最高機密
実証を数日後に控えた夜。
研究施設の最深部にある会議室には、ヴィクター、エリアス、アランの三人だけが集まっていた。室内には余計なものは何もない。壁面の大型モニターに映し出されているのは、今回の実証計画と、その影響を予測した膨大なデータだけだった。
アランが立ち上がる。
「最終確認を行います」
ヴィクターとエリアスが画面を見る。
「今回の実証は一度だけです。目的は、対消滅爆弾の存在と理論上の威力を確認すること。そして、実証によって生じる影響を可能な限り正確に記録することです」
「まず、地球への影響だ」
ヴィクターが口を開く。
「最優先事項です」
アランが即答する。
「実証地点は地球圏外。地球環境に直接的な影響を与えない条件で行います」
「だが、宇宙で起きたことが地球に何の影響も与えないと断言できるのか?」
エリアスが続ける。
アランは少し間を置いた。
「断言はできません。だからこそ、実証前後で地球側の観測を継続します」
ヴィクターが頷いた。
「つまり、破壊そのものだけを見るのではなく、その後まで確認する」
「はい」
アランは画面を切り替えた。
「次に、想定外の現象が発生していないか」
画面には複数の観測項目が並んでいる。
「エネルギー反応、周辺空間の変化、対象天体の変化。そして実証後の長期的な変化まで確認します」
「長期的な変化?」
エリアスが眉を寄せる。
「はい。今回の実証は、爆発した瞬間だけを確認して終わりではありません」
アランの声が少し低くなる。
「時間を置いて発生する影響がないか。それも確認する必要があります」
ヴィクターが腕を組んだ。
「次だ」
「情報管理です」
アランが答える。
「今回の実証を知る人間は、極限まで限定します」
「当然だ。もしこの兵器の存在が世界に知られれば、各国の安全保障そのものが変わる」
エリアスが静かに口を開く。
「その通りです」
アランが頷く。
「そして、実証結果を知るのは我々三人と、必要最低限の技術担当者だけにする」
ヴィクターが続けた。
「記録も同様です」
アランが答える。
「では、最後に一番重要なことを確認しよう」
エリアスが資料を見つめる。
「この兵器を、今後どうする?」
室内に沈黙が落ちた。
アランがゆっくりと答える。
「実証が成功したとしても、使用を前提にはしません」
「当然だ」
ヴィクターも頷いた。
「むしろ、実証によって威力と危険性が確認されれば、管理はさらに厳しくする必要があります」
アランが続ける。
「つまり、今回確認するのは『どれだけ強いか』だけではない」
エリアスが言う。
「はい」
アランが答えた。
「『どれだけ危険なのか』を確認することも目的です」
ヴィクターは資料を閉じた。
「よし。整理しよう」
ヴィクターが指を一本立てる。
「第一。実証が計画通りに終了すること」
二本目。
「第二。地球への影響が発生していないこと」
三本目。
「第三。予測していなかった現象が発生していないこと」
エリアスが続ける。
「第四。実証後も観測を継続し、時間差で発生する影響がないことを確認する」
アランが最後を引き取った。
「第五。実証結果を三人が直接確認し、国家最高機密として管理すること」
三人は黙って頷いた。
しばらくして、エリアスが小さく呟いた。
「……世界を変えられるほどの力を、人間が手にしてしまったわけか」
ヴィクターは答えなかった。アランだけが画面に映るデータを見つめていた。
「だからこそ、最初の一度が重要なんです」
会議が終わり、研究施設の廊下に出る。アランは一人で歩いていた。少し先にエレンがいる。
「エレン」
「はい?」
アランは足を止めた。
「これは、少しやりすぎたかな」
エレンは少しだけアランを見る。
「あなた、どうせ止まらないでしょう」
「……それもそうだねぇ」
アランは苦笑した。
そして、閉ざされた研究室の扉へ視線を向ける。
「でも……子供達に有用であってほしいなぁ」
エレンは何も答えなかった。ただ、アランの隣に並んで歩き始めた。
二人の背後で、研究施設の照明が静かに消えていった。




