたまま、しばらく言葉を失った。


「まだ確認中ですが……新たな動きが出ています」


「何の動きだ?」


担当官は答えられなかった。


画面には、次々と更新される各地の情報が表示されている。


そしてその中には、これまでとは明らかに違う内容が混じり始めていた。


アメリカ政府は、まだ知らなかった。


今回の混乱が、単なる経済政策への抗議では終わらない可能性があることを。


世界が固唾を呑んで見守る中、アメリカ国内で何かが静かに動き始めていた。

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