東方カンパニー社長訓示
東方カンパニーは、もともと地方の小さな穴掘り会社だった。
大きな資本があったわけでもない。
世界に名を知られた技術があったわけでもない。
我々が最初に持っていたのは、ただ一つ。
穴を掘る技術と、それを仕事として積み重ねてきた経験だった。
そこからビルの基礎工事を手掛け、トンネルを掘り、地下構造物を築き、やがて資源開発へと進んだ。
地面を掘る。
地下を知る。
そこに眠るものを見つける。
それが、現在の東方カンパニーへとつながる最初の一歩だった。
そして我々は、資源開発を起点としてエネルギー、製造、土地、物流、技術、人材と、事業領域を次々と広げてきた。
だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
一度は会社そのものが傾いた。
存続すら危ぶまれた時期もあった。
それでも、我々は立ち止まらなかった。
這い上がった。
そして現在、東方カンパニーは一つの分野だけを扱う企業ではない。
あらゆる産業を網羅する総合カンパニーへと成長した。
今や我々は、一国の政府と肩を並べ、一つの都市を統べるまでになった。
これは、決して偶然ではない。
ここにいる一人ひとりが、それぞれの場所で仕事を積み重ねてきた結果だ。
だからこそ、私は皆さんに伝えたい。
我々は、ここで満足するためにここまで来たのではない。
地方の小さな穴掘り会社だった我々が、ここまで来た。
ならば、その先へ進むことができる。
これから世界は、これまで以上の速さで変わっていく。
新しい技術が生まれ、新しい産業が生まれ、これまで存在しなかった市場も生まれるだろう。
その変化を恐れる必要はない。
我々自身が、その変化を生み出す側に立てばいい。
東方カンパニーは、これからも歩みを止めない。
各自が己の責任を果たし、自らの仕事に誇りを持ってほしい。
そして、今日より明日、明日よりその先へ。
東方カンパニーを、さらに大きくしていこう。
諸君の健闘を期待する。
以上。
その頃、同じ東方カンパニーの研究施設では、別の歴史が始まろうとしていた。
地球エネルギー研究部門。
そこで長年続けられてきた研究が、一つの結果を出した。
研究員たちは、目の前のデータを何度も確認していた。
「……間違いない」
誰かが、そう呟いた。
地球エネルギーは、単なる新しい発電方法ではなかった。
条件を整えれば、地球そのものから継続的にエネルギーを取り出すことができる。
エネルギーを生み出すために、燃料を必要としない。
燃料を消費するのではなく、星そのものをエネルギー源とする。
研究員の一人が、震える声で言った。
「半永久機関……」
その言葉に、室内の誰も返事をしなかった。
もしこの研究が完成すれば、人類のエネルギーという概念そのものが変わる。
石油も、石炭も、天然ガスも、核燃料も必要としない。
地球が存在する限り、エネルギーを取り出し続けられる。
それは人類にとって夢の技術だった。
同時に――
あまりにも巨大な力だった。
「……悪魔の研究だな」
誰かが、ぽつりと言った。
地球という星そのものをエネルギー源として利用する。
それが何を意味するのか。
まだ誰にも分からない。
ただ一つ確かなことがある。
この日、東方カンパニーは新たな段階へ踏み込んだ。
社長が社員たちに未来を語っていた、その同じ時間。
地下深くの研究施設では、人類の未来そのものを変えてしまうかもしれない技術が、静かに産声を上げていた。




