消滅
対消滅爆弾。
それは発射された。
そして――約一年後。
研究施設の最深部。
ヴィクター、エリアス、アランの三人は、巨大なモニターを黙って見つめていた。
画面に映っているのは、遠く離れた宇宙空間。その先には、今回の実証対象となる小惑星が映し出されている。
アランが時計を確認する。
「もうすぐです」
誰も答えない。
「小惑星帯に到着しました。目標まで、あと十分です」
その言葉と同時に、画面の隅に数字が表示された。
【10:00】
室内の空気が変わった。
一年。
この日のために費やされた時間が、わずか十分間に凝縮されていく。
ヴィクターは腕を組んだまま、画面を見つめている。
エリアスも身じろぎ一つしない。
アランだけが観測データを確認していた。
【09:00】
「……」
誰も話さない。
【07:00】
モニターに映る小惑星が、徐々に大きくなっていく。
エリアスが小さく息を吐いた。
「本当に……あれを消すのか」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
アランは答えなかった。
【05:00】
残り五分。
ヴィクターが時計を見る。
「アラン」
「はい」
「中止できるのは、いつまでだ?」
「最終確認が終わるまでです」
アランは画面から目を離さない。
「ですが、現在すべての条件は正常です」
ヴィクターはそれ以上、何も言わなかった。
【03:00】
室内の空気がさらに重くなる。
エリアスは椅子の背もたれから身体を起こした。
三人の視線が、モニターへ集中する。
【02:00】
「……あと二分」
アランの声が響く。
ヴィクターは無言。
エリアスも無言。
そして――
【01:00】
残り一分。
誰も言葉を発しない。
画面に映る小惑星。
巨大な岩塊。
それが、一分後にはどうなるのか。
ヴィクターはゆっくりと息を吸った。
「……始まるな」
アランは答えなかった。
【00:30】
三十秒。
心臓の鼓動だけが、やけに大きく聞こえる。
【00:20】
二十秒。
エリアスが画面を見つめる。
【00:10】
十秒。
アランが静かに告げる。
「最終カウントに入ります」
【00:09】
「九」
【00:08】
「八」
【00:07】
「七」
【00:06】
「六」
ヴィクターが無意識に息を止める。
【00:05】
「五」
エリアスの指がわずかに動いた。
【00:04】
「四」
誰も動かない。
【00:03】
「三」
アランの声が、静かな室内に響く。
【00:02】
「二」
ヴィクターとエリアスが、画面を見つめる。
【00:01】
「一」
一瞬。
世界から音が消えたような感覚。
【00:00】
「接触」
アランが呟いた。
次の瞬間――
画面いっぱいに、小惑星が映し出されていた。
そして、光が走った。
爆発。
そう表現するには、あまりにも異質だった。
小惑星が砕け散ったのではない。
そこに存在していた物体そのものが、まるで最初から存在しなかったかのように消えていく。
ほんの一瞬。
巨大な小惑星が、その姿を失った。
「……」
誰も言葉を発しなかった。
ヴィクターも、エリアスも、ただ画面を見つめている。
アランですら、しばらく何も言わなかった。
やがて、エリアスがかすかに呟く。
「あの大きさが……一瞬で……」
その言葉の続きを、誰も口にできなかった。
ヴィクターがゆっくりと椅子に腰を下ろす。
「……これは」
言葉が続かない。
アランは観測データを確認していた。
次々と表示される数値を、一つずつ確認していく。
「地球側の観測に異常なし」
アランの声だけが、静かな室内に響いた。
「現在まで、想定外の影響は確認されていません」
三人は再び画面を見る。
そこには、もう何もなかった。
つい先ほどまで巨大な小惑星が存在していた場所。
そこだけが、静かな宇宙になっていた。
長い沈黙の後、ヴィクターが口を開いた。
「……これは地球内では使ってはいけないな」
エリアスも答えなかった。
ただ、静かに頷いた。
アランは画面を見つめながら、小さく息を吐いた。
「ええ」
その声には、いつもの軽さがなかった。
「これを使えば、地球そのものがどうなるか……想像したくありませんね」
三人は再び沈黙した。
一年かけて行われた実証は、終わった。
そして彼らは、世界を変えてしまうほどの力が、本当に存在することを自分たちの目で確認した。




